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第六話

『敵機動部隊見ユ』


ついに敵機動部隊を発見した、

艦橋は緊張感に包まれており南雲機動部隊への被害やミッドウェーの爆撃の成果やらが矢継ぎ早に報告されている中での出来事だった、


「長官、ここは発艦を優先させるべきだと思います」

「しかしだ、南雲さんの方の支援をしていたA6Nが間もなく帰ってくるぞ」

「敵の飛行甲板さえ潰せれば…」

「相手も南雲さんを見つけた時点で発艦は済ませているだろう、今更攻撃隊を差し向けても空振りだ、それよりも一式陸戦を上空の援護に回した方がいい」

「確かに一理ありますが…」


しかし発艦が先というのはあながち間違いではなかった、

なにしろ着艦するべき機体はまだ南雲機動部隊の空の上である、

間もなく飛行甲板には一式陸戦が並べられた、

中島零戦のA6Nとはタッチの差で上空援護を交代する予定である、

水冷発動機のため心配されていた稼働率はなんとか全機発艦を実現してはいるが、

いつどの機体が離脱してもおかしくはなかった、


「うーん、異常無し…」

「機械を疑っても仕方ないぞ、発動機というのは気まぐれだからな」

「しかしですねぇ…」


水冷に対する不信感丸出しの栗城が艦橋から身を乗り出さんばかりに音を聞いている、

音を聞いて発動機の調子がわかるのは熟練した整備兵くらいなのだが、

やがて暖機が終わると一番先頭の機体が飛行甲板をゆっくりと進み始めた、


「確かあの機体君の所の女の子だろ」

「腕は確かですよ、先頭でヘマしたら空母がただの鉄箱になります」


スッとした真っ直ぐな発艦でやがて上空で編隊を組むために旋回をはじめる、

続く機体も次々と発艦をしていく、


「南雲さん所の二式偵察機が誘導電波出してますね」

「いよいよか」


無線から流れてくる座標や電気信号から推測するに第一次攻撃隊が発艦、

それと同時に隼鷹にも入電、


「無線封鎖を破ったのか!?」


驚きを隠せない艦橋の面々がお互いの顔を見合わせている間に電文は読まれていく、


「上空で待機中の一式陸戦を攻撃隊護衛として投入か」

「どうしますか長官、もし一式陸戦を攻撃隊護衛に回すとしたら南雲さんの上は零戦しか居なくなりますよ」

「ふーむ…」


最後の一機が飛行甲板から離れた、

上空では既に命令を待つために旋回を続けている、

A6Nも既にこちらへ向けて飛行中、


「戦闘機の着艦から補給、発艦までどれくらいかかるかね」

「多少時間はかかりますね」

「半分に分けろ」

「はい?」

「半分を予定通りに南雲さんの方へ、もう半分は攻撃隊の護衛に回せ」


慌てて無線室が上空の戦闘隊へ情報を通達する、

上空でしばらくやり取りがあったあと戦闘隊は二手に分かれて雲の上へ消えていった、

一方で電探室は米軍の航空隊の情報を南雲機動部隊へ発信していた、

送信するか迷っていたところに無線封鎖の解除もありこうして慌ただしく電文が打たれていた、

二一号電探は珍しく良好な性能を示していた、

出撃前の突貫工事で万が一の事態に備え同じく二一号電探を装備していた戦艦伊勢を編入するという案も提出されたが、

伊勢は後から出撃する主力艦隊の警備を兼ねているためとてもじゃないが引抜けなかった、

そこで二一号電探を隼鷹にも搭載するという案が提出されそして突貫工事をして今に至る、

ミッドウェーへの道中は整備兵が電子機器やら真空管やら見たこともないのを参考書相手に必死ににらめっこしていた成果が上がったというべきなのかそれとも機械の気まぐれなのか、

そのため隼鷹は南雲機動部隊から付かず離れずの距離をとっていた、


「………ん?」

「どうした、何かあったか」

「いえ、おかしいんです、南の方にも敵の反応があるみたいでして」

「南?敵は東だぞ、ちょっと見せてくれ」

「これです、ここを見てください」

「………確かに反応が出ているな」

「ミッドウェーですかね?」

「わからん、だがこのままだと進路を察するに南雲機動部隊の上を通過するぞ」

「うーん………」

「………そうだ、今一式陸戦はこの位置か?」

「はい、この位置です」

「この一式陸戦隊に入電できるか?」

「出来るとは思いますが、聞いてくれるのかは………」

「とにかく一人入電担当を見つけろ、そいつに一式陸戦隊への入電をやるように」

「了解しました」


慌ただしい電探室でのこの戦闘記録にも残らないような些細な会話が、

この後の戦いを大きく左右することになる、

そうとは知らずに艦橋の面々はただA6Nの着艦と敵に見つかる可能性について議論していた、


「うーん、着艦で無茶をやらかさなきゃいいんですけどね」

「心配のし過ぎだ栗城君」

「うーん………」


どうやら訓練時の荒々しい着艦がよほど脳裏に残っているらしく、

一式陸戦では発動機、A6Nでは搭乗員の技量を疑っているようだ、


「………やはり攻撃隊護衛にあの二人を向かわせるべきだったのかはたまたこのまま………」

「もう既に決まったことじゃないか、しかも今呼び戻しても燃料の無駄だぞ」


原は既に直感で感じてはいたが栗城という男は大事な局面ほど弱気に走る傾向があった、

訓練時の強気はストレスにより削がれ、

さらに現在の状況により本人の思考回路は常に相手の二~三手先を読もうと様々な思考をし、

これが堂々巡りして段々とマイナスな方向へ脱線してしまうのだ、

実際珊瑚海ではダメコンをしていたため普通を装っていたが本人の神経にはとんでもない重圧がかかっておりそれを体を動かすことで紛らわせていた、


「ブツブツ………」

「栗城君落ち着きなさい………」


既に珊瑚海で空母と空母の戦いを経験した原はある程度の免疫を備えていた、

しかしその集中力も栗城をなだめるということでつながっている、

真珠湾の時に神経質過ぎて近づくのを躊躇うほどの雰囲気を発していた南雲の気持ちが少しわかった気がしたと後に記した、

一方で上空は二手に分かれた一式陸戦のうち南雲機動部隊へ向っている方の無線機が母艦からの電波をキャッチしていた、


(南の方向?)


ミエールが黒板にドイツ語を書き僚機のアンナへ確認を取っていた、

通信機ではなく黒板を使ったのはたんに九六式時代の癖だった、

他の隊員は無線機でワイワイガヤガヤとお互いに確認し合っていた、


(確かに南と聞こえた)

(南には何も無い)

(でも行くしかない)


やがて先頭を行くミエールは大きくバンクをふると無線機の指示通りに南西方面へ舵を切った、

それに続く形で他の隊員も疑心暗鬼になりながらも付いていく、

この時、遥か雲の向こう側にマクラスキー少佐率いる33機のSBDドーントレス偵察艦爆が変針を行おうとしていた、


(雲が多い)

(もっと上に?)

(Jawohl)


マクラスキー少佐が変針をしたのと同じ頃、

ミエール率いる一式陸戦隊は視界確保のため上昇を行った、

すると前方の雲間に光るものを見つけた隊員が無線に叫ぶ、


『て、敵機!!!』

『落ち着け!!!再確認しろ!!!』


ピーガーと無線入り乱れる中でミエールとアンナは黒板で冷静に判断していた、


(どうします?)

(行くしかない)

(Einverstanden)


上昇は急遽中止する事をカタカナな日本語で無線に伝えると了解と返事が帰ってきた、

雲の合間を縫って接近を試みた、


『米軍機だ、始めてみた………』

『あぁ、あぁ、俺もだ……』


雲の合間から見えたのはこちら以上の米軍機だ、

機種は戦闘機なのかと判断に困る中、

米軍機が先に決断を下した、


『旋回機銃!?』

『攻撃隊か!?』


(艦爆だわ)

(今確認した)

(突撃命令を)

(Geht klar)


『トツゲキセヨ』


エンジンはまだ好調、

今のうちに叩き落とさんとばかりにエンジンがうなりを上げる、

艦爆の後ろ上方からの攻撃は危険を伴うのを既に珊瑚海で経験していたにもかかわらずミエール隊は後ろ上方から坂落としを敢行した、

この事は無線を聞いていた隼鷹艦橋でもまさか本当に敵航空隊が居たとは予想外で唖然となり、

栗城に至っては額から滝のように汗を浮かべて数珠を取り出して念仏をはじめる有様だった、

さらにこの時別の方角にも敵航空隊を目撃したと航空無線が入っており、

ミエールは目の前の艦爆たちを坂落としの反動で下から攻撃、

二分の一にまで減らしていた、一方のマクラスキー隊もミエール隊を数機撃墜しており下方でパラシュートが開くのを確認していた、

ついにマクラスキー隊の爆弾放棄を確認するとミエールは水平線に南雲機動部隊も視認、

急いでもう一つの敵航空隊へ変針を行った、

既に24機居たミエール隊もマクラスキー隊の粘りの攻撃により20を切っていた、

しかしあちらも20以下、多少の勝算はあった、

マクスウェル・レスリー少佐率いる17機のドーントレスは南雲機動部隊を視認、

同時に後方から接近する戦闘機隊に焦りを感じていた、


どちらが先か、


南雲機動部隊も雷撃隊の対処をしていた為対空砲火のスキが生まれていた、


後方から接近する戦闘機隊に狩られるのが先か、


それとも我々が日本海軍の空母に爆弾を叩き込むのが先か、






無重力が先だった、

穴の空いたフラップが空気をつかみ、

加速しないようにエンジンを絞る、


静かになった空に、

降下音が響き始めた、


「敵機直上!!!急降下!!!」

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