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桜の園3

 グルグルと世界が回る。


 いや、回っているのはサク自身だ。遠心力と回転で三半規管がめちゃくちゃに揺さぶられ文字通り右も左も分からなくなってしまう。


 それどころか自分が立っているのか寝ているのかも分からない。


 やがて、突然サクの身体を襲っていた浮遊感が消え、ドサッと何か重い物が落ちるような音が響く。


 それがサクが地面に放り出された音だと言うことに気がついたのは口の中に土の味がしてからだった。


 ここはどこなのか、という疑問すら今のサクに考える余裕はない。ただ迫り来る嘔吐感と未だ揺れ続ける三半規管の波を堪えることしかできなかった。


「…………」


「……?」


 しばらく悶えていると、何かの視線を感じた。


 晴影さん?それとも晴輝?


 助けを求めようと思い顔を上げる。


 どうやらここは山道の真ん中。1本の道路が生い茂る木々の間を走っている。


 車通りも、街灯もない。そんな道路の傍の土の上にサクは転がっているらしい。


 晴輝の言っていた神隠しの言葉が頭をよぎる。日本のどこかも分からない所に飛ばされてしまったのか。


 けれど、視界の端々に植木鉢や物干し竿など生活感の溢れる物がちらほら見える。どこか田舎なのだろうか。


 そしてそのさらに向こう。木々の並んだ森の中にサクは確かに見た。


 それは、多分人影だったと思う。自分が倒れているせいで大人か子どもかも分からないが、確かに人の形をしていた。


 ただ、サクはその目の前の人影に思わず目を奪われた。


 何故?理由はたった1つ。


 その人の髪が、真っ白だったから。


 老人の髪のそれともまた違う。全くの汚れを知らない雪のような美しさがそこにはあった。


 多分、見惚れていたんだろう。その美しさと、触れれば崩れてしまいそうな儚さに。


 一瞬のことだったのに、サクにはとても長い時間のように感じられた。


「……ぅ」


 サクは呼び止めようと手を伸ばしたけれど、喉まで迫った胃酸で声を発することができない。


 そんなサクを見下ろすような素振りを見せたかと思うと、その人影は木の影に溶けるように消えてしまった。


 1人取り残されたサクは呆然とするほかない。


 あれは、何だったんだ?


 こんな山奥に人か?もしかすると山の中に住む精霊か何かだったのかも。


 そんなことを思ったが、ありえない。そんなのファンタジーの世界の話だ。いや、でもつい数時間前にそんなファンタジーがこの世にあることを知ってしまったのだ。


 その時。ブォンと何かの音がサクの鼓膜を振るわせる。


「大丈夫か?サク君」


 晴影さんの声。サクの後を追って来てくれたらしい。


「は…晴影さ……うぶ」


 サクの背中をさする大きな手。それを感じた瞬間、堪えていた物が一気にせきを失ったように込み上げて来た。



「うげえええええええええっ!!」



「お、おわぁぁぁぁぁ!?」


 そして、サクは胃の中の物を晴影の着物に向かって盛大にぶちまけた。

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