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どちらでもないもの  作者: 林公一
『DOW』
10/11

索敵、そして発見

探知ソーニ


 呟きと共に、魔力の波紋が花梨を中心に薄く広がる。半径十キロ圏内の魔力を探る魔法だ。

 目を閉じて集中し、圏内にいる魔力反応の大きさを確認していく花梨。

 しかしそのどれもが程度はあれど、危険視するレベルにない大きさの魔力だった。どうやらこの近くにはいないらしい。


「ここはハズレよ、お兄ちゃん。十キロずつ飛びながら秋を拾いましょう」


「そうか」


 A地区の面積は222k㎡余り。よって索敵するにしても、最高で二十一回は探知を使う必要がある。が、余程のことがない限りはそんな最高数を引き当てることは無いだろう。

 空中にいる可能性もあるが、流石にそれを見落とすほど紫苑達も間抜けではない。近くにいれば気配でわかる。

 それは探知を使うにしても同じことだ。一度索敵してしまえば、その範囲内にはいないということなので、仮に目標が移動していたとしても強い魔力反応を残しておけばそこに入ることは無い。

 徒党を組んで侵略してくるようなを持つ魔物が、わざわざ強いとわかっている者相手に挑む理由は無いからだ。

 誰だって命は惜しい。理屈ではない。本能で相手の強さを感じ取るのが野生というものだ。

 故に紫苑は魔法を放つ。それこそ辺り一面を焦土に変えるレベルの、弩級の魔法を。


 ただ、腕を振り落とす。


 それだけの動作だ。たったそれだけの動作でも、空間が歪むほどの莫大な魔力を込めれば、それは核兵器すら悠々と超える破壊を生む。

 地表が捲れ上がる。コンクリートが融解する。炎が全てを灰燼へと還し、強烈な閃光と爆発で視界を埋め尽くした。

 花梨が全力で防壁を張ったとしても、容易くそれを打ち砕いて骨も残さず消し飛ばすであろうその名も無き魔法の正体は、ドラゴンが日常的・・・に使っていた、ただ魔力を込めただけのパンチである。

 通称『竜の一撃(ドラゴンインパクト)』。このたった一つをとっただけでも、竜種ドラゴンという種族の危険度をランクS以上へと押し上げる。

 そこにいるだけで天災と成り得るのだ。知能を持った天災程脅威になるものは無い。

 ランクSと出会えば即死。気配を感じたら撤退以外を考えるな。それが『DOW』での鉄則である。

 『DOW』ではモンスター種により六つにランク付けがなされる。最低であるランクEならば、訓練兵が三人もいれば安定して殺せる。Dを一人で倒せるようになれば晴れて一人前。Cからはかなり危険度が高まる。ここがボーダーラインとも言えるだろう。

 Bからはかなり発達した知能を持つ個体が多くなる。人智を超える力を持つモンスターが、人以上の知能を持っているとすれば、それだけで恐怖がわかるだろう。

 A以上ともなれば熟練者でも死が身近な存在になる。その最上級がSランクに当たるのだ。

 尤も、現在に至るまでSランクの目撃情報は片手の指にも満たないのだが。

 そんな狂気に満ちた破壊に巻き込まれた花梨はといえば、結論から言えばピンピンしていた。

 同じく、紫苑による魔力結界が展開されており、加えて自身での全開防御。これにより花梨はその命を散らさずに済んでいた。

 逆に言えば、それだけやらなければ花梨は塵と化していたのだが。

 ともあれ、これでこの一帯に魔物が近寄ることは無くなった。暴力的な魔力の残滓が残っている限りは、そこに近寄ろうとする愚か者はそうそういない。

 増してランクがD、高くてもC程度の亜人種ならば尚更である。


「行くぞ」


「うん」


 漆黒の翼を広げて空へと飛び立つ紫苑とその背に乗った花梨は、また新たな地点を目指して飛翔する。

 秋がいるところまでは後三回程探知が出来るだろう。それまでに目標を発見する事が出来れば御の字だ。






 紫苑の眼科で、灰色の山に座りながら手を振る秋の姿が見える。先ほど別れるまでは無かったはずの山に。――否、山ではない。

 それは干からびた亜人種の残骸。あらゆる体液を吸われ、無惨な姿へと変わり果てた魔物の死体が積み上げられたものだった。

 それを作り上げた張本人は何食わぬ顔で語りかける。


「また派手なのをぶっぱなしてましたねぇ。ここまで響いてきましたよぉ?」


「巻き込まれていないようで残念だ。で、お前が殺した奴らのなかに大物はいたか?」


「いたらあなたも気づくでしょぉ? 全部雑魚でしたよぉ。数はいたのでそこそこ満足ですけどぉ」


 秋の言い分は尤もだ。他と違う気配が近くにあれば嫌でも気づく。それが無かったのだから、秋が倒した中にはいないのは自明の理なのだ。

 腰に下げたポーチから携帯食料を取り出して、それを口に放る秋。見た目の割には腹持ちのする良い食べ物だ。味の方もそれなりである。

 むぐむぐと咀嚼しながら秋は続ける。


「ただ、この子の反応的に近くにはいると思いますよぉ。あなた達が馬鹿みたいに大きな魔力を放出するから逃げてきたんでしょうねぇ」


 秋は柄をトンと叩いて明後日の方向を見る。その方向が血桜の示す方向なのだろう。


「……捕捉した。秋の言う通りね。正確には血桜のおかげだけど」


 花梨もそれに同意する。探知に引っかかったのだろう。これで確定した。


「魔物の血を求める性質から、大雑把な位置なら感知出来ますからねぇ。無機質系のは無理ですけどぉ」


 ヘラヘラと笑いながら秋は言う。

 『DOW』が発足される一年前、紫苑を除いた当時の機関の最大戦力であった秋は、まだ『2nd』ではなかった。

 その要因に薬が完成していなかったことと、注入するための魔力が無かったことの二つが挙げられる。

 その間は紫苑が一人で魔物狩りを行っていたのだが、ここにとある技術を試験的に導入することになった。

 題目は『魔力を宿したものであれば魔物に対して有効打になるのではないか』ということ。

 果たしてその目論見は上手くいった。

 魔力を宿したものは何も魔物だけではなく、そこらに落ちている異界産の鉱石や昆虫等がある。色々試した結果として生まれたのが『魔刀・鉄山』。現在の魔武具の鋳型だ。

 元々秋には対魔物戦闘術を教え込んでいた。紫苑と出会った時にオークから逃げられていたのもそのおかげである。

 いくら底辺レベルの魔物といえど、普通の人間とは一線を画す運動能力がある。それから逃げることが出来ているという時点で、既にある程度の基盤は出来ているということになるのだ。

 そんな人間として最高レベルの身体能力を持った秋と、『間人』となった紫苑が戦場に出た時の成果は圧巻の一言。そこからの一年の進歩は、この二人無くして有り得なかっただろうことは想像に難くない。

 作られた魔武具は数知れず。その中でも最も手のかかった武器が『血桜』だ。

 素材は柄を除いて魔物の血のみ。この刀一振りを作るだけで、どれ程の魔物を贄に捧げたか数えるのも億劫だ。

 魔物を狩っては血を集め、それを組織に持ち帰って開発部に頼んで圧縮。ひたすらこれの繰り返しであった。

 純度の高い魔力程、圧縮した時の減少値が少ない。粗雑なEランクの魔物だけでは、百千と集めても小石一つ分にもならないなんてことはザラにある。

 そんな折、幸か不幸か吸血鬼ヴァンパイアが出現したとの情報が出た。文句無しのランクS魔物。その特性は『不死』。

 竜種に比べれば与える被害は少ない。しかしそれはあくまで地形に対する評価であり、血を持つものであれば根絶やしにする勢いでその身を喰らうという点において、これ程人類に脅威な存在もいなかった。

 闇であれば何度でも蘇る、ある意味でドラゴンすら超える強さを持ったのが吸血鬼という種族である。

 と、今でこそこの情報があるものの、当時見た事もない魔物の特性を詳細に知ることは叶わず、紫苑と秋はいつものように討伐へ向かった。

 結果として生きてはいるものの、辛勝と言うのもはばかられる程の痛々しい姿となって帰ってきた二人を見た時には、誰もがその死を覚悟したものである。

 しかしそれだけの見返りはあった。その血は流石吸血鬼と言うべきだろう。作り置いていた血石と反応し、結合し、そして形成を始め、紅い刀身にその姿を変えた。

 それが今の『血桜』。今なお成長し続ける魔剣である。

 抉り取った心臓は未だに健在しており、貴重な魔力供給源となっている。そして皮である吸血鬼の肉体も厳重に縛り付けられた上で、訓練所の最奥地へと幽閉されている。殺すという行為(・・・・・・・)への忌避感を薄める(・・・・・・・・・)ために(・・・)

 何度も再生する肉体というのは、殺す感触を覚えさせるには都合が良いのだ。

 今現在、人の倫理観は邪魔になる。躊躇えば殺されるのだから、殺す覚悟を決めさせるのは当然のことになるのだ。

 何にせよ、向こうに目標がいることは確かなのだ。それがわかったのならやる事は一つ。殲滅である。


「よし、行くぞ」


 背に花梨を乗せ、尾に秋に巻き付けて飛ぶ。その際に魔力の爆発を置いていくのを忘れずに。




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