表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

勇者ミコトの忍耐。

甘いお二人。

 食事を終え、三人でほのぼのと会話をしていた。

 勇者や魔族と云った分け隔てが、彼らの中で薄れつつある。


「そうだ勇者。これを言ってみたかったんだ」

「ん?なんだよ」

「そ、それじゃあ言うぞ」


 ふぅ、とルカが一息吐いて、


「勇者!お風呂にする?ゴマをする?それとも、わ・た・が・し?」

「何もかもが違う気がする」

「うえっ!?な、何が違うと言うのだ!」


 ルカはミコトへ勢いよく詰め寄る。


「タイミング、ゴマ、わたがしの全てがおかしい」

「まともなのがお風呂しかないね」

「むぅ、そうなのか。何かしらの書物にそんなことが書いてあったのだが──」

「捨てちまえ、そんなもん。だけど、お風呂は入りたいな。汗もかいたし」

「そ、そうか!ならばお風呂へ入ろう」

「けど、俺ってこの部屋から出られないんだよな?」

「心配ない。裏道からしか入れないからな。それに、私とクルモしか知らないんだ」


 玉座の後ろにある壁にカーテンがかかっていて、そこを潜るともう脱衣室だった。

 ミコトはいつも気になっていたが、まさかこのような形で謎が解明するとは思いもよらなかった。


「全然裏道じゃねぇじゃん!」

「う、うるさいっ!裏道と言ったら裏道なんだ!文句があるなら入ってくるなっ!」

「文句はないから入る!」


 ルカとクルモの後にミコトが入った。すぐそこに風呂があるのか、温かい湯気が立ちこめている。

 背後から、衣擦れの音が聞こえた。ふと振り返ると、ルカとクルモは服を脱ぎ始めている。


「お前ら!なんで脱いでんだよ!」

「良いではないか。今から“一緒に”入るのだからな。と、というより見てくるな!裸なんぞ見せたくない!」

「一緒ぉ!?じょ、冗談だろ!俺は外で待ってるからな!」


 ミコトは二人に踵を返して立ち去ろうとする。

 その時、腕に何かが巻き付くような感触を覚えた。何か柔らかい物に挟まれてもいる。


「勇者は、私とお風呂入りたくないのか?」


 うるうるとした目で腕に抱きついている魔王が見上げている。半裸だ。

 ミコトは腕に感じる弾力をしかと記憶しながら、魔王を突き放す。


「入ろう」

「このエロガキ」


 クルモの暴言を気にすることなく、ミコトは服を脱いだ。自らの大事な部分をタオルで隠しながら、お風呂に浸かる。湯は白く濁っていて、何かの効能がありそうな温泉だった。


「くあぁ……気持ちいいなぁ」

「そうだろう、勇者。私はこのお風呂が大好きなのだ」


 ルカがタオルを体に巻いて入ってくる。胸から脚の付け根までしか隠れておらず、とても危ない。湯気で細かくは見えないが、ルカの胸の大きさだけはよくわかる。

 ミコトは顔を湯で洗うふりをしてルカを見る。あまりにもわかりやすい。

 クルモも一応体を隠してはいるが、凹凸のない体などミコトの眼中にすらない。


「一日の疲れが癒されるな」

「今日は勇者くんがいたから特に疲れたんじゃないの?にへへ」

「や、やめてくれそんなこと言うの。恥ずかしい、ではないか……」


 何故だ、とミコトは心の中で呟く。あんな大胆な告白までしておいて、今更恥ずかしいと云うのは変な気分がした。


「クルモ、おっさんみたいな笑い方するな。気持ち悪い」

「おっさん予備軍が言うな」

「んだとぉ!」

「私は事実を言ったまでだよ、ふふふ」


 意味深な笑いを残して、クルモは広い温泉を泳いでどこかへ去っていった。


「どうして勇者は私のことは名前で呼んでくれないのだ?」

「いや、明らかに長いじゃん。ディレンデュールゼイン、とかさ」

「“ルカ”じゃダメなのか?」

「魔王が拒否したんじゃないか」

「それは、そうなんだが……」


 ルカは顔の下半分を沈めて、ぶくぶくと泡を立てている。


「呼んで欲しいのか?」

「そ、そんなことは言ってないぞ!魔王でいい!」

「そうか。そんじゃまた今度だな、ルカ」

「うえっ!?い、今呼んだな!この卑怯者め!」

「その割には嬉しそうじゃないか。顔がにやにやしてるぞ」

「み、見るなぁぁ!」


 ミコトに背を向けるルカ。顔は湯に浸かって逆上せたのか、真っ赤だ。


(今の無防備な状態。そそられる)


 中身は男子高校生のミコト。伊達に元の世界でいかがわしい物を見てきていない。

 友人の家で見せられたDVD。別に見たい訳では無かったのだが、付き合い上仕方のないことなんだ、とミコトは自分に言い訳をして、がっつりと見ていた。


「わ、私も……ミコト、って、呼んでいいか?」

「あぁ、別に構わないぞ。勇者の前にはそう呼ばれてたからな」


 名字が「あまつち」だから呼びにくいのだろう。自分のことを名字で呼ぶ友人は誰一人としていなかった。

 病院で呼ばれる時なんて、自分の名字が呼ばれても気づかなかった程だ。


「み、み、み、み──」

「どうしたんだよ。さっきは呼んでたじゃないか」

「う、うううるさいっ!いざ呼ぼうと思うと、どうしても、意識して……しまうんだ……」


 音楽記号デクレッシェンドの如く、か細くなっていくルカの声。

 魔王のくせに、とミコトが呟く。ルカにはそれが聞こえたのか、勢いよく顔を上げた。


「魔王だって恥ずかしい時は恥ずかしいんだぞ!ミコトとお風呂入ってる今だって、心臓バクバクなんだからなっ!」

「はい、よく言えました」

「あぅ…私を煽ったのか、勇者のくせに」


 ミコトは敢えて無視をする。


「なんで無視するんだ?」


 答えはない。眼前で手を振るも、反応なし。

 ルカは真っ赤な顔を湯に一度浸けて、ミコトと目を合わせる。


「み──ミコトの、いじわる……」

「あはは、悪い悪い」


 ミコトは笑って返す。


「にしても、魔王はここまでウブなんだな。俺が今まで会った女の人で一番だ」

「笑うでない。ゆ──み、ミコトは平気なのか?」

「いや全然。今でも心臓バクバクで破裂しそうなんだけど」

「それじゃあ、どうしてそんなに余裕そうなんだ?」

「それは──」


 ミコトの視線がルカから外れる。


「──俺が逆上せてるからかな?」

「勇者!?勇者!バカかお前は!」


 目の焦点が合わないほどに逆上せたミコトは、湯に浮かんだまま静かに意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ