こんな夢を観た「真夜中に雪の原で遊ぶ」
ふと目を醒ます。
いつもの習慣で枕もとの目覚まし時計に手を伸ばすと、まだ夜中の2時だった。
それにしては窓の外が明るいな、とカーテンを引いてみてびっくり。
「わあ、いつの間に雪が!」
もうやんでいたけれど、どこまでが道だったか思い出せないほど、一面、雪野原だった。遠くの山からのぞく満月の光が、まるで昼間のように辺りを明るく照らしている。
わたしは居ても立ってもいられなくなり、隣の部屋で眠る2人の妹を叩き起こした。
「……もう。まだ夜じゃん、なんで起こすのさ」妹1がまぶたをこすりながら文句を言う。
「まだ夢ん中だし――」妹2は、まるで寝言のようにむにゃむにゃと答える。
「外を見てみ。その後で、寝るか起きるか考えればいいのさ」わたしは布団を引っぺがしながら、そう促した。
2人は面倒くさそうにベッドを降り、ガラス窓に顔を押しつける。
たちまち、息の合った歓声が上がった。
「雪だっ、雪があんなに積もってるよっ!」
「もう一眠りする?」わたしはおどけて聞いてみた。
「寝ないよー。寝るわけないじゃんっ」
「もっと、早く起こしてくれたらいいのに。ねーっお姉ちゃん」
わたしたちはパジャマのまま表に飛び出した。新雪は柔らかく、ぱすぱすと腰まで潜る。不思議なことに、少しも寒いとは感じない。きっと、夢中になり過ぎているせいだろう。
いきなり首の後ろに雪玉が飛んできた。続いてもう1発。
妹1、2の連係攻撃だった。今度はむちゃくちゃ冷たかった。
「やったなっ。よーし、見てなよっ」わたしは雪玉を転がして、ボーリングの玉くらいに育てる。「これでも喰らえっ!」
ところが、重すぎて、3メートルほどしか飛ばなかった。せっかく作ったボーリングの玉は、積もった雪の中へと沈んでいった。
「やーい、ぜんぜん届いてないよーだ。早く、喰らわせてみなってば」
いつの間に出来たのか、あちこちにカマクラが盛られていた。それも、かなり大きい。家代わりに住むことさえできそうだ。
「おーい、妹1と妹2。こっちにカマクラができてるぞーっ」
妹達は雪をかき分けながらやって来た。
「わおうっ、すっごい。誰が作ったんだろうね」と妹1。
「ねえねえ、このカマクラって、お店になってるよ。ここは八百屋、隣は魚屋だ」妹2は、カマクラを1つ1つのぞき込みながら報告する。「あ、むこうのはアパレルだ。わたし、ちょっと行ってみる」
「わたしもっ」妹1もついていった。
わたしは「本屋」に入ってみた。棚からレジまで、すべてが雪でできている。
「今月号の雑誌」のコーナーに、「パンプキン」というマンガ雑誌が置いてあった。
「カボチャのマンガかな?」手に取って、パラパラとめくってみる。エッチな本だった……。
「なんか面白い本とかあった?」背後からいきなり声を掛けられた。妹1、2だ。
「あ、いや、別に、何もっ――」わたしは大慌てで、持っていた雑誌を後ろ手にラックへと戻す。
さっきうなじに投げつけられた雪が、今になって溶け出し、首筋を伝う。
背筋をいやあな感じの、冷たいものが滑り落ちていく。