俺はイジメられているけど・・・
俺は高校二年生。名前は征哉。学校に向かったけど俺の机はすごい有様だ。
誹謗中傷。良くここまで書けましたと褒めたいぐらいに書いてある。ご丁寧にペンキだ。
周りでくすくす笑われる。やれやれ。まったく静かにしてると調子乗りやがって。
直そうとしない教師も教師だがまぁ大人に期待はしていない。机は面倒なので茶色い塗料でなんとかする。
教師が入ってきたがこちらには目も向けず、まるで厄介ごとは勘弁だと言う風に。
風上にも置けない奴め。期待はしていないがよく教師になったものだ。
こんなことが二年の初めからずっとだ。今が十月と言うことはかれこれ六ヶ月は過ぎている。
小さいときから別段仲が良いという奴がいないのでやめろと言う奴もとくにはいない。
授業は全ての教科を持っていく。こうしないと無くなるからだ。大して面倒くさくは無いが重い。
バッグは濡れてもいいように代えのバッグを忍ばせてある。完璧だ。
帰りは呼び出しを食らった。もちろん教師ではなく。二人組の男だった。
「ファミレスいこうぜ?なぁ征哉君よ」
「・・・」
「なんとか言えよ?なぁ!」
腹に一蹴り入る。別段痛くは無かったが痛がる振りをする。前に何の反応もしなかったら何発も入れてきた。
幸い一発で気は済んだらしくファミレスに向かうことになった。
「これと~これと~これこれ」
「かしこまりました」
わお。肉しか頼まないとは不健康な輩だ。野菜も頼め。そう思いサラダを注文してやった。
「ちょっとトイレ」
幸運なことに俺は席をすぐに立てる位置だった。トイレはレジの横にあるため死角になって見えない。
もちろんトイレなぞに用事は無い。レジの店員にこう告げる。
「すいません・・・調子が悪いので先に帰らせて貰います会計はあそこにいる二人にお願いします」
「はいかしこまりましたお大事に」
会釈をして帰っていく。外には特に面識の無い女子が待っていた。いやクラスメートだけど話したことが無い。
「・・・こんにちは」
「・・・もうこんばんは」
「え?そう?まだこんにちはだと思ったんだけどな」
「・・・何?」
「・・・一緒に帰りませんか?」
「・・・罰ゲーム?」
「・・・ううん本当はファミレスに連れて行かれたのが見えて・・・助けようにもどうしたらいいか」
「・・・いいよ一緒に帰ろう」
こうして彼女と一緒に帰る日が始まった。彼女は図書委員みたいな黒髪にめがねといういでたちだった。
話は意外と合った。二人とも文学が好きでよく読んでいる。名前は黒崎 花と言った。
あの人の新作でたよね。読んでみようかな?でもまだ買えないから一緒に読も?
あぁいいよ。
こんな話を毎日毎日繰り返した。いつしか学校に来るのも楽しくなっていた。
彼女の話は聞いていて面白い。しかもこっちが話しているときにしっかり聞いていてくれて一緒に帰るのが楽しかった。
しかしそんな日はあいつらのせいで壊されかけた。今日の放課後のことである。
彼女が自分の机に座っていて帰りの支度をしていた時だった。
「ねぇ?黒崎さんだっけ?最近あいつと一緒にいるよなぁ?」
「・・・駄目ですか」
「別に~駄目じゃないけどさどうせなら俺達とも楽しまない?」
「・・・嫌です」
「いいじゃんか~俺達の方が絶対楽しいって!な!?」
「・・・やめて下さい」
「チッ・・・いい気になるなよ根暗同士つるんでろ」
「征哉さんは根暗なんかじゃないです!あなた達こそそうやって仲良しこ良ししてないと何も出来ない動物ですか!?」
「黙ってりゃこの女・・・!」
手を上げようとした。彼女に対してだ。
バン!!と机を叩いたのは他ならぬ俺だった。力いっぱいに叩いたせいで机が割れてしまった。
「おうおうなんだ?彼女がとられるのが悔しいのか・・・よ!」
普通のパンチ。こんなのかわすまでもない。こちとらお前らの力なんて分かりきってるんだよ。
反対側に流す。相手の力だけで相手を制す。これが俺の戦い方だ。
「さぁもう終わりか?掛かって来いよ?ん?」
「こいつ・・・ぜってぇぶっ殺す!」
「おう怖い怖いそれなら『ぶっ』が付くほど殺して貰いたいね」
「こいつ!!」
相手は突っ込んでくるとしよう。このとき俺がとるべき行動は?避ける?受け止める?
違う。その前屈みになった顔面に膝を入れてやることだ。もちろん軽くで変形はさせてないが。
軽い脳震盪は起こしているだろう。立てないで這い蹲ることしかない。
「ぶっ!」
「その後に殺すが言えりゃ完璧だなほれ言ってみろ」
こいつの相方含めクラスメートは面白いほどに静かだ。俺はゆうくりとその方向を向き、言った。
「おいお前らこいつみたいになりたいか?なりたいなら俺に殴りかかって来い」
誰も何もしてこない。意気地なしめ。ならこうしてやる。俺はぶっ倒れた奴の近くにしゃがみこんで。
「なぁ?どうだ?今まで散々いじめていた相手にこうしてボコボコにされるってよ」
「・・・許して・・・」
「あ?きこえねぇよもう一回言ってみてくれ」
「・・・許して下さい」
ついに言ったか。この野郎。ちょうどいいので相方を探す。
「おいこいつの相方・・・手ぇあげろ」
「・・・俺だよ」
「どうだ?お前もこうなりたいか?え」
「・・・調子乗るなよ」
「あ?きこえねぇよ」
「調子のるなよ!」
「お前らに言われたくねぇよ!!!!」
「!・・・」
「調子乗るなだ?お前らは誰の話をしてるんだ?え?堂々と人の机にペンキは塗るわ金はたかるわ
人を殴るわ調子乗ってんのはどこのどいつらだ!!??」
人生で二番目に大きな声。ガラスがビリビリ言ったのがわかった。皆直立不動だ。
「お前らもこうなりたくなかったらさ考えてよ人の心と身体を」
散々怒鳴って落ち着いたのか少し語尾が柔らかくなった。この言葉が響いてくれることを祈る。
「考えるだけでいいから・・・じゃあね」
俺は教室を後にした。不思議と涙が出てきた。怒ると涙が出ると言うのは本当らしい。
「待って下さい!・・・はぁはぁ」
「・・・ごめんもう近づかないから」
「・・・嬉しかったんです征哉さんいつも無表情で・・・楽しくないのかな?って」
「・・・ううん大元の顔がこれだよ・・・ごめんさっき怖がってるの目の端で見えてた」
「・・・確かに怖かったです・・・でも!私のために怒ってくれたんですよね?」
「!・・・それは・・・」
「・・・私家でも立場が無くて・・・私の為に怒ってくれた人なんていなかったから・・・
さっきの人には失礼ですけど嬉しかったんですありがとうございます」
「・・・俺もありがと一緒に帰ってくれて嬉しかった話せる相手が楽しかった」
「過去形じゃなくて・・・もっと話しましょう?本だけじゃなくて征哉さんのことも」
「うんいいよ」
初めて俺は人と手を繋いだ。その感触はまさしく人だった。人の感触と人の温かさ。
俺の隣に人がいる。その当たり前が当たり前になったときだった。
「じゃあ私ここ右なので・・・」
「送っていくよもちろん君が嫌じゃなかったらだけど」
「!本当ですかありがとうございます」
彼女は俺の腕に寄りかかってきた。俺はここぞとばかりに言う。
「もし良かったら・・・俺と付き合って下さい」
「・・・はい喜んで」
「・・・ありがと」
ここぞと言うところで二人とも無口になってしまった。しかし嫌な沈黙じゃなくて暖かい間だった。
「私からお願いです征哉さん」
「何?」
「私を呼ぶとき君じゃなくて花って呼んでください」
「分かったよ・・・花」
「あともう一つ怖かったからもう怒らないで下さい」
「もちろん人生で一度きりって決めておくよ」
「はい!お願いします!」
彼女は抱きついて来た。人ではなく『花』の感触が身体いっぱいに広がった。
別れを惜しみながら家まで送った。次の日の朝である。共に行こうと彼女の家に行こうとした時だった。
「征哉さんー!」
「花・・・どうしたの?」
「一緒に行きましょう!」
「やれやれわかったよ行こう!」
教室に着くとペンキべったりの机が・・・無かった。それどころかピカピカのに代えられている。
驚いているとあの昨日の奴が頭に包帯をした姿でやってきた。
「あの・・・そのなんだ・・・今まですまなかったな」
とだけいい手紙を寄こした。それを皮切りに四十枚の手紙が流れてきた。
さらさらと読んでいくと四十人とも謝罪の言葉だった。今まで酷いことやってごめんなさいと女子の字。
悪かったと豪快な男の字。俺は思わず目頭が熱くなった。
「・・・昨日はごめん頭大丈夫だった?」
「あぁ全然俺を『ぶっ』が付くほどに殺すならあと五倍の力が必要だな」
「やってあげようか?」
「いや!いい!お前は本気でやりそうだ!」
「・・・冗談」
「目が笑ってないぞ?本当に冗談なんだよな?」
ドッと笑い出すクラスメート。それに釣られて俺も笑ってしまった。
お前昨日の今度教えてくれよ!だとかファミレス今度行こうぜ!もちろんこいつの奢りだぜ!俺かよ!
思いの他に賑やかだ。全部彼女のおかげかな。彼女が俺の事を待ってくれていなかったら。
俺が普通にファミレスで金を払っていたなら。というかそれはどうなったんだろう。
「ファミレスのお金大丈夫だった?」
「あ!それだ!お前いなくなったから二人仲良く割り勘だったんだぞ!」
「そうそう!お前トイレじゃなかったのかよ!」
「調子悪くなっちゃって・・・ごめん」
「それならそうだって言ってくれよ!サラダだけ残しちまったよ!」
「俺は食べたけどな!一口だけ!」
「もっといっぱい食べないと・・・太るよ」
ひえぇと声を上げる二人。この反応が面白くてクラスメートも笑ってしまう。
俺はイジメられていたけど・・・俺の学校生活ではいい思い出になりそうだ。
「なぁ花」
「なーに」
「今日は同窓会だね」
「そうだね・・・行きましょうあなた」
「はいはい奥さん今行きますよ」