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【過去編】01.灰色の狼

 ――全く馬鹿馬鹿しい。


 少年は形の良い眉を不機嫌に歪めながら、歩を進めていた。

 普段は感情を表に出さないようにしているが、今夜は隠すこともしない。


 眉間の皺はそのままに、獲物を狙う獣のごとく滑るように灯りの消された廊下を進み、その一角にある豪奢な扉の前で立ち止まる。


 今、自分の服装は昼間と変わりのない使用人服。顔を覆うものも何もない。

 だがそれでいい。

 下手に服を変え、いつも通りの全身黒ずくめで覆面という仕事着の方がここでは不自然だ。使用人が間違って紛れ込んだという体裁の方が、うっかり見つかっても罰を与えられるだけで済むだろう。

 左目の眼帯が目立ってしまうが、外すわけにもいかないのでこれは仕方がない。


 彼がこの屋敷に使用人として潜り込んでから、一週間が経った。

 ターゲットの懐に潜り込んで仕事をすることは珍しくなく、そして時間をかけすぎないことが少年のやり方でもある。

 屋敷の間取りと、住人の深夜の行動パターン、使用人の役割とシフト、それらを全て把握し今夜を決行の日と決めていた。


 静かに扉を開け、中に滑り込む。


 今回の暗殺対象は、この屋敷の住人――侯爵夫妻と、四人の子供たち。


 暗い部屋をベッドに向かって歩みつつ、少年は、この件を自分に振った男の顔を思い出し、小さくため息をついた。


『はした金だが、受けんことには仕方ない。お前、行ってこい』


 まるで、近所に使い走りをさせるような軽さで男は命じた。


 少年が属する組織は、裏の世界では名のある暗殺集団であった。

 暗殺集団と銘打つのは、暗殺稼業を生業とする人間の集まりであったためで、実際に受ける依頼は、個人の隠密技術や組織の情報網を駆使した護衛や、情報収集、戦争における"姿を見せない傭兵"としての役割など多岐に渡った。

 国を跨いでの活躍は、王侯貴族に名を知られることになり、どこからルートを知ったのか高貴な方々からの依頼も絶えない。


 ――というのは一年前までの話である。


 組織を立ち上げ成長させた初代の頭目が一年前に病死し、ナンバーツーだった男が頭目となってから、組織は坂を転げ落ちるように衰退していった。


 その原因は、資金不足。

 元凶は二代目に立った男であった。


 強さは仲間の尊敬を集める。男の腕は確かに抜きんでており、人を惹きつける魅力を持っていた。初代もそれを認めナンバーツーに置いていたが、隠された金遣いの荒さついては見通せていなかったようだ。


 二代目は頭目の座に就くと、堰を切ったように己の娯楽のために湯水のごとく金を使い、組織の潤沢だった資金は驚くほどあっという間に減っていった。

 暗殺の腕より金遣いの才能の方があったなんて、皮肉すぎた。

 代替わりから数か月もしないうちに、メンバーへの成功報酬すら払わなくなり、信用を失い、人は組織を見限って離れて行った。


 組織が密な関係のみで成り立っていたものでなく、契約関係で構成されていたことも組織崩壊を早めたと言えるだろう。


 人が減れば受ける仕事も限られてくる。組織のレベルがみるみる落ちていくのを少年は目の当たりにした。


 それでも少年が組織を見限らなかったのは、初代頭目への恩があったからである。

 自分を拾い、我が子として育ててくれた初代。彼がいなかったら自分は生き残れていなかった。


 組織は、少年にとって家庭と同義であった。初代が亡くなる前までは。


 なのに自分を培ってきた暗殺集団としての主義、矜持、人脈。それらが存在していた場所が今、あっという間に崩れ去っていく。


『金が貰えりゃ、誰だって客だ』


 二代目の言葉が、組織を人を変えた。


 全く馬鹿馬鹿しい。


 少年は声を出さず、口だけを動かして呆れを吐いた。


 灯りのない広い部屋を突き進み、迷うことなく目指す位置で立ち止まる。

 目の前には、大きな天蓋つきのベッドと、その中央に存在する小さな膨らみ。


 後ろの窓からは、薄い月明かりが差し込み、寝具に微かな影を落とす。少年の灰色の髪は光を反射することもなく闇に混じり、更に深い色となっていた。

 眼帯に覆われない右の眼の色は、琥珀。

 その眼に宿る冷たい光と、独特の気高い雰囲気はその身に纏う使用人の服に全く似つかわしくなかった。


 月の出ない夜ではなく今夜を選んだのは、この愚かな案件をさっさと終わらせたかったから。


 今回の依頼者は、爵位も高くないこの国の貴族。

 恨みを晴らしてほしいとのことだったが、調べてみれば、正直、この依頼者は無能もいいところの男だった。


 才もなく努力もせず、遊びほうけて上司の評価は駄々下がり。最後には金を横領し、暗殺対象である侯爵の部下に暴かれ、王都から追われた。

 逆恨みもいいところである。


 侯爵はほとんどこの件には噛んでいない。むしろ依頼者の父による国への功績を説き、爵位剥奪を回避させたのは侯爵であるというのに。


 それを二代目は、あり得ないほど安い額で、侯爵一家全員殺害という依頼を受けてしまった。


 初代頭目だったら決して受けなかった。こんな、愚かな依頼者と、胸糞悪い動機、命と自分たちを軽んじるような安価な額の依頼など。


『オレたちは生きるために殺す。だが命は安いモンじゃねえ』


 一旦受けた仕事に対しては恐ろしく冷酷になる初代だったが、少年が尊敬していたのは義父のそんな考えだった。


 今やそんな考えすら組織から無くなってしまった。

 頭が変わるだけでこれ程変化があるものかと思うくらい、方針も、関係性も、メンバーの表情すらも、以前と比べ物にならないくらい汚くなった。


 それに、


『てめぇの価値なんざ、殺すこと以外ないんだよ』


 先日、この依頼を一度拒んだ少年に、嘲るように言った二代目の声を思い出す。少年の眉にまた深い皺が刻まれた。

 先代とは全く逆の言葉であった。


『オレがお前に教えられることは殺す方法だけだ。だが、それ以外でお前の価値が見つけられるなら、その道を歩めばいい』


 かつて訓練中、義父はそんなことをニヤリとしながら言ってくれた。

 どんな笑顔も悪人のようで、自分と同じように養われた子供の中には泣き出すやつもいたっけ。


 他の価値なんて想像がつかない。そう言った自分に義父はまた笑った。


『お前の目なら、それを探せると思うぞ』


 思わず眼帯を押さえてしまったが、義父は自分の頭をぐりぐりと撫で、気にするなと言った。

 少年をそんな風に撫でてくれたのは、拾われる前にも後にも、義父だけだった。


 組織は、義父だった。義父がたまたま初代であるだけだった。


 もう、潮時かもしれない。


 少年の中に組織を抜ける選択肢がよぎる。……が、どう生きていくか決めかね、迷いが生じる。


 共に組織を抜けそうなメンバーなら他にも居るが、彼らを自分が束ね、また暗殺を生業とするしかないのだろうか。少年には、この仕事に対してこれといった思い入れなどなく、殺しは生きていくための手段でしかなかった。しかし他の生き方が分からない。


 少年は寝具に目を落とす。ベッドの主は潜り込んで寝ており、頭すら見えない。


 とりあえず、これが終わってからじっくり考えよう。


 この先の生き方への検討は一度頭から振り払って、仕事に集中する。


 目の前で眠る、この屋敷の末娘が最初の殺害対象。


 間取りを考察した結果、この部屋の娘を先に片付けることが効率的とはじき出した。


 末の娘はまだ五歳にしかならないという。

 少女を見たのはこの屋敷に来たその日の一度だけ。


 陽の当たる庭で、家族と過ごしているところをたまたま見かけた。


 亜麻色の豊かな髪と澄んだ翡翠の目を持つ、可憐な少女。愛されて育っただろう彼女の屈託のない笑顔は、不遇な幼少時代を送った少年の心に僅かな疼きを与えた。

 十年もすれば、社交界でもてはやされる美しい娘になった事だろう。


 不憫な事だ。


 組織にとって"はした金"の額で、そして逆恨みに巻き込まれて処分される哀れな娘。


 少年にしては珍しく、ターゲットに憐憫の情を抱いた。

 それは、見限ろうとしている組織へ僅かな執着と、今後への迷い、そして陽の下で見た少女の笑顔への小さな憧れという、無関係で不均衡な感情が混ざって生まれたのかもしれない。


 そして、これも少年にしては珍しく、この感情がわずかな隙を生み出してしまっていた。


 ことり、と頭上から音がした。


 はっとなって見上げたときには遅かった。少年の視界に、ネグリジェを着た少女が目一杯に広がっていた。


「――あら?えらく若いしんにゅうしゃさんね?」


 背中への強い衝撃の後、拙い口調で朗らかに掛けられた言葉に少年は固まる。


 仰向けに倒れる自分と、そんな自分の胸に馬乗りになる可憐な少女。

 少女の体重など少年にとっては無いも同然であったが、動けなかったのは隙も無くぴたりと首筋に当てられたペーパーナイフと、そして驚きのせいである。


 自分がこんなに簡単に動きを止められるなんて。


 少年は幼い頃から初代直々に鍛えられ、十三歳にして組織ではナンバーツーに君臨していた。二番手と言えど、実は腕は二代目頭目と互角。この立場にいるのはただただ少年が若い故であった。


 しかし僅かな隙とは言え、自分の年齢の半分にも満たない子供に動きを封じられるとは思えなかった。いや、そもそも、天蓋の上に隠れていた気配にも気づかなかった。


 一体この少女は何者なんだ?


 凝視していると、少女はこてりと首を傾げた。


「その眼帯……あなた、しようにんのラルフくん?そうか、さいきん夜中によく気配をかんじてたのは君のだったのね」


 夜中に屋敷の中で探りを入れていたことがばれている。

 そして、つい一週間前に入ったばかりの一介の使用人である自分の名前を知っていることに驚いた。


「まあいいか。――で、あなたのやとい主はだれ?」


 続けて少女の桃色の唇から、複数の貴族の名前が挙げられた。

 朗らかな口調は変わらないが、その表情は冷たく、先日見た幼女の笑顔が幻だったのかと思ってしまう程である。


 しかもこの年で情勢を把握し、一家を狙う政敵の名を絞れる頭を持っている。繰り返し訪れる驚きに、少年の思考がついていかなくなってきた。


 駄目だ、いつもの調子を取り戻さないと。


「うーん、だんまり?困ったなあ。やっぱりこども相手だとおしえてくれないのね」


 表情を戻した少女は本当に困ったように言った。

 先程の鋭さはどこへいったのか、唇を尖らせる顔に幼さを感じたが、未熟にも自分から気を逸らした少女に、少年は殺るなら今しかない、と袖に隠していたナイフを握りしめた。


 少女を突き飛ばし、離れる身体を追いかけ、そのまま白く細い首を切る――

 少年の中でイメージが固まった。


 今だ。


「あら、あなたの目、きれいね」


 少年が動こうと力を入れたそのとき、不意に少女が自分の鼻先に顔を近づけ、言った。

 少年は思わずナイフを取り落す。こんな馬鹿みたいな反応をしてしまうのも、初めてだった。


 興味津々で覗き込んでくる翡翠の瞳から、目が離せない。


「こはく色の目、きれい。宝石みたい」


 大きな目がまじまじと自分を見つめ、細められた。すてきね、と屈託のない笑顔が言った。


『――の瞳は宝石なのよ』


 少年の耳に、かつて自分の傍にいた女性の声が蘇る。


「あ、あれっ?どうしたの?」


 少女が慌て出し、あろうことか唯一の武器であるペーパーナイフを放り投げ、おろおろと少年の頭を撫ではじめた。


「な、泣いちゃだめよ、おとこのこなんだから」


 少年の目からはほろほろと大粒の涙が流れ出していた。


 何だこれは。


 いつも冷静な少年が、これまでになく動揺した。


 拾われ、暗殺者として生き始めてからずっと押し込められていた感情が溢れていた。

 この仕事をする前――不要な存在と最終通告を突きつけられたあの日に、こんな感情、すべて捨てたはずだったのに。


 なぜこんな子供の言葉に、自分は揺さぶられているのだろう。


「ど、どうしたの?何かいやなことがあったの?あ、このお仕事もむりやりだった?えっと、むりに人をころさなくても、やめてもいいんだよ??」


 少女は更に狼狽し、小さな両手で頬を、頭を撫で……仕舞には自分のネグリジェの裾を引っ張って少年の涙を拭き始めた。

 乱暴に擦られているようだが、声も自分の頬に触れる手も、優しい。

 温かい、と思った。


 義父よりも小さく頼りない手のひら。

 それを一生懸命使って撫で、幼い少女が暗殺者の自分に「殺すのをやめてもいい」と言う。


 窓から差し込む月明かりに照らされる少女は、眉を下げ、必死に少年を元気づけようとしている。


「殺すのをやめて、どうなるんだ?」


 少年は初めて声を出した。

 きょと、と少女が目を丸くする。


 本当に隙だらけだ。自分ならこの一瞬で殺せる。


 だが、少年は少女の言葉を待った。


「そんなのわからないわ。でもあなたなら、ほかの生き方もあるんじゃないかな。腕はあるんでしょ?誰かのごえいとかもいいんじゃない?」


 護衛、というのは魅力的に感じた。


 無論、経験はある。

 が、今少年にとって魅力的だったのは、護衛という名目で対象者の傍にいることができるということであった。


 少年が考えを巡らす間も、少女は少年の灰色の髪を撫でながら涙を拭っていた。


 服をハンカチ代わりに使う少女の裾はめくれ、柔らかそうな太腿が視界にちらつく。月光がその白さをさらに際立たせた。


 ――それはちょっとやめて欲しい。


 我に返って、そして少年は目線を彷徨わせた。


 大人びた表情はする割に、この辺りは無頓着であるらしく、可憐なこの少女の将来が少し心配になる。と同時に、殺そうと思っていた相手の太腿に狼狽えている自分が急に滑稽に思えてきて、何かがこみ上げた。


「ぷっ」


 思わず噴き出してしまった。

 少女の手が止まる。そしてぷうっと頬を膨らませた。


「なに?うそなきだったの?ちょっと、なんで笑うのよっ!?」


 自分の下でくすくすと笑い止まない少年に、思わず少女が声を上げ、その後はっとして口を手で覆った。

 少年もとっさに身体を起こし、一緒になって少女の口を塞ぐ。


 起き上がった拍子に少女の身体が少年の腿までずり落ち、彼女が後ろに倒れそうになって慌てて片手で支えた。


 忘れていたが今は深夜だ。大きな声を出して侍女でも来てしまったら面倒なことになる。

 二人はしばらく静かにしていたが、誰も来る気配がないことが分かって、ふーっと息を吐く。


「……そうだな、やめるか」


 ほっとして自分に掴まっている少女を見ていたら、そんな言葉がぽろりと口からこぼれた。

 きょとんとした顔で、自分を跨いで座ったままの少女がこちらを見上げる。


 組織を抜けよう。


 いやにすっきりとした気持ちで少年は決めることができた。


 自分を育ててくれた初代はもういない。あの組織にこだわることはない、次の場所は、もう決めた。


「なあお前、用心棒は雇ってないのか」

「けいび兵のこと?」

「違う。お前だけを守る護衛のこと」

「ん?いないよ」

「じゃあ俺がなってやる。俺を従者にしろ」


 言葉は荒いが、淡々と、そして表情を変えずに彼は言う。


「えー」

「その顔はなんだ。守る仕事がいいと言ったのはお前だ。俺じゃ不満か」

「そんなわがまま言えない。どこのおじょうさまなのよ」

「クォルツハイム侯爵家の令嬢だろう」

「ただの末っ子だもん。おにいさまたちも従者なんていないのに」

「わがままで通せ」


 少女はまた、えー、と不満を口にした。

 暗殺の依頼主を問い詰めていたときの、あの大人びた顔はすっかり無くなっている。


 面白いやつだ、と少年は思った。

 くるくると表情がよく変わる。それもただの子供とは違うふり幅で。


「お前、今後自分が一番狙われやすくなるって分かってないのか?この国の第一王子と年が近くて、身分が高い女なんて少ないだろう」


 現在八歳の第一王子は聡明で、次期王である王太子となることはほぼ確定だ。

 そしてその結婚相手として名の上がる令嬢の中でも、この少女は上から数えた方がいい地位にある。


 五歳とはいえ、この賢い少女がそれを理解していないとも思えなかった。


 指摘すると、少女は苦い顔をして考え込み、数秒悩む。そして仕方ないという表情で頷いた。


「わかった。あしたお父さまにいうわ」

「それでいい」

「でも、わたしの従者になって、あなたにはなんの利点があるの?おきゅうりょうは従者の額いじょうはだせないわよ」


 私では給料決められないし、と首を傾げる少女の頭をぽんと叩いた。

 利点、など五歳児が出す単語ではないが、少年はもう驚くのをやめた。順応性には自信がある。


 少女を膝に乗せたまま、少年は琥珀の目を細めた。


「お前に付いて、生きるのも面白いと思ったんだ」

「……いみわかんない」

「理解しなくていい。ま、普通の使用人よりは給料いいだろうし、少しくらいいい思いさせてもらうさ」


 お前に着くついでに守ってやる。そう言う少年に、少女はまた首を傾げ、別にいいけど、と言った。


 理解しなくてもいいさ。俺もこの感覚が何か、まだ分からないんだから。


 ふと思い返す。そういえば、少女からナイフを首に突き付けられても、従者となることを拒否されても、少年は一度も不快感を感じなかった。

 プライドは高い自覚があるのに不思議だった。義父が聞いたら、きっと驚いたろう。

 全てはこの少女を自分が拒否していない証拠に思えた。


『お前の目なら見つけられるんじゃねえか?信じてみろよ』


 義父の声が蘇る。

 多分、自分の琥珀の眼は、あの翡翠の瞳に囚われたのだ。今日ではない、おそらく陽の下で少女の笑顔を見たあの日に。


 暗殺以外での価値など分からない自分。だが、この翡翠の瞳の少女の隣にいれば、何かが分かるのではないかとも思った。

 初めて、自分の行く先が楽しみになった。


 こんな生き方も悪くない。


 ――こうして、少年は、少女の従者となった。




 彼が従者となったあと、「蒼き旅団」と呼ばれる名のある暗殺集団が解散し、優秀な暗殺者が各地に散ったという噂が各国に流れる。

 それを聞いた従者は「そうですか」と小さく微笑んだ。


 そして、同じ時期、王都のクォルツハイム侯爵家の屋敷に、数人の使用人が雇われる。

 その中に黒髪、茶眼の可愛らしい少女も混ざっていたが、これは特段噂になることはなかった。


 また、クォルツハイム侯爵家の末娘の従者となった少年は、その後「口が悪い」と言う小さな主人に徹底的にしごかれた。


 従者であるのに、少女の秘書のようにあらゆる仕事を任され、その手腕をめきめきと発揮する。八年後には退職する老齢の執事の代わりにその職に就き、クォルツハイム家の王都の屋敷を取り仕切る執事となった。


 左目の眼帯を外し、片眼鏡を着けるようになったのもこの頃。


 執事ラルフは、こうしてカレン・クォルツハイムの優秀な手足となったのである。

翌朝のクォルツハイム家。


カレン「とうさまー。わたし、この子がほしい!」

父「ほ、欲しい!?ど、どういう意味でだ!?」

カレン「従者にしたいのー」

父「(ほっ)なるほど。だが、エルヴィンにも従者がいないのにカレンだけにとは……」

カレン「だめ?(うるうる)」

父「うっ……エル、いいだろうか?」

エル「どうしてここで私に振るんですか。でも駄目です、断固反対です。どこの馬の骨とも分からぬ男をカレンの従者になど」

カレン「エルにいさま、だめ?(うるうる)」

エル「うっ……」

カレン「(うるうる)」

父・エル「……いいに決まってる!」

カレン「ありがとう!とうさま、エルにいさま、だいすき!」

父・エル「(締まらない笑顔)」

ラルフ「あざとい……」


カレンが使用人だったラルフを従者におねだりしたときの会話。

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