雷光の轟き
押しているのは俺で、手数が多いのも俺で、勝っているのも俺だ。ただ、あいつはさっきと違って、反撃してきただけだ。なのに、なんで……!!
焦ったストロジアが特大の火球を放つ。火球は魔力の注入が未完全だったためか追尾性に欠け、アーノルドは安々と躱した。ついでにしなやかな蹴りを胸板に叩きつける。
「ぐっ……」
ストロジアは呻きながら、後ろにさがり、息を整える。
体力の限界がきているわけではない。しかし、息の乱れが激しい。恐らく精神的に追い詰められているのだ。
それを認めたくないのか、ストロジアは軋む身体を顧みずに速攻で攻撃にいく。
が、ストロジアの身体を包む空気が突如重くのりかかるように感じて、がくりと膝をつく。
「重力操…作?」
難度S。ストロジアも過去に試みたことがあるが、大した効果にはならなかった。それが、アーノルドにかかれば容易く………。
それでも、苦悶の声をあげながら立ち上がり、ほとんど意志力でアーノルドに向かった。しかし、動きが鈍くなったストロジアをアーノルドが逃すわけがなかった。
剣を中段に構えた突進をひらりと躱し、手刀でストロジアの手首をしたたか打った。全身まで貫いた強烈な痛みに思わず、愛剣を手放す。
その隙を狙って、アーノルドは蹴り技をいくつも入れる。
「くそっ……!」
毒づきながら、気力で愛剣を握り直し、振り回す。
「おっと。」
身体を反らして避けたアーノルドは、ストロジアから距離を開け、見据えた。
「もうそろそろ終わりにしましょうか」
疲労困憊のストロジアをよそにアーノルドは悠々と言い放った。
「まだ……。まだ、だ。」
負けてたまるものか。今まで何度も勝負して、何度も負けた。その度に血反吐を吐くまで鍛錬して皮が破れるまで剣を握った。
辛くて人知らず嗚咽を漏らしたこともあった。
それでも、諦めることはしなかった。否、できなかったのかもしれない。勝たなければならないという固定観念は今も昔も変わらなくて。
未だに闘志を手放さないストロジアにアーノルドは淡々とした声音で吐く。
「いや、“終わり”です」
不意に聞こえたのは、ドガァーン、という嵐の予兆に鳴るあの音。ピカリ、と音に合わせて閃光が走った。
雷。
暗雲が空を覆い、稲妻が雲を透かして見える。轟く雷鳴は、野獣のごとく。
「な……んで砂漠に……」
零れた問いはとうに答えを知っていた。
砂漠には雲はおろか雨も降らない。だが、雲をつくりだす“方法なら”知っている。天気をいじり、多量の水蒸気を発生させる。その他諸々条件を整えればよい。そして、雷にするには静電気を雲の中で発生させればいいのだ。
ストロジアとてできないわけではない。場所とタイミングがあればいくらでもできる。ただ、“砂漠”で、“無詠唱”で、“戦闘中”にできるとは自分でも到底思えない。砂漠で雲をつくるなんて世界単位での天候の調節が必要で、雷に充分な雲量をつくるにはかなりいじる羽目になる。
魔術の理論上は可能だ。しかし、それが実際に成功したためしなど聞いたこともない。
……いや、ストロジアも些少は可能性に入れていたのだ。“あの”アーノルドクロノスの行うことは未知数であり、油断はできないと。しかし、自分が優勢にたっていたとあって気が緩んでいたということもあるが、暗雲が覆っていたこと自体にに気が付かなかった。
今ならその理由が解る。偶然気付かなかったわけでないと。
「雷光虎の分身は俺の気を逸らすためか……」
仮にティアルディリシアの分身なしで決闘を行っていたら、雲の存在にいち早く気づき、阻止できていただろう。明るい星光が陰った時点で異常がわかる。光源はその光しかないのだから。
だが、複数の光源、しかも光量が充分にあるとなれば、星光が見えなくなったという差違も気付くことが出来なくなった。
「最初から……、仕掛けてたのか。随分と計画的な奴だな」
「他にも伏線はつくってましたよ?念には念を、とは言いますし」
淡々とした口調が気に障る。しかし、この状態まで追い込まれて“負けてない”と言い募るほどみっともない輩にはなりたくなかった。
畜生。
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生ッッ!!
「加減はしますから」
言った途端に、アーノルドの掌から閃光がほとばしり、呼応するように暗雲に白い稲妻が走る。
そして、強烈な雷撃がストロジアの身体を貫いた。




