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033.穏やかで何よりです

「レイラ、貴女、公爵家の長女として育てられておいてどうしてあんなノリになるの。おかしいでしょ?」


 色とりどりの薔薇開く王宮の庭園の隅で、金髪メイド姿のカレンは、レイラを鼻息荒く叱りつけていた。


「友達に、弟の汚部屋掃除頼んでおいて金髪メイドコスプレさせるとか、いきなり乗り込んできてテンション高くはしゃぐとか。マリグ様や貴女の弟の顔見た? 唖然としてたわ。あんなん、淑女教育してくれた家庭教師が泣くわよ!?」

「……ごめんなさい……」


 元悪役令嬢レイラは消えそうな声で謝った。もう、本当にしょぼしょぼとしおれていきそうな雰囲気で。

 陽の当たる芝生の上。広げられた敷物の上で貴族令嬢が正座をさせられ、腰に手を当ててふんぞり返ったメイドに叱られている。こんな光景を何も知らぬ者が見たらぎょっとしたに違いない。

 そもそも、カレンが侯爵令嬢でたまたまメイドコスプレをさせられているのだとか、レイラは気心知れたカレンの親友であるのだとか、そんなこと誰も分かるはずがなかった。




 テオドールの執務室の片づけも三日目。

 今日で最終日。


 レイラの依頼通り、期日内に終わらせることはできそうだった。


 しかし最後の最後になって、このメイドコスプレの犯人が分かるとは、さすがのカレンも予想できなかった。


 次期公爵で王太子側近のテオドール・カルフォーネはご婦人ご令嬢方に超人気。その彼の執務室に女性が出入りすることで余計な噂が立たぬように、とカレンが変装をさせられたのは仕方がないと思っていた。けれど、なぜ、よりにも寄って金髪ふりふりメイド服なのかと、ずっと釈然としなかったのは事実である。まさか、そこに個人の思惑があるなんて。

 このレイラ(経由の、父親である公爵)により裏で手が回されていたとは……何というどうでもいい結末だ。だが許さない。


「だって……カレンの可愛い姿が見たかったんですもの……」


 ぽつりとつぶやいてから、レイラはいかに自分がカレンの着飾った姿が見たいかをつらつらと語り始めた。


 可愛いカレンが見たい、とは、滅多に着飾らないカレンにレイラがよく言う言葉だ。

 ゲームキャラとの接点を避けるために極度の人見知りと精神的な病を装い家に籠る。カレンはそうやって世間を、家族を騙して生きてきた。

 レイラも、どうやったかは知らないが傍から見ればカレンと同じよう引き籠っていた。カレンと異なっているのは、彼女は昨年ゲームに関係のない男性と結婚する、という手段を取ったことである。従兄でもあり、子爵でもあった男性に望まれ、求婚されての結婚。レイラも彼に愛情を持ち、今では子爵夫人としての仕事を果たすべく、社交の場にに出始めている。


 そうして社交界で交流をするうち、彼女はおそらく、今まで縁遠かったお洒落な令嬢たちに刺激を受けたのだろう。華やかな衣装を纏い、微笑んでおしゃべりしあい、日の当たる場所で堂々と活動できる、そんな生き方。これまでひっそりと生きてきた反動もあって、大好きな親友カレンを着飾りたい、一緒に社交の場へ出たいと望んでしまったのだ。


 カレンはそれを困ったと思いつつも、実は、ほんの少し嬉しくもあった。

 公爵令嬢として蝶よ花よと育てられたレイラのセンスは決して悪くない。むしろ、引き籠りながらも美術品、装飾品に囲まれ生きてきた彼女は、貴族界で最高級の審美眼を持っている。


 カレンだってそれなりにお洒落には興味がある。それどころか、レイラの手で着飾ってもらえるなら、むしろウェルカム状態。


 だけど、だけど。よりにもよってなんでメイド服?


 絶対に方向性がおかしい。ついでに、ちゃっかり自分をおもちゃにしたことも許せない……


「お嬢様、お食事の支度ができました」


 語っていたレイラがふと口を止めた、と思ったら、いつの間にか執事のラルフが隣に控えていた。手にはティーカップと皿。そして皿の上にはサンドイッチ。

 すっかり忘れていたが、今は昼食をとるために外に出てきていたのだった。


 レイラが微笑んでラルフから食事を受け取る。彼女は先ほどまで夢中で話していたのが嘘のように「淑女」の顔をしていた。

 レイラは、このラルフが、自分たちが転生者であるという事情を知っていることを把握している。が、あまり彼らのいる場所でその件について会話をしようとしなかった。

 その気持ちは何となくカレンにも理解できる。いくら親友の執事とはいえ、心許したわけでもない相手を前に、自分の秘密や過去が混じるかもしれない話を聞かせたいとは思わない。

 そもそも、彼女はラルフがカレンの強力な右腕である事実など知らず、ただカレンにコキ使われている執事だと思っているのだから仕方がないことだった。


「ありがとう」


 カレンのねぎらいに対して軽く頭を下げると、ラルフは少し離れた場所にある敷物に戻っていく。


 いつもの執事服でなく、王宮の近侍服を着たラルフと、同じく王宮メイド服のハンナが、陽の当たる庭園の敷物の上でサンドイッチをほおばり始めた。


 二人には、自分の食事を優先させるよう指示しているため、カレンへの給仕は最低限。レイラとゆっくり話もできるから丁度いい。


 午後からはまたテオドールの執務室の片づけが始まる。一応完了のメドはついているとはいえ、あまり油断はできない。いつまた、さっきみたいに邪魔が入るか分からない。今日中に終わらせるため、二人には食事をさっさとてもらいたかった。


 サンドイッチにかぶりつく侍女ハンナを見ながら「常識外れの大食いのあの子に、サンドイッチが足りるかしら」とカレンが呑気に考えていると、小さな口で上品に食事をしていたレイラが「そういえば」と話し出した。


「テオの執務室、あのゴミの山がすっかり無くなっていて驚いたわ。本当にありがとう」

「片づけは、まだ今日一日あるわよ」

「それはそうだけど。でも、書棚の中も、随分とスペースが空いていたわ。長椅子下の収納もすっかり空になっていたし。今の時点で十分なくらいよ」


 それはそうだろう。

 テオドールの溜め込んでいた荷物の量は相当だった。ほとんどが書類……しかも報告らしきメモが多数。それを片っ端から捨ててやった。収納に余裕ができて当然である。


 もちろん、勝手にあれやこれや捨てた訳ではない。

 一応きちんと、捨てると分類した分を部屋の主に見せて許可を取ってある。しかし初日、部屋の主は、捨てる山見せた瞬間に「こんなに捨てるものがある訳ないでしょ!?」と眉を跳ね上げさせていた。


 けれどカレンは堂々と「これとこれとこれ、案件は終了しているわよね。あとこっちは他のと内容が重複している書類の束」と破棄の基準を明確に突きつける。テオドールは書類ゴミの山をヤケのように探り、そして長い間のあと「……別に捨てていいよ」と苦虫を潰して飲み込んだような声で呟いていた。


 許可は出た。そしてありがたく、気が変わる前にさっさと捨てさせてもらったというわけだ。


 あとはその繰り返しだった。彼が意地のように「これは取っておきたい」と言い出したものに「本当に要る?一年以内に使うって断言できる?」「カテゴリ化できない情報なんてただのゴミよ?」と詰め寄り、彼が渋々頷いたものについては人生の断捨離よろしく破棄ゴミすては強行された。執務室がきれいになっていくごとに、テオドールの眉間の皺は深くなった。

 間違いなく現在、彼のカレンに対する好感度は底辺であろう。


 カレンもカレンで心に決めている。

 あれだけ捨てさせて一年以内に汚部屋に戻ろうものなら、一生「テドール」とおかしなイントネーションで呼んでやろうと。


「カレンには迷惑かけたわね。私もテオがあんなに片付けられない子だとは思わなかったわ……」

「レイラのせいではないわよ。貴女は親でも教育係でもないのだし、ましてや四六時中一緒に居るわけでもないのだから仕方ないわ」


 この国の貴族家庭では、慣習的に、子供は十歳前後で男女別に教育を受け始める。マナーや知識、そして剣術、馬術、女性であれば刺繍など、それぞれを家庭教師や親から教授されるのだ。

 マナー教師や同性の親を伴った社交場への参加や教育も行われ、実は、意外に子供も忙しい。


 というわけで、肉親であっても性別が異なれば、食事の時間以外に一緒に過ごす機会はがくんと減る。まして、レイラの実家のような高位貴族であればその傾向はさらに強かった。

 そんな事情もあり、テオドールの性質をレイラが把握していないことは別段不思議でもない。


「実家の自室は使用人が片付けているから気づかなかったの」と言い訳しながらも、レイラは腑に落ちない、といった顔をした。


「ゲームで、公爵令息テオドールが片付けられない設定なんてなかったわ……。あの子の場合は、家庭環境の問題じゃないかしら。そうして巡り巡って、これは姉の私の責任でもあるわけね……」

「そ、そこまで自分を追い詰めなくても」


 テオドールのプライベートに関する公式設定はそれほど多くなかったように記憶している。

 せいぜい、悪役令嬢レイラとは仲が良かった、という程度だろうか。というより、悪役令嬢レイラが一方的に天使のような整った容貌を弟を好んで傍に置いてたのである。

 たしか、そういった弟……というより美しいモノに対する執着が、ヒロインを排除しようとする動機になっていたはずだ。


 この点に関しては、現実もゲームもそれほど違いがない。レイラは確かに弟好きだし姉弟仲も良い。差異があるとすれば、どちらかといえばカレンの方へ向ける執着が強く、そして現実のテオドールは、ゲームよりもの姉好きの度合いが強い。その程度……まあその程度である。たぶん。特に問題はない。


 ……問題はないよね?とカレンが一連のテオドールとのやり取りを振り返っている隣で、レイラが大きくため息をついた。

 姉としては、大事な弟が片付けられない男となってしまったことが大問題なようだった。


「次期公爵として、清潔感ある男性でいることは必要なことだわ……やっぱり片付け上手なお嫁さんに来てもらうしか……」


 そこまで言ってハッとしたようにカレンを見る。

 何だか嫌な予感がした。


「カレン、テオのお嫁さんに」

「はい却下」


 言うと同時に、カレンはレイラの口の中に小さなサンドイッチを押し込んだ。むぐ。とレイラが黙り、そのまま一生懸命にもぐもぐと咀嚼する。

 そしてごくりとサンドイッチを飲み込むと、改めて抗議の声を上げた。


「ひどいわ。私はカレンと姉妹になりたいだけなのに。義理の姉妹になって毎日きゃっきゃうふふしながら暮らしたいの。いいじゃない結婚くらい減るもんじゃなし!」

「減る減る減る。私の精神力が減るわ。私を全力で嫌っているテオドール様と結婚なんてしたら家庭が荒れ放題よ。うわあげんなりする考えたくもない……。そもそも、私と王太子殿下との賭けが終わらなければ婚約の許可すら下りないでしょ」


 貴族の婚姻の管轄は貴内省であるが、その実権は現在、王太子ルドルフが握っている。カレンの結婚に関しては、この一年は彼が許可を出さないであろう。


「ああ、そうだったわね。それは困ったわ……カレンと姉妹になる私の計画が」

「私は困らないけれど」

「んもう、そんなこと言わないで。お父様もお母様もカレンのこと気に入っているのよ。テオの部屋を掃除した、なんて二人の好感度上げるのに最適な話題じゃない!」

「好感度、ね。ゲームイベントじゃあるまいし」


 そう考えれば、テオドールの汚部屋掃除についてはイベントにでも使えそうなネタだった。しかし、残念ながら(?)カレンにもレイラにもそんなイベントがあった記憶はない。本当に今、ゲーム設定にないことが起こっていると改めて思う。


 そういえば、近衛騎士のマリグも剣を抜くと性格が変わるという設定も聞いたことがなかった。

 それを伝えれば、そうね、とレイラは頷く。

 マリグの人格豹変については、カレンも共に戦った点を省いた上で彼女に報告済みであった。


 今更だが、カレンはレイラに自分のことでいくつか黙っていることがある。レイラは「カレンは商会の仕事を手伝っているちょっと賢くてお転婆な公爵令嬢」だとしか思っていない。相手は根っからの繊細なお嬢様レイラだ。まさか「私、剣を使えて、ついでにゴロツキ程度簡単にノシちゃえる腕前なのよねー」などと真実を告げようものなら電光石火で気絶されること間違いなかった。

 隠していたいわけではない。まあ、うっかりテオドールにバラされたら事なので隠していたい気持ちも結構あるけれど。でも親友に隠し続けるのも、ちょっと気が引ける。……いつか、話すことができるだろうか。


 目の前の元悪役令嬢レイラの薄い金髪が、風になびいて揺れていた。


「ゲームと実際の違いって、結構多いわよね」


 顔にかかる髪が薔薇色の唇についたらしい。レイラは面倒くさそうに髪を手繰っていた。なかなか取れないようなので、カレンが手伝ってやる。


「カレンてばやっぱり優しい。ありがと」

「いいえ、どういたしまして」

「やっぱりテオと結婚して私と姉妹に」

「はいはいはい、ゲームの話にもどりましょうねー」

「もーつれないわねー」


 こうなったらもうこのネタはお約束である。

 口を尖らせたレイラも、分かっているのようですぐにおどけた表情を収めた。


「私も記憶があいまいにはなってきてるけど……マリグ様に関しては剣を抜くと性格が変わる、なんて設定なかったと思うわ。クールだけど、敬語で丁寧。両想いになってからは独占型ヤンデレになる『月光の騎士』っていうのが私の認識」

「テオドール様だって。人当たりが穏やかな青年で、好感度が上がると監禁系ヤンデレ化する『紅玉の天使』ってだけの認識よ。ヒロインの親友(わたし)を嫌って暴言を吐くなんて設定、なかったと思う」

「片付けられないオトコ設定もね……」


 ずーん、とレイラが沈んだ。


「……相当気にしているわねレイラ……。ホラそこは恰好よくないから設定資料から省かれたのかもよ?」


 慰めるつもりで言うと、レイラは子供のようにぷるぷると首を振った。

 ときどき彼女はそんな風に年上とも思えない仕草をする。垂れ目のおしとやか系美女がそんなことをすれば、同性のカレンでさえギャップでやられてしまいそうになる。


「カレン、ギャップは大事なのよ」

「え?」


 一瞬、自分の思考が見透かされたのかと思った。しかし当然そんなことはなく、レイラは真面目な顔をする。


「浮気なイメージだけど実は一途だったり、万人に優しそうな人が冷徹な顔を見せたりするギャップに、女性はキュンと来るものなのよ? それで言うと、優秀な王太子側近のテオドールが実は片付けるのが苦手って、母性本能をくすぐる要素だと思わない?」

「はあ……」

「思うでしょ? それにあの綿菓子のようなキャラ! ふんわり甘い笑顔天使……ウチの弟、最高に可愛いと思うの」

「えらいドヤ顔しているけど、話の方向が微妙にズレてるわよ」


 指摘すると、レイラはぷくっと頬を膨らませた。


「そういうカレンの冷静なところ、ときどき嫌いだわ」

「可愛らしく言ってくれてありがとう」

「もう……。私、悪役令嬢レイラに生まれてから相当自分の運命を呪ったけれど、よい家族に囲まれたのは幸せだと思っているのよ? お父様は実力者で素敵だし、お母様も尊敬できる淑女だし、弟はこれでもかというくらい可愛いし。あと、カレンはとても信用できる優しい親友だわ」


 レイラの明るい笑顔。

 こんな朗らかに笑うレイラは、ゲーム画面で見たことがない。ゲームのレイラは、公爵家の長女として貴族令嬢の中で最高の位置に居ながら、常に誰かを妬み、恨み、怒りを露わにしていた。今となればあのレイラは、弟を愛でながらも己のみを愛し、誰をも信じず生きてきていた寂しい女性だったのではないかと思う。


「今」のレイラは、家族の愛を受けて素直に育ち、夫に愛に包まれて生活している。カレンは今のレイラが幸せでいてくれることが心から嬉しい。


 そっと微笑んでいると、笑って流されていると勘違いしたのか、目の前の女性はまた頬を膨らませた。


「あら、カレンだって幸せでしょ?優しい両親とお兄様が居るのだから。それに、ゲームではあんなカッコいい執事なんていなかったでしょ?役得じゃない!」


 そりゃあ家族に文句などない、自分には勿体ないくらいよい家族だ。と頷いてから、カッコいい執事?とカレンは首を折った。

 一瞬考えて、ああ、ラルフの事かと合点する。

 慇懃無礼を常時ミイラ巻している自分の執事に「カッコいい」という修飾語を付けることへの抵抗で、耳と頭が一瞬拒否反応を起こしてしまったようだ。


「まあ……執事だからね。見た目は最低限必要でしょ。それにモブキャラの使用人の話なんて、ゲームじゃ出てくるはずないわ。私たちが知らなくて当然よ」


 執事という職業は、主人の代理として来客対応をすることもあり、見た目を重視されることが多い。カレンはそういうニュアンスでラルフの話題を流す。

 正直、元暗殺者の彼の話題をここで広げたくも深めたくもなかった。


「でも、ラルフって美形よね!冷たい感じがまたいいと思うの。カレンてばずるいわー。私もイケメン執事が欲しかった……ウチの執事、ただのぽっちゃり型中年だもの」


 うむ、残念ながら話題を終わらせることはできなかったらしい。


「もう……貴女結婚しているでしょ。優しくて素敵な旦那様がいるのに、他家の使用人に浮気なんてしていいの?」

「あら、私は夫のことを心から愛しているわ。でもこれは別。イケメンを愛でて何が悪いの。イケメンは正義よ」

「レイラ、目が据わってる」


 若干引き気味に指摘すると、本気で目を据わらせた美女が言葉を強めてカミングアウトした。


「実は、王太子殿下とラルフの組み合わせも悪くないと結構本気で思ってるのよね」

「ちょっと待って何の話」


 腐女子キター!!


 カレンは固まった。先ほど執務室でも萌えを口にしていたからもしやと思ったが、これは本気だ。


 ゲーム『悪魔の遊宴』には熱狂的なファンがいて、そういった二次創作があった記憶もある。もしやレイラも……と思ったが、深く考えるのはやめた。


 別に、後ろに居る地獄耳ラルフからの視線をちくちく感じたわけでも、帰宅後の長い愚痴せっきょうを想像してしまったからでもない。

 これは心の健康のための逃避である。


 庭園に咲き満る薔薇の香りが濃く、カレンの周囲だけを覆った気がした。なんか重い。


 先程まで感じていた穏やかな陽気は、一体どこへ行ってしまったんだろうか。

 サンドイッチで満たされたばかりの胃が、ちょこっとだけ痛くなった。

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