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よしなしごと  作者: くるすなたか
2/2

十一月 2

この小説は、事実に虚偽を織り交ぜた半フィクションストーリーである。


 [内科特別室]では、30代くらいの男の看護士と、40代後半くらいの医師が待ち構えていた。

「柔らかな医者っぽい口調で僕に聞いた。

 少し考えたが、僕は絶対に正直言わないといけないと思った。これでただの喧嘩やプロレスごっこで済まさると、絶対にいいことは起きない、直感でそう感じていた。

 それは直感ではなく、自分の正義感と、彼に対する嫌悪だったのかもしれない。


「………けられました。膝で。」

「え?けられたの?」

 その医者は、驚くともなし、同情するでもなし、こちらから見て何を考えているかわからない表情をしながら受け答えをしていた。

 どういう状況で蹴られたか、鼻血の量、その怪我について本当のことを、正直に、全て話した。

「じゃあ、とりあえずCTスキャンで検査をしておきましょうか。」


 何故かその医師が同行して案内されたのは、[CTスキャン1」と書かれた部屋の前だった。

 保健の先生が持っている薄い黄色のクリアファイルをナースステーションのような所の看護婦に渡していた。

「10分くらい待ち時間いただきますけど」と看護婦は先生と自分に話しかけた。文章に書き表してみると、話が続くようなセリフだが、看護婦も、保健の先生も、自分も話を続けなかった。

 [CTスキャン1]の前にあったのは、[喫茶 ほすぴたる]と窓にシールが貼っている喫茶店だった。

{あったかい饂飩・蕎麦はじめました}だとか{タマゴサンド 350円}だとか書かれた紙がペタペタと窓中に貼ってあり、喫茶店の中の様子は殆ど見られなかったが、手前のおばさんがトーストに砂糖をふりかけていることだけは分かった。

 盲腸で入院していた時、何も食えない状態でタマゴサンドのチラシを見つけていたら、発狂したかもしれない。

 そんなどうでもいいことを考えれば、10分くらいの暇はつぶせるのではないか、と思ったが退屈な上、腹を立て、さらに不安な上での10分は30分にも、40分にも感じられた。

 周りの話に聞き耳を立てたり、周りのものをやたら観察したりしてひまをつぶした。


「オペ明日やろ?」遠くから若い男の声が聞こえてきた。

「名古屋までやったら何?近鉄?新幹線?タクシー?」今度はそれに相応する年の女の声だった。

 二人は誰も寝ていない移動式ベッドにもたれながら話していたが、三人目が奥からやってきた。同年代の男のようだ。

「新幹線が一番早いけど、金かかんで」

「経費で落ちるから新幹線でえっか。」女はなぜか落胆したような声で答えた。

 何の話か気になったが、看護婦の若い声で名前を呼ばれたため、席を立って[CTスキャン1]に一人で入った。

 待っていたのは片言のメガネをかけた医者だった。[李]という名字がちらりと名札から覗いた。

「ドコデケラレタンデスカ?」CTスキャンの台に寝かされながら聞かれたので起き上がろうとしたが、口だけでいい、というジェスチャーをされたので寝ることにした。

 枕らしき下に背骨置きらしき部分があったが、それのせいでやけに窮屈だった。

「膝です」

「ヒザ?」ある程度の日本語は喋れるようだったから、膝がわからないことはないだろうとは思ったが、指の自分の膝の位置を差した。

「アア、膝デスネ」今から思えば場所を聞いていたのかもしれない。


 スキャンがはじまった。{楽にしてください}{動かないでください}という女性の機械音が機械が発せられた。例の背骨置きで背骨が痛く、はじめてのCTスキャンだ。緊張するな、楽になれ、という方が不自然なのかもしれなかった。

 しばらくすると、台は移動し、元の位置に戻された。

 起き上がろうとしたが、奥で操作していた例の李さんが「オキアガラナイデイイヨ」と強めの口調で言った。

 李さんは奥にいたと思われる医者を呼び、話をすると、二人は少しあわて始めたように見えた。


 様子がおかしいな、と思い始めたころには、さっき名古屋に行く話をしていた男女がもたれていたようベッドに六人がかりで寝かされていた。李さんが「首ヲ特ニ気ヲ付ケテ」「ストレッチャー呼ンデ来テ」と他の五人に諭していた。

 李さんが幾度も「半年カ一年クライ前に首ケガシマセンデシタカ?」と聞いていたのがひっかかった。

 ベッドのまま運ばれた。医者の独り言によると病室が空いていないのでとりあえず[点滴室]においておくそうだ。

 点滴室では、李さんをはじめとする五人に首にコルセットのようなものを巻かれていた。真上しか見られず、窮屈にも程があった。

 これから暇な時間がありそうなので一眠りすることにした。

 起こされたのは、母が諸福でしているパートからかけつけてきた時だった。諸福からタクシーで駆けつけてきたと思ったが、バスで家まで戻り、マイカーで来たようだった。

 母はコルセットを見て驚いていた。先生から蹴られた時の状況の話を聞いた後、李さんから怪我の話を聞いた。


 母から伝え聞いた話だが、一年ほど前から骨折していて、自分は気付かずに生活していたらしい。

 なんてこった。

 だが、今回のでそれが悪化したらしい。

 なんてこった。



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