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相互理解は必要です





「……ほんとにえらい目にあいましたよ。まさか首絞められるとは思いませんでした。」


「……その件は悪かった。」


エドウィンが自らの失態を悔いるように唇を噛む。


状況説明からいうと、説教にあんまりに熱が入りすぎて、襟首どころか首まで掴みあげていたらしい。エスラの示唆で慌てておろしたが、アーノルドは軽く意識混濁しており、数分間咳き込んでいた。


『……茶番は終わったのか?私は早く帰りたいんだが。』


振り向くと、一部始終を呆れながら見ていたあの虎である。時間が立っても神々しさは変わらない。


「そ、そういえば、この虎は何なんですか!?」


『小娘風情に“この虎”呼ばわりされる覚えはないんだがな。』凄むような不機嫌な声。


「す、すみません…。」つい体を縮こませてしまった。


対して、アーノルドはその虎に近付き、宥めるように喉を撫でる。


「彼女達はあなたがたのような存在を見るのは今日が初めてなんです。大目に見てやって下さい。」


言うと、エスラ、エドウィンの順に流し見る。そして、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


やれやれとアーノルドが肩を竦める。


「彼は初対面の人間を警戒するタチですから。気にしなくていいですよ。」


エスラが振られるがままに頷くと、アーノルドも頷き返した。


「さて、“魔法獣”の話てしたね。」


話題を転換し、もう一度虎を一瞥した。


「彼は雷光虎ライニングタイガーと言う魔法獣の一種です。名はティアルディシリア、俺はティアって呼んでますけど。」


「あのー、まず魔法獣って一体なんなんですか?」


そう言うと、アーノルドはきょとんとしたように間が空き、あぁと続けた。「そういえば説明がまだでしたね。」


「魔法獣とは魔素を扱いし生物を指します。魔素を体内の栄養の根源とし、魔素を摂取することで生命活動を行うんです。」


「じゃあ、魔術を使う訳ではないんですね?」


「はい。けれど、魔素には個々の能力を助成することも出来ますから、種族によって怪奇極まる特別能力を持ってます。先程の吸引小人もまた然りですね。」


樹木をなぎ倒さんばかりの吸引を思い出して、ゾッとする。


「彼らは肺を魔素によって強化することで、あの尋常じゃない肺活量、吸引力を生み出しています。」


「はぁ……。そのと…じゃなくてティアルディシリア…さんも魔法獣なんですね?」


「そうですね。魔術師が魔法獣を扱う場合は、契約を結びます。結んだ魔法獣だけが、契約に基づいて使役することができます。

尤も彼は俺の遠い先祖が契約を結び、代々継承されてきただけなんてすけど。」


「継承…ですね。」


受け継がれている、くらいの意味しか分からないがとりあえず分かった振りしてスルーする。これ以上脳に知識を詰め込んだらパンクする。


「魔法獣に契約に従って魔力を与えることが、魔法獣を使役することの代償です。

何日毎とか量は個体によって変わってくるんですけど、俺が所持している魔法獣は膨大ですからほぼ毎日魔力の投与を行っています。」


「へぇー…、大変ですね。」

と相槌を打って何か引っかかるものを感じた。


昨日、愚痴っていたエドウィンの言葉がリンクする。


『夜中まで読んでんだが、書いてんだが、よく分からんことをして。あまりにも腹が立ったんで、本を無理やり奪って閉じたら、凄い剣幕で取り返されて。“また、最初からになったじゃないですかっ”ってな。』



エドウィンも思い当たる節があってか尋ねた。


「もしかして幾晩幾晩、夜中まで本をいじくっていたのは、その魔力の投与を行っていたためか?」


「それ以外にも、魔法獣との契約の更新もまめにしないといけませんし、魔術の整理もしないといけないんですよね。」


「前言ってた“最初から”ってのはどういう意味だ?」


「何かをいじったときは魔術書を閉じるときに必ずセーブみたいなことしないといけないんですよ。それが一回三分くらいかかる呪文でして。

だから最後にまとめてやるんですけど、呪文を唱えないで本を閉じると、既に投与した魔力も記録に残らないもんですから、魔法獣が記録に書いてないんだからもっかいよこさないと契約違反だ、ってねだるんですよ。

契約の更新もオールリセット。やる気なくなりますよね。」


しみじみと苦労話を語るアーノルド。それがアーノルドの夜更かしに繋がり、エドウィンの睡眠不足に繋がるわけか。エドウィンは脱帽したように大きく息をついた。


「……一ついいか。」


「はい?」


エドウィンはキリッとアーノルドを睨み付け、怒鳴った。


「私が時間をとるから12時以降は寝かせろ!!」


「え、何ですか、いきなり傍若無人な。」


「異論は認めん!」


「はい!?」




年甲斐もなく大の男がぎゃあぎゃあ騒ぐ様を見て、ティアルディシリアは一言。



『……帰っていいか、もう。』





ちなみに、町民たちは突如吹いてきた突風より山から町の隅まで響いた獣の咆哮のほうが恐怖を煽ったらしい―――……








二章終了!


説明ばっかで頭がこんがらがりそうでした。


次章は、魔術師らしくちゃんとバトルが入る予定です。

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