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隠れ里1

 桜の園に来て数日がたった。


 はっきり言って、この数日何もすることがなかった。1日ぐらいは外をぶらつく事で暇を潰すことができたがそれ以降は無理だった。


 あまりに暇すぎてアゲハに寮の仕事の手伝いを申し出たがむしろ足を引っ張る結果に終わった。


 これでも家にいた頃は信玄の代わりにそれなりに家事をしていたがアゲハの洗練された手つきを前になすすべもなかった。


 おかげで昨日の夕食は15分程予定の時刻より遅くなってしまい迷惑をかけてしまったが、それでもアゲハは喜んでくれた。


 アゲハとはこうしてある程度打ち解けてきた一方、他の寮生とはまだまだ全然打ち解けていられなかった。


 元の学校でも仲の良い友人がいた訳では無かったし、どちらかと言えば先生と言葉を交わす機会が多かったような気がする。


 サクがあの家を去ったことで近所の顔見知りの同級生に気にかけられるかもしれないが、すぐに新しい環境に胸を躍らせてサクのことなんて忘れてしまうだろう。


 信玄は今どうしているのか。ちゃんと食事をとっているだろうか。そんなことが頭をよぎる。


 それでも、今更家に帰る気もさらさらない。先にサクを裏切ったのは信玄だ。


 サクに真実を告げずにいた。


 それを許すことがどうしてもサクにはできなかった。それほどまでに信玄の行動はサクの逆鱗に触れたのだ。


 だから、絶対に魔法の世界で立派な魔法使いになった姿を見せつけてやるのだ。


「くそ……」


 1人で過ごす時間が多くなると嫌なことを考えてしまう。


 布団から身体を起こして枕元に置かれた花瓶を避けて部屋を出る。外を歩けば少しでも気が晴れるかもしれない。


 アゲハに一言出かけると声をかけてから、桜の園の戸を開く。すると、桜の園の前に1人の男が立っていた。


「あれぇ……どこやったかなぁ」


 ボサボサの髪に丸眼鏡をかけ、ひょろ長い身体が印象的。優しそうな顔立ちをした彼はサクの顔を見るなり声をかけてきた。


「あ、君桜の園の生徒さん?アゲハさんいるかなぁ」


「いますけど……どちらさま?」


「あぁ、僕は空希(そらき)カイ。君達が通う予定の桔梗院の事務員だよ」


 そう言って空希はゴソゴソと彼のポケットを漁る。


「その証明書を忘れちゃったんだけど。あれーどこやったかなぁ……」


「……その首にかかってるのがそうなのでは?」


 空希の首には名札がかかっており、「桔梗院事務員 空希カイ」と書かれている。


「あぁ!こんなとこに!?しまったなぁ、個人情報晒しながらここまで来ちゃったってことか」


 申し訳なさそうに頭をかきながら空希は笑っている。あまり失敗したと思ってなさそうなその軽い言葉にサクの方が苦笑いしてしまう。


「それじゃあ、アゲハさん呼んでもらえる?今日だってお願いしてたから」


「今日?何がです?」


「来年度……いや、もう今年か。桔梗院に入学する子の学用品を買いに行くんだよ。君も見た感じ新入生だけど……聞いてない?」


「何も」


「え……うそ、ちょっと待ってよ」


 顔から血の気が引いていく空希はポケットから黒い石版の様なものを取り出すと、指で何かをスライドするような仕草を見せる。


 スマホ端末か何かなんだろうか。それにしてはサクの知るそれよりも酷く原始的なものに見える。


 そんなことを思っていると空希が頭を抱えて叫び出した。


「あぁ!?しまった!!連絡忘れてた!?」


 学校の事務員がこんな調子でいいのか、と言う言葉が喉を出かけるが飲み込む。


「え…と。それは俺も入ってます?俺、宗方サクって言うんですけど」


「サク君?あぁ、入ってる入ってる!よかった、君だけでも捕まえられて」


「それじゃ、他の生徒の名前教えてください。アゲハさんに呼んできてもらいますから」


「え、あ…うん。そうだね、えっと……」


 そう言って空希は目を凝らしながらサクの他に6人の名前を読み上げた。

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