デイダラ 5
どうも、ヒロユキです。
三ヶ月ぶりの更新でしょうか。ずいぶん、間があいてしまいました。正直、続きは書けないかと半分諦めていましたが、やはり、最後までやらないのは、なんとも後味が悪い。なので、少しずつですが、書き進めていこうと思います。とりあえず、今は完走が目標です。
デイダラ。
デイダラ。
彼女がその言葉を頻繁に呟いていたのは、僕らが高校二年の夏休みだった。それは僕が思い出すに、彼女がその言葉を発していた以外に特に回想すべき事例の見当たらない無為なる夏休みであったことは間違いない。
なにしろ、僕らは二人して、休み中、健全な高校生たちに混じって海に遊びに行くでもなく、実家に帰省するわけでもなく、宿題に精を出すでもなく、クラブ活動に邁進するでもなく、漠然と茹だるような日々を鬱屈と過ごしていたからである。
中学を卒業し、僕と麻衣子は同じ高校に入学したわけなのだが、お互い友人を作るわけでもなく、いつも二人でだらだらとしていたので、当然と言えば、当然の結果なのだが。
まあ、そういうわけで、そんな高校二年の暑い夏のある日、僕と彼女はやはり、午後の気だるい時間帯を僕の家のリビングで漠然と過ごしていた。
具体的に言うと、家に置いている漫画という漫画を読破してみたり、彼女が提案してきた、正体不明の外国語が飛び交うむちゃくちゃなしりとりをしてみたり、テレビをつけて、ワイドショーに評論家気取りでコメントをしてみたりという行為を続けていた。
しかし、それも彼女がカーペットに零したソフトクリームの掃除を僕が任される頃になると、さすがに場の空気がひどくよどみ始めた。
二人してもふもふへもへもへとした味もしない綿菓子を胃袋の中に延々と詰め込んでいるような気分になってきたのである。
そして、ついに僕らは、そのあまりに退屈な時間に、ついに僕と彼女の脳が分離し、とろとろのスープになって溶けだしてしまうのではないかという狂気に満ちた錯覚を覚え始めた。
彼女は天井を指差し、
「嗚呼、あそこに天使がいるわ。こっちを向いて微笑んでる!」
と叫びだし、僕は僕で、羽の生えた奇妙なねずみをスリッパで叩き潰そうと走り回った。
そして、どうやらこれはまずいと危惧したらしい彼女は、急遽、図書館にでも行こうと提案をした。
「人々の深遠なる歴史が生み出した知的文化に触れることによって、私たちの精神はたちまち若き賢人の域へとレベルアップするはずよ」
と腰に手をあてつつ、言ってのけたのである。
僕には最初、それがただの取るに足らない戯言にしか聞こえず、下らないと計画を拒否しようとしたが、しかしながら、このまま何もせず、青春の一日を終えてしまうのはあまりにももったいない。それに、迸る青春のエネルギーを悉く怠惰な生活に葬り去ることは、ゴミの不法投棄に等しく法律に違反するのではないかとも考えられる。
つまり、このまま部屋で幻覚を見続けて一日を潰すよりは、よっぽど彼女の案は健全で、現実的で、魅力的で、合法的で、アグレッシブなのである。
よって、僕は結局、彼女に賛成することにした。
「そうこなくっちゃ」
彼女は調子よく指を鳴らす。