表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/12

4)封じられた力

水晶球の表面は、無機質な透明さを湛えていた。

これまで何度も触れたはずのもの。結果はいつも同じ、完全なる“空白”。


──だからこそ、私は心の奥で既に答えを知っているつもりだった。


「どうせ何も起こりませんわ。無駄な時間を費やす趣味はありませんの」

わざと冷ややかに告げると、ライオネルは口元を緩める。


「今までの水晶では、な」

「……今までの?」

「そうだ。あれらはすべて魔力を測るために作られたものだ。魔力がなければ反応しないのは当然だろう」


彼は机の奥から、小さな布に包まれた球を取り出した。

それは淡く金色の縁取りを持ち、わずかに温かい光を宿していた。


「……何、それ」

「半年かけて作った。古文書に残されていた“聖力”の記述をもとに、魔力測定器を改造したものだ」

「聖力なんて御伽噺でしょう?」

「そう思うだろうな。だが俺は……お前を見ていて確信した」


彼の瞳は真剣そのもので、嘘やごまかしの余地を許さなかった。


「だから確かめよう。お前に、この水晶で」


私は言葉を失い、ただ掌を水晶へとかざした。

ひやりとした感触が指先に広がる。


──その瞬間。


ごう、と空気が揺らいだ。


「……っ!」

水晶球の奥に、淡い金色の光が浮かび上がった。

燃える炎とも違う。

流れる水とも違う。

それは澄み渡る鐘の音のように清らかで、見たことのない輝きだった。


「な、何だこれは……?」

「反応が……出ている……!」


周囲の研究員たちがざわめき、机をひっくり返しそうな勢いで近づいてくる。

それもそのはずだ。

聖力に反応する水晶など、王国の記録にも存在しなかったのだから。


「……大袈裟ですわね。たまたま何かの誤作動でしょう」

「誤作動? 数百年かけて一度も反応しなかった力が、今ここで現れたんだぞ」

ライオネルは笑みを浮かべ、けれどその目は獲物を捉えた研究者の光を宿していた。


「聖力……」

研究員のひとりが震える声で呟いた。

「記録では数百年ぶりの……魔力を拒絶し、世界の均衡を保つ力……」


私は小さく息を呑んだ。

だがすぐに、感情を覆い隠すように微笑む。


「数百年ぶりだろうと、私は私。別に特別な存在になどなりませんわ」

「特別じゃない? お前ほど特別な奴はいない」


ライオネルの声は低く、真摯だった。

その瞳に映る自分が、たまらなく気恥ずかしい。


「な、なによ。調子に乗らないで」

「赤くなってるぞ、セレナ」

「なってません!」


周囲の研究員があっけに取られる中、私たちだけが昔のようにやり合っていた。


─けれど、心の奥底では震えが止まらなかった。

私は“空白”ではなかった。

無価値だと切り捨てられてきた存在が、世界の均衡を左右する力を秘めていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を気に入ってくださった方はブックマーク登録や『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ