第三話
水冷発動機が唸りをあげた、
そこはやはりドイツの整備兵である、
日本の整備兵とは違い水冷発動機に熟知している、
艦首の飛行甲板をそのスパッツの綺麗な脚でけると、
機体は空に浮かび上がった、
綺麗にすんだ蒼空と蒼海はまるでその境界線を隠すごとく、
戦闘機乗りはその無意識のうちに周囲を警戒してしまう、
特に九六式は後方の視界が最悪であるために余計に警戒してしまう、
そして、
彼女達は雲の下に味方の零戦隊と敵の攻撃隊を見つけた、
キラキラと輝くジュラルミンの機体は、
まことに優雅に宙を舞っていた、
外側から被せられた急造の密閉風防から、
攻撃隊の目標も見えた、
少佐が危ない、
ドイツから遥々やってきた彼女達の世話をしていた彼は、
ひたすら空母の飛行甲板の穴埋めをしていた、
今攻撃されれば間違いなく少佐が吹き飛ぶ、
とっさの判断とは言えど、
うかつにも彼女達はドーントレス艦爆の上後方から坂落としをかけた、
機体がガクガクと震えた、
被弾していた、
7.62ミリの連装機銃が後部座席から雨あられととんできた、
相手も生きる事で精一杯なのだ、これが戦争だった、
窓の防弾ガラスにヒビが入る、
そのヒビの数は増えていく、
機首の機関砲のスイッチを押し込んだ、
ドーントレス艦爆はその翼をもぎ取られ、
悶え苦しむ如くバラバラになっていく、
パイロットはパラシュートで脱出した様だ、
空には二輪の白い花が咲いていた、
重巡と駆逐艦の対空機銃などが火線を引く、
続けざまに撃たれるその火線はまるで花火大会の様に綺麗な色をしていた、
しかし、それは確実に人を殺せるだけの威力が込められているのだ、
一つの火線がデヴァステイター雷撃機を捉えた、
ボウと火を噴き出し海面へ尽きた、
艦爆乗りは高射砲を嫌う、
艦攻乗りは対空機銃を嫌う、
零戦の制空隊は遭遇した殆どの敵の攻撃隊を撃墜、
雷撃機も壊滅した、
取り囲む重巡と駆逐艦の火線も収まった、
なんとか今回の攻撃を防ぎきった様だ、
制空隊が直ったばかりの飛行甲板へ着艦アプローチをかける、
直った所は真新しい木材なのか、他の部分とは色が全然違った、
一機、一機、また一機と、順調におりていく、
最後に九六式三号艦戦がおりる、
真っ先に整備兵と少佐が駆け寄ってくる、
「だいぶ無茶したな、整備兵達が泣くぞ」
そう言って笑顔で少佐が言う、
機体を見て初めて気づいた、
機体が穴だらけなのだ、
おそらくドーントレス艦爆の時であろう、
風防も見るも無惨に白く曇っている、
整備兵達には申し訳ないが、
だいぶ無茶したと自覚した、
そんな思いをしている間も、
艦隊は確実に南下を続けていた、