プロローグ
兵庫県某所。とある中学校の薄暗い体育館のひな壇の上。春と呼ぶにはまだ寒くて、冬と呼ぶにはもう暖かいこの日。
今日は、この俺宗方サクの卒業式。
隣の女子は両目を押さえて嗚咽を漏らし、またその隣の男子は涙を隠そうともしないで堂々と歌を歌い上げている。
感動で埋め尽くされたこの薄暗い体育館の中で、それをどこか他人事のように感じながらサクはメロディに乗っただけの歌を歌っていた。
中身のない歌は、他の子ども達の思い出の重みに飲み込まれて、1つの芸術として消える。
まるで、自分のこの無感情ですら許してはくれない。お前もこの卒業式という名の絵の中の1つなのだ、と。そう強制されているように思った。
虫のように並んだ大人の群れを上からどこか冷めた目で見下ろしていると、その中に一際目立つ灰色の髪をした40歳ぐらいの男を見つけた。
彫りの深い顔と、刻印のように刻まれた眉間の皺。睨んだだけで人の意識を奪ってしまえそうな鋭い眼光が、今はただこちらをジッと睨んでいるようだった。
サクの叔父。幼い頃に亡くした両親の代わりにこの卒業式を見届けにきた存在。決して怒っているわけでも不機嫌な訳でもない。あれが叔父の自然体の姿だ。
そんな叔父の姿を眺めながらサクの心は凪のように静かだった。
あぁ、まただ。またこの感覚だ。
何事にも関心が持てない、冷たい心。それは物心ついた時からサクの心を縛り続けている。
この感動が支配する空間の中で卒業生の仮面を被ってただ無感情に歌を歌い終える。
担任が涙と共に卒業生の門出を祝い、中学校という名の巣箱からサク達を連れ出す。
体育館の扉の向こう。光が差し込んで輝くあの出口。
卒業生にとって、夢と希望に満ちた世界へと繋がるあの道。
サクにとって、本当にこれが希望の道へと繋がっているのだろうか?
そんなことを思いながら宗方サク15歳は中学校最後の時を迎えた。




