隠れ里4
地蔵に別れを告げ、サク達は街の中へと歩き出す。
見たこともない物だらけでどこに目をやったらいいのか分からなかった。
そんな風に店を見渡していると、クレアが般若とか能面、狐の面が壁一面に飾られている店を覗き込んでいた。
「うわぁ〜……人相悪」
「なんだと小娘!もう1回言ってみろ!!」
「きゃあ!?しゃべったぁ!?」
般若の面に呟くクレアに般若の面が文字通り鬼の形相で怒鳴り散らかす。
「うわぁあ!?捕まえてぇ!?」
また、反対側ではリアムの足元に丸っこい何かがピョンピョンと跳ね回っているのが見える。
「な、なんだこりゃあ!?餅!?」
見ると丸く形成された餅がリアムの足元でまるで生き物の様に飛び回っていた。
サクはただ街を歩いているだけなのに眩暈がする。
そんなこんなで最初に訪れたのは本が大量に並べられた店。どうやらここで教科書を買うらしい。
「あの、欲しい本が……」
「あん?そっからテキトーに引っ張り出しな」
キセルを口に含んだ白髪の店主はアゴで店の中央をさす。
そこには大量の本が本棚ではなく大きなカゴの中に乱雑に積み上げられていた。
「クソジジイめ。その首食いちぎってやろうか」
「……気持ちは分かる」
はっきり言って本をこんな適当に積み上げているだけなんて適当にも程がある。
経営者としてどうなのかと思いつつも他の客たちも本棚ではなくここのカゴを漁っているのでそれに倣ってサク達も本を漁っていく。
「あ!あったあった!【魔法基礎学】!」
「こっちは【日本魔法史】か……くそ、めんどくせぇ」
ゴソゴソとカゴを漁ると意外なことに目当ての本が次から次へと掘り出されていく。
それに本の海の中で揉まれたにしては本の痛みは無く、どれも新品同様だった。
「何でこんなに痛みが無いんだろ」
他のメンバーにサクは尋ねてみる。みんなの反応を見る感じ、みんなも不思議そうに本を眺めていたのできっと不自然じゃないはずだ。
「おい、この本なんか変だぞ?」
すると、リアムがそこらの本を手に取って開くと眉をしかめた。
沙羅とサクで一緒にそれを覗き込んでみる。表紙は立派な本だが、中身は違う。何も書かれていない、真っ白なページがあるだけ。
「えぇー……まさか、偽物?」
沙羅の言葉を聞いたサクは慌ててさっき手に取った【日本魔法学】の本を広げる。そこにはビッシリと中身が記載されていた。
沙羅の方を見ると沙羅の本も同じ。本を広げてサクに見せてくれた。じゃあ、白紙なのは他の本だけ?まさか。そんな偶然あるか?
「おい店主。おめえふざけた商売してんな!!まさか俺らの本も……」
リアムが店主に噛みつこうしたその時。
突然、1人の若い男が1冊の本を引っ提げて店を飛び出した。
「ま……」
「万引だぁ!?」
どうやらこの世界にも万引きという言葉はあるらしい。騒然となる店内。だが店主は新聞を広げたまま文字を目で追っている。
いいのだろうか?と頭に疑問が浮かぶや否や、サクの目の前のカゴがガタガタと揺れ動き始めた。
バララララッ
すると、カゴの中の本が一斉に羽ばたき始める。
いや、本来は本に「羽ばたく」なんて言葉を使うのは間違っているだろう。
しかし、まるで鳥が空を飛ぶように本が1人でに開き空を切って飛び始めたのだ。
空飛ぶ本は真っ直ぐに万引き犯へ飛来し、一斉に飛びかかる。
「なっ、なん……うぎゃっ!?あぁぁぁあ!??」
店の外から聞こえる断末魔。
見ると、万引きの男は無数の本に噛みつかれるように飛びかかられ身動きがとれなくなっていた。
「すご……」
「これも魔法……?」
一瞬のうちに巻き起こった惨状にサク達は空いた口が塞がらなかった。
「魔法と言うよりは式神かな?」
「式神?」
「そう。あれは【本の虫】っていう魔法生物でね」
空希の話ではどうやらあのカゴに敷き詰められていた本のほとんどはダミー。正確には魔法生物【本の虫】と言うらしい。
本に擬態して本棚に潜んで外敵から身を守る生物で、人の知識や記憶を食らうそうだ。そうして手に入れた知識や記憶をその身に刻み、彼ら自身もまた1つの本として成るという。
「魔法の世界ではこんな風に魔法生物と契約を交わすことで使役することができる。外国では【使い魔】とか【サーヴァント】とか呼ぶんだ。日本では【式神】って呼び方をするんだけどけね」
「すごーい!私もできるかな!?」
「きっと沙羅さんにもできるようになるよ。しっかり桔梗院で勉強すればね」
「よーし!頑張るぞー!」
そう言って沙羅は元気よく本の海の中を掻き分け始める。それに倣う形でサクも再び本を探す旅路に出た。
こうして購入した本は一旦店主に預け、後日送ってくれることになった。
………………さっきみたいに飛んでこなければいいが。




