桜の園1
サクが自宅の戸を開けると日は西に傾いていた。紅くなり始めた光が目に染みる。
一瞬、振り返ってみるがそこには薄暗い家の廊下があるだけ。それを確認してサクはまた前を向いた。
「待たせたな、サク君」
少しそのまま待っていると晴影がサクの隣へとやって来てサクの顔を伺うように問いかけてきた。
「いいのだな?」
「いいです」
「そうか」
サクの言葉を聞いた晴影はと歩き始め、一言「着いてきなさい」とだけ言った。
サクはその背中を追いかける。もう振り返ることはしなかった。
「これから、どこに行くんです?」
半ば勢いで家から飛び出してしまったが、これからサクがどうなるのかはサク自身よく分かっていなかった。
「ほんとに……俺、魔法使いなんですかね」
晴影や晴輝からはそう言われたし、信玄のあの態度を見た限りみんなの言っていることは事実のように感じられる。
しかし、当の本人であるサクにははっきり言ってその自覚というものが微塵もない。
サクの心は支えを失ったかのように無様にも揺れているようだった。
「間違いない。君は由緒正しい魔法使いの家系だ」
サクは晴影の言葉をまだどこか他人事のように聞いていた。
「じゃあ……この後俺はどうなるんです?叔父さんが反対してるのにどうやって魔法学校に入ればいいのか……」
先程のやり取りだって、言わばサクが怒って家を飛び出しただけ。普通学校に通うとなれば手続きやその他もろもろ面倒臭いことがありそうだと思う。
そんなことをあの叔父が……しかもあれだけのことをしでかしたサクのためにやってくれるとは思えない。
「いや。それについては問題ない」
サクの懸念を察してか、晴影が緩やかに歩きながら告げる。
「君は【魔法孤児】だからな。そう言った手続きは私が代理で行うことができる」
「【魔法孤児】?」
「親を亡くした魔法使いの子どもの事だよ」
サクの隣を歩く晴輝が口を挟む。
「【魔法孤児】は自分の進むべき道を自分で選ぶことができるようになっているんだ。常人として生きるのか、それとも移人として生きるのかをね」
「例えその保護者が魔法使いになることを反対したとしても、本人が望むのなら本人の意思を尊重し、その必要な諸々の手続きや費用を肩代わりするという制度があるのだ」
「随分太っ腹なんですね」
「魔法使いの権利を守るための法だ。過去に魔法孤児の常人が引き取り手の移人に魔法使いになることを拒まれ凄惨な事件が起きることもあったのだ」
魔法使いとして目覚めた若者は末恐ろしいものだ、と呟きつつ晴影は告げた。
その辺の事情はよく分からないが、サクにとっては渡りに船。つまり叔父の協力を得ずとも魔法使いの学校に行くことができるということである。
安堵する反面、本当にもう引き返せないのだと言うことが改めてサクの心をよぎった。




