第五話 一目惚れ
またドラゴンの火炎弾の音だろうか…。
たまに凄い音の爆発音が聞こえる。
それにしても凄い…こんなマナを持っているなんて…いったい誰なの!?
乗っている馬は今にも悲鳴を上げて倒れそう。
そして数分後、ドラゴンのマナと誰かのマナのぶつかり合いは消えた。
「終わったみたい…だね…。」
「そうね…。ここからは馬を降りて行きましょう。」
マナを使わずに自分の体力だけで走る。
もしドラゴンが生きていたら気付かれてしまうからだ。
「なに…よ…。これ…。」
目の前には私達が倒した倍は在るであろう程のゴブリンの死体が転がっていた。
「全部真っ二つだよぉ…。」
「ドラゴンの仕業…じゃ無いわね…。」
そうよ…ドラゴンの攻撃によるものなら死体は原型を留めることは無い。
全てバラバラか、焼き払われている…。
「これやったの…人間かな…?」
ドラゴンバスターでもこの荒野のドラゴンには手を出さないほど強い…。
だから人間如きにはそんな芸当は出来はしない。
そしてそのまま進むにつれ、ゴブリンの死体数はドンドン増えていく。
「凄い……。」
それしか言えない。
昔この世界を救った英雄でもこんな数相手では流石に辛いだろう。
しかもドラゴンと戦いながらで…。
「ねぇ…この声…。」
「え?」
耳を澄ませると少女の助けを求めている声が聞こえる。
私とミラは声が聞こえた方に勢いよく走り出す。
「……うそ…。」
「ドラゴンが……。」
そこには信じられない光景があった…。
ドラゴンの背中には長く、見たこともない剣が刺さっていて、
その剣の側で少女に抱き抱えられられている青年が一人…。
漆黒色の髪をし、…漆黒色の見たこともない衣服を纏った青年…。
私はその姿に心打たれていた…。
「あなたは聖導騎士の!」
青年を抱き抱えている少女がこちらに気付いた。
「姫!」
私とミラは更に近くによる。
「姫…このドラゴンはどうして…?」
「そんなことは良いです!早く…アスカを……アスカを早く!!」
姫の目には涙が漏れていた。
ドラゴンの背に刺さっている剣を抜き、男の腰にある鞘にしまう。
そして私とミラで青年を肩を持つ。
そっと顔を覗くと、顔立ちの良い美青年が見えた。
少し私の顔が赤くなる…。
多分ミラも同じだろう。
ミラはいい男には目がないのだ…。
って…そ、そんなことより!
早くこの男をアイルクルーペ隊の救護班に連れて行かなくては。
一週間後…
男の命は取り留めた。
しかし未だあの男は目を覚まさない。
「起きませんねぇ…。」
「そうね…。もう一週間経つわ。」
男はたまに魘されることがあった。
その度にミラと私で看病する。
やはりミラもこの男に一目惚れしたそうだ。
「私だけじゃなくレミちゃんまでもが心打たれましたかぁ〜。」
「そ!そんなわけないでしょ!」
本当のことなのだが、私は否定する。
その時、
「あの男が目を覚ましました!」
と報告が入った。
私とミラはすぐに病室に向かって走り出す。
「あ、開けるよ…。」
ミラが恐る恐るドアを開ける。
ドアを開けるとそこには、男が窓の外を眺めていた。
風で靡く漆黒の髪が心惹かれる。
「ん?」
男は私達に気が付いたのか振り向く。
「えっと……誰?」
その言葉に私達の緊張感が一気に解けた。
「ハイハイハ〜イ!私はミラ・シュリフで〜ッす。貴方の看病してましたぁ!」
先にミラが答える。
「私はレミリィー・クレミリヤです。同じく看護していました。」
とミラと違って礼儀正しく挨拶する。
「そっか……、ありがとう。俺はえ…っと……ん〜……、アスカ・フウインだ。」
アスカ…成る程、前助けたとき姫がアスカといっていたな…。
「アスカかぁ……変わった名前だねぇ〜。」
そんな礼儀知らずの言葉をミラが言った。
すると突然アスカはあたふたし始める。
何かを探しているのだろうか?
「俺の…俺の刀は何処だ!?マイソード!」
ソード?あぁ、剣のことか。
「あの剣なら私が預かっているわ。」
そう言った途端アスカは驚いた。
「えっと…あれが見えるの?しかも触れる!?」
「え、えぇ…しっかりと…。」
アスカが看護施設に着き、私は彼の武器を預かっていた。
するとアスカは心配そうに私のことを見てきた。
「な…なにか?」
「いや、あれってちっとばかし危ないんだ。だから俺以外の人が持ったらホントはいけないんだよなぁ…。」
しかしあの剣を触ったときは物凄く威圧感があったと思った以外何ともなかった。
因みにあの剣は今私の部屋にある。
それにしてもこの人があのドラゴンを倒したのよね…。
今この世に居るドラゴンバスターでもあんな上級ドラゴンを相手になんかしたがらない…。
それとミラ……何であんたはアスカと親しげにしてるのよ…。
バタン!
いきなりドアが開けられた。
そしてそこからは姫が息を切らしながら立っていた。
私は即座に頭を下げる。
ミラも同じようにする。
「アスカ!起きられたのですね!」
慌てている姫にアスカは…
「お陰様で。この二人が俺を看病してくれたそうだ。いやぁ〜、もっと早くに起きていたかったなぁ〜。」
「姫に無礼だぞ!」
私は咄嗟にアスカを怒鳴ってしまった…。
「良いですよ。私のことはミリア、と呼び捨てで。」
「し…しかし!」
「それとアスカ…。少しお話をしたいのですが…お体は大丈夫でしょうか?」
「うむ、かわいこちゃんの御陰で。」
少し顔を赤くした自分が恥ずかしい…。
「そうですか、でしたらこちらへ。」
そう言って姫はアスカを連れて何処かに行ってしまった。
「ん〜残念♪もうちょっとだけフウちゃんと話していたかったのになぁ。」
「フウちゃんって誰よ?」
「フウインでしょ?だからフウちゃん♪さっき了解得たから大丈夫だも〜ん♪」
「…あっそ。」
「あれ!?まさか…ヤキモチ?」
ボッと私の顔が赤くなる。
「そ、そんなわけ無いでしょ!」
「そうかそうか……ヤキモチか…。」
駄目だ…もう何言ってもミラは信じないだろうな…。
でも…
確かにもうちょっとだけ話していたかったな…。
やっと五話まで出来ました!
感想・メッセージ等をお待ちしています。
これからも「太刀は月下で嘲笑う」を宜しくお願いします。