十一月 1
この小説は、事実に虚偽を織り交ぜた半フィクションストーリーである。
吉田兼好は心にうつくりゆくよしなし事を書き綴った。
僕もそうしたいと思う。
ある日、僕、来須菜高は大阪府大東市の野崎というところにある中学校でいじめられていた。
前からいじめられていたが、最近は相手も陰湿で、こちらも鬱憤がたまっていた。そんな時、国語の時間。分割授業とかで気の弱い若手先生の方に回されていたのが運のツキだったのかもしれない。
黒板に書かれたことをノートにうつす、うつさない以前にノートを取られてしまった。
最初は松口、という奴だった。
野球部ではレギュラーを張っていたが、悪ふざけが過ぎた。
ノートが彼の手に渡り、それを取りかえそうとしているうちにまた久木という奴にシャーペンをとられてしまった。結果的に神奈川や福村もかかわっていた。
なんとか取り返し、その日の授業は終わった。
だが、最後に久木に取られたまま、久木は教室に帰った。
チャイムは鳴っていたので、挨拶を待たずして久木を追った。なくされては元も子もないからだ。
向こうでは久木は平然と座っていた。久木にノートの在り処を強い口調で聞いてみた。
「藤に渡した」軽々とした口調で答えた。
藤を睨むと、挑発するような動作をしながら「さぁどこやろぉか?」など言いながら、こちらを睨み返してきた。
腹を立てた。
気付くと、つかみあいの喧嘩になり、まわりに人だかりができていたし、机の中の荷物は散乱していた。
力は五分五分だったからか、誰も止めようとしなかったが、喧嘩は中途半端に終わることになった。
喧嘩を終えて、ちらかった自分の机の荷物を直している時だったろうか。
須摩、という奴がいた。シニアリーグだかボーイズだかという本格的な野球チームに入っていて、力も抜群に強かった。途中で学校を堂々と抜けられる不良だったが、友達当たりはよかったようだ。
僕は元々あまり好きではなかったが。
そいつが「こっちやし!」とか叫びながら、イスの下からノートを取り出した。
ちなみに彼が座っていたイス、すなわちノートを取り出したイスは藤のイスだった。
面倒くさいことはごめんだ、と思っているはずの割には怒りのあまり、僕は須磨に向かっていった。
ノートを取り返すことが目的だったが、彼はノートをどこかへ放り投げた。
個人的には「ふざけんな」と押したつもりだが、後から聞いた所ではつっかかってきた、と先生からの供述に答えているらしいので、怒りのあまりそうなったのかもしれない。
彼は中学に入ってから特に喧嘩早かった。
抜群な力で半開きのドアを蹴飛ばし、廊下にひきずりだされた。
そこからはよく覚えていないが、彼も鬱憤がたまっていたのだろうか。後から聞いた話によると、思いっきりの膝蹴りを五、六発受け、とどめの足蹴りで鼻血が噴出したそうだ。
唯一覚えているのは蹴られた時、脳内イメージは、まさに星が飛んだような画だった。
鼻血を床に、服につけながら、別府という保健委員に保健室に連れて行かれた。
途中に通るクラスの窓から、女子男子友達非友達問わず自分の顔を眺めていた。
「かわいそうに」の目だったのか、ただの物珍しさだったのか………………
なんとなく、それだけがかなり気になった。
保健の先生にビニール袋に入った氷水を渡され、十数分冷やしていると、チャイムが鳴ったが、精神的にも戻りたくは無かった。
先生は「病院に行かなしゃあないな」と諭すように喋ったあと、職員室の電話から誰かへ電話をかけている。
先生に連れられるまま歩くと、地元のタクシーが[送迎]という名目で正面玄関へ来ていた。
電話は、タクシー会社へかけたのだろう、と脳内で解釈した。
タクシーに乗ると、先生は中学校から歩いていけないこともないくらいの距離にある大東でたぶん一番大きい病院の名前を告げ、運転手は「はい」と頷き、メーターを作動させた。
タクシーは国道を山と沿って走っていくとぶつかる高架を左にそれると、大学の前の交差点で右折する。やがて、四年ほど前に盲腸で入院したこともある大きい病院が見えている。
盲腸で入院した時ははじめての「一人」であることあり、寂しくてヒマすぎて、なんといってもお腹がすいた。
あまり、いい思い出があるとはいえない。
先生が受付を済まし、お年寄りしか座っていない内科の待合室の前に座って、呼ばれるのを待った。
「来須さ~ん」
意外と早く呼ばれた。[内科 特別室]というところだった。
CTスキャンもしていなければ話もしていないが、あまりいい結果ではない気がした。