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桜の園8

 ひとしきり部屋を見まわした後、サクは来た道を引き返していく。廊下を歩いて玄関を超えた先も薄暗い廊下が続いており、人の気配を感じる。


 そちらに歩き進めていくとそこにはすりガラスの引き戸があった。扉の向こうからは賑やかな話し声と鼻腔をくすぐるいい匂いが立ち込めている。 


 恐る恐る引き戸に手をかけ、音を立てないように戸を開く。


 そこは食堂となっており、ところどころにテーブルと椅子が並べられ、10人程の寮生と思わしい男女が夕餉を囲んでいた。


 突然現れたサクの姿を見て、皆の視線がサクに集まる。


「んにゃ?誰だこいつ?」


「こら、キャンス。さっきアゲハちゃんが言っていたでしょ?」


「にゃんか言ってたっけ?忘れたにゃ」


 そんな会話をするのは2人の女子生徒。1人は灰色の長い髪をツインテールにし、頭からは2本の尖った動物の耳が生えている。


 耳の形と話し方からして、多分猫の獣人なのだろう。


 もう1人は茶色い髪をふわふわのボブカットにしており、なんと彼女の背中からは茶色い翼のような物が生えている。


 これは……鳥の獣人……?いや、天狗?天使?


 開始5秒で再びサクの常識は叩き潰され眩暈がした。さすが魔法の世界。魔法の世界はサクに平穏を与えてはくれないらしい。


 見渡すと、他にも不思議な姿をした先住民たちが、物珍しいものを見るようにサクを観察してくる。


 どうすればいいのか分からず立ち尽くしていると、食堂の奥の調理場からアゲハが顔を出した。


「あ!サク君来ましたね!それでは皆さん、改めて紹介します」


 アゲハはにこやかな笑顔でパタパタとサクの方へと駆け寄ってくると、皆の前にサクを押し出す。



「この子は宗方サク君です。今日からこの桜の園で生活することになりました!この春から1年生です、皆さん仲良くしてあげてください!」



 そう言ってアゲハはサクに目で合図を送る。どうやら自己紹介をするように、と言うことらしい。


「む、宗方サク……です」


 取り敢えず無難に挨拶をする。


 挨拶を終えた後にこれでよかったのか不安に駆られた。こう言う時、どこまで話せばいいんだろう。


 ここに来た理由とか……魔法のことを知らないこととか、言った方がいいんだろうか。でも、魔法のことに詳しくないことをあまり知られるのもいい気がしないような気もする。


 そんなことを思っているとアゲハはズイズイと背中を押して、とある席にサクを押し込んでくる。


「はいはい!それじゃあ、サク君はこの子達と同級生ってことになりますね!来てください」


「え…あ、ちょっ……」


 そこには少し大きめのテーブルに座る3人の寮生がいた。


「うわー!私達と同じ歳なんだー!!嬉しいなぁ!私、遠野沙羅(とおのさら)!よろしく、サク君!」


 まず最初に声をかけてきたのは緑の髪を一つ括りにした女の子。ニコニコと眩しい笑顔をサクに向けてくる。


「あれ?アゲハちゃん前にもう部屋いっぱいだーって言ってなかったっけ?」


 そんな風なことを言うのは金髪の髪をした褐色の肌をした女子。

 

「えぇ。実は今回のように急な入寮に備えた予備の部屋があるんです」


「ってことは、おい待てよ。俺の隣ってことか?」


 すると、隣の男子がこちらに向けてギラリと鋭い目を向けてくる。


 赤い髪と赤い目で、頭からはピンと尖った獣の耳が伸びていた。


「てめぇ!うるさくしてみろ、その喉笛噛みちぎってやるからな!」


「こらこら、ダメですよ。同じ男の子同士仲良くしてあげてくださいね?」


 グルルと獣のように喉を鳴らしながら威嚇する彼にサクはたまらず萎縮してしまう。


 彼を敵に回すと後々面倒な事になりそうだし、部屋ではあまり物音を立てないように気をつける必要がありそうだ。


「こちらはリアム・シモン君。こっちは女木島(めぎしま)(なぎ)さんです」


「よろー。あたしはこの野蛮人とは違うから。まー気楽に接してよ」


「あぁ!?誰が野蛮人だこら!」


「こらこらリアム君、いけませんよ?凪さんも言い過ぎです」


 アゲハは今にも立ち上がって胸ぐらを掴みそうな勢いのリアムの頭を押さえつけながら笑顔で言う。


 リアムはそれから逃れようとバタバタと暴れているがアゲハには通じていない。


 年頃の男子の全力を片手で?こんな綺麗なアゲハの細腕のどこにそんな力があるのいうのだ。


「さぁ、サク君もここで食べて行ってください」


「え、いや俺は……」


「仲良きことは素晴らしき、ですよ」


 そう言ってアゲハがくるりと杖を振ると調理場からふわふわと木のお盆に乗せられた食事が運ばれてくる。


「おかわりは遠慮なく言ってください」


 ニコニコと笑いながら告げるアゲハに言われると妙に断りづらい。


 仕方がないのでサクはお盆が着地したリアムの隣の席に腰掛けるのだった。

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