悩みすぎるとハゲますよ
続きを書きたくなったので、
「俺様生徒会長様と二重人格風紀委員長様」http://novel18.syosetu.com/n8474p/
に連載小説として上げ直しています。
お気に入り登録をしてくれた方がいるので、こちらはこのままおいて置きます。
私は疲れ果てていた。表人格がまともに機能しなくなったせいで、フォローに追われていたのだ。
表人格の名前は宵月真智。真智はある金持ち全寮制男子高で風紀委員長を務めていたのだが、先日転校生が来てからは彼を追っかけ回すばかりで、まともに働かなくなってしまった。のみならず、勉学にも身が入らない体たらく。
真智の家は、お金持ちではない。なのに金持ち学校にいられるのは優秀な成績により特待生制度を利用しているからである。つまり勉強しないと退学になる。
そんな訳で私が真智の代わりをするしかなく、回らぬ頭で必死こいて勉強に励み、元々無気力なのに風紀委員長としてのキツい仕事も果たし、しかも真智の欲望を一々抑えながらそれらを行ったため…私は遂に倒れてしまった。
(もう嫌だ、疲れた、疲れた、疲れた。このまま自殺してやろうか、ざまぁ見やがれってんだ、表人格め)
風紀室で1人残業していた私は、そんなことを考えながら椅子から崩れ落ちた。
ガターン、ガガガン!
大きな音が響く。廊下や隣室に人が居たらさぞかしぎょっとするだろうが、もう時間も遅いので誰も残っていないだろう。
「もうやだ…」
誰も居ないと思うと、我慢していた文句がぽそりと漏れた。
「風紀委員長様が、ずいぶんとみっともねーザマになってんじゃんか」
「!」
予想外に掛けられた声に弾かれたように振り向けば、生徒会長がドアの隙間を広げて入ってくるところだった。そういえば、空気を通そうと思って少し開けておいたんだった。今の独り言、聞かれただろうか。表人格なら絶対しない醜態である。やばい。
「見てたのか」
「お前が椅子から雪崩れるところからな。かっこわりぃの」
「うっせ」
体に意識して力を入れ、キビキビとした動作を心がけて立ち上がる。そうしないと、また倒れそうだった。
「帰る。鍵閉めるからお前も出ろ」
「お前そんな体たらくで帰れんの?顔真っ青だし」
「帰る」
ボロが出ない内に。それにこいつを追い出さないと風紀の門外不出の資料なんかを見られそうだ。
残っている書類を何束か鞄に入れ、風紀室の外に出る。ついでに生徒会長を追い出してドアに鍵を掛けていると、会長はさらに話しかけてきた。さっさとどっか行ってくれ。私は疲れてんだよ。
「そんなに書類持ち帰るのか…。お前、真面目ちゃんになったよなぁ」
「は?」
「勇輝が来る前は、勉強なんかしなくても解ります、仕事も大したことありません、って、もっとスカしたツラしてた癖によ」
「別にそんな風に思ってないし、何も変わってない。まぁ、風紀の仕事は遠野が来てから増えたが」
誤魔化したが生徒会長の指摘は図星だった。天才の表人格と凡人以下の私では、いくら気をつけて同じように振舞ってみても全く同じになることは出来ない。しかし細かい癖まで気をつけて演じていたのに、生徒会長も良く見ているな。それくらいでなきゃ生徒会長は務まらないのかも知れないが。
ちなみに「勇輝」も「遠野」も同じ人物を指している。遠野勇輝。先日きた転校生で、表人格がうつつを抜かしている相手だ。
そういえば、目の前の生徒会長は転校生にうつつを抜かしている筆頭じゃんよ。
「そうだ。お前、今日は遠野と一緒にいなくていいのか?」
「そっちこそ『遠野のせいで仕事増えた』なんて言うとはびっくりだ。アイツにいってやろうか」
素朴な疑問と「さっさと転校生の所に行ってくれ」という思いを込めて発言したが、どうやら遠野に関する牽制だと思われたらしい。攻撃を返してきた生徒会長の顔は、「弱み握ったり」とでも言うような悪い笑みで彩られていた。それでも悪人面にならずにサマになるのは流石ランキング一位といったところか。生徒会長のことをよく知らなければちょっと見とれていたかもしれない。中身はお近づきになりたくない俺様だが。
それはさて置き、さっさと会話を切り上げたい。遠野のことで反論しないのは真智としては少し不自然だが、スルーすることにした。
「別に構わない。主原因は遠野よりもこの学校の風潮にあるとは言え、あいつが周りを見ないのも大きな原因だ」
生徒会長はこの発言にいたく驚いたらしい。目を丸くしてさらに質問を投げてきた。失敗した。
「お前、意外と辛口だな。遠野が好きなんじゃなかったのか?」
相手を続ける羽目になり、後半の説明は付けなきゃ良かったと後悔しても後の祭りだった。
「遠野は好きだが、アイツは自分の性格とこの学校の相性が最悪なことに早く気づくべきだとも思ってる。それだけだ。別に矛盾はないだろ」
だからもう質問すんな、という思いを込めて最後の一言を吐き出す。
なお、転校生を好きなのは表人格だが、私も転校生単体では別に嫌ってない。やや空気が読めないが、基本的にはいい子だ。ただしその空気の読めなさがこの学校では問題となる。ひいては風紀の仕事が増え、私の負担が増えるのだ。……やっぱもうちょっと空気読めるようになってくんないかな。
「いや、やっぱり今日のお前は妙に辛口だ」
「好きな相手だからって全肯定する奴もいないだろ。普通だ」
答えながら歩き出そうと一歩踏み出したところで一瞬くらりと視界が歪み、本格的にヤバいと気づく。なおも絡んでこようとする生徒会長を避け、早足で歩き去ろうとしたところで力が入らなくなり、
「ひゃっ、わわ」
また倒れそうになったところを生徒会長に支えられた。てっきり無様に転んだ所を笑われるかと思ったが、思っていたより悪い奴じゃないらしい。
「悪い…助かった」
「ふ」
人が礼を言っているのに何故笑うのか。やっぱ嫌な奴だ。さっきのは取り消そう。
「何笑ってる…」
「『ひゃっ』か。冷酷俺様風紀委員長様に似合わず、可愛い悲鳴じゃねーの」
「うっさい…」
こっちだって好きで冷酷俺様風紀委員長をやってるわけじゃないのに、必死なのに、とっさに出た声一つで馬鹿にされるとは。表人格の地だからこっちじゃどうしようもないのに。すげぇムカつくし、無力感に泣きたくなる。
(…って、待て私。ちょっとからかわれただけじゃん。怒ることも泣くこともないじゃん。疲れすぎて気分が不安定になってんのかな…。もー、本当早く帰りたいわ)
何とか冷静さは取り戻したものの、感情の揺れはおさまりきらずに少し涙が滲んだ。見られると不味いので顔を背けて生徒会長の腕を外しにかかる。が、顎に手を当てられて強制的に生徒会長の方を向かされたと思ったら、衝撃を受けたように目を見開かれ。
ちゅ、と。
唇を重ねられた。
「は?」
「…」
何故かキスをしてきた張本人まで呆然としている。
「お前、何すんだっ…!」
怒りのまま叫びながら殴ろうとしたところで遂に意識が持たなくなり、ブラックアウト。目を覚ますと保健室のベットの上だった。
その後、風紀委員長を保健室に送り届けた生徒会長は、ひたすら何かに悩まされていた。
「いやいやいや……俺が狙ってるのは勇輝だし。よりによってアイツ相手に可愛いと思うなんて、ありえないし。別に潤んだ目がどうとか思ってないし。ああでも齧り付けば良かっ……いや何考えてんだ、ない、ない、ないったらない。キスした後のきょとんとした表情をじっと眺めたりもしてない……ないっていってんだろがー!なんで思い出すたびドキドキしてんだ俺!そっちに行くなあぁああ!寝顔も可愛かったりとか、しなかったから!絶対そんなことなかったから!俺止まれええええ!そっちは何かオカシイ道だからああああ!」