6)自由と拘束
翌日。
屋敷の庭に出て、私はゆったりと椅子に腰掛けていた。
朝の光を受けて、白銀の髪がさらりと揺れる。
「……やっと茶番から解放されましたわ。婚約破棄の噂がどう広がろうと、私の知ったことではありません」
紅茶を口に含み、わざと気怠げに笑う。
けれど──
「セレナ嬢! 噂は本当ですの? あの場で王子を一蹴なさったとか!」
「ぜひ、我が家の舞踏会にいらして! 皆、あなたに会いたがっているのよ」
訪問してくる令嬢たちは、まるで蜂のように群がってくる。
昨日まで冷ややかに私を見ていたくせに、手のひらを返した態度。
「滑稽ですわね……」と心の中で呟き、笑みだけは完璧に浮かべて応じる。
◆◆◆
その夜、屋敷の客間でライオネルが書類を広げていた。
「まるでお前は、街の新しい噂の種だな。研究塔にまで問い合わせが殺到している」
「お断りくださいな。私はただ静かに暮らしたいだけですもの」
「静かに? “数百年ぶりの聖力”を持つ令嬢が?」
彼の口調には皮肉が滲んでいる。
私はわざと目を細めて毒づいた。
「貴方は昔から、人を面倒ごとに巻き込むのが得意ですわね」
「そうか? 俺はただ、隣で見守ってきただけだが」
挑発するように笑むライオネルに、胸の奥が熱くなる。
「……生意気な幼馴染ですこと」
「照れてるのか?」
「照れてません!」
◆◆◆
その頃、王宮では密やかな会議が開かれていた。
「白銀の令嬢……放っておけぬ。聖力の存在が本当なら、王国の均衡が揺らぐ」
「だが下手に表立てれば、国外の耳にも入る」
「ならばどうする?」
重苦しい沈黙ののち、ひとりが低く告げた。
「……監視をつけろ」
◆◆◆
──私はまだ知らない。
自由を謳歌するはずの毎日が、すでに見えない鎖で絡め取られ始めていることを。