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鎧暮らしの首だけ姫〜おひとり様おひとつ限り〜  作者: 風見鶏
第三章「古城ヴィアシェル城下街迷宮でルーンを集めよう」

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 ミドは一心不乱と言うべき速度で、迷いなく街を走り抜けていく。どこに支配者がいるのかを分かっているように道を選んでいる。


 追いかけながら何度か声をかけたのだけれど、まるで聞こえていないようで、とにかく見失わないことに必死になって走っている。なんだって鎧になると力が増すのかは、くっつけた僕だって分かっていないのだけれど、必死に走っているのに距離が開いていく。


「ちょっと、あの子ってばどうしたのよ!」

「し、知らない……けどっ、放っておくわけにはっ、行かない、だろっ!」

「だったら、ほら、もっと速く。置いていかれるわよ」

「余裕そうだなあっ!」


 僕はもう息も絶え絶えなのに、横を走るクロエは平然とした顔をしている。剣士として鍛えた人間との基礎体力の違いってやつだろうか。振り返ると、僕よりも体力のないイリアは随分と遅れている。


 このままだとイリアともはぐれてしまう。クロエに先行してもらって、僕が少し下がるべきかと考え始めたころ、行く先からぶつかるように冒険者たちが走ってくるのが見えた。


 目もくれずにすれ違った鎧姿のミドに目を丸くしながら、今度は僕らを見て、おおい、と髭面の男が手を振っている。


「支配者とやりに行こうってならやめとけぇ! まじで不死身になってやがらあ! ありゃ手に負えん!」

「情報、どーも! 僕らもすぐ引き返しまぁす!」

「引き返すような勢いじゃねえだろぉ!?」


 すれ違う一瞬では、とても事情なんて説明できない。心配ばかりはありがたく受け取り、僕らはただミドを追うしかなかった。


 ミドが階段を駆け上がって、その後ろ姿が見えなくなる。僕らも階段を駆け上がる最中で、獣の猛々しい鳴き声が聞こえた。


 階段を登りきったその時、突風と共に黒い影が僕らの頭上を駆け抜けた。思わず腕で顔を守り、すぐさま背後を振り返る。それは翼を広げて制動すると、家屋の壁に鉤爪をめり込ませて停止した。羽毛に守られた首がぐるりと回転し、鋭い瞳が僕らを見下ろす。


 壁に張り付く四肢は獣とも鳥とも似通っているが、その体躯は狼か虎か。けれど顔は鷲に似ていて、背中には巨大な翼が開かれている。その全身がただ石像のようにくすんだ色味で、ガーゴイルに違いなかった。


「––––グリフォンのガーゴイルか」


 どう見ても強敵だな、と空を見上げて思う冷静な自分がいる。


「ちょっと、どう見てもヤバいやつじゃないのよ! どうすんの!?」

「どうするって訊いておきながら、クロエもやる気満々でしょ。もう剣抜いてるし」

「そりゃ抜くでしょうが!」


 そりゃ抜くか。怖いもんな。

 僕も後ろ腰からランタン・ボウを取りながら、視線を外して背後を確かめる。


 そこは高層の家々に囲まれた広場になっていて、中央には白亜の噴水が鎮座していた。その噴水の前で、ミドがただぼうっと突っ立って、グリフォンを見上げている。

 今なら行けるか、と身構えたとき、クロエが声を発した。


「来るわよ!」


 忙しないな、とすぐさま視線を戻す。矢筒に手を伸ばして、そんな場合じゃないな、とすぐさま飛び退いた。


「なんでこいつ、突っ込んでくるのよっ!?」

「そりゃ僕らが獲物だからだよ」


 左右に飛び退いた真ん中に、グリフォンが降ってきた。翼が風を巻き起こし、砕かれた階段の破片が舞う。グリフォンはさながら馬のように後ろ足で立ち上がり、薙ぎ払うように右前脚を振るう。


 クロエが前転して距離を逃れる。僕も後ろに下がりながら、矢筒から矢を抜いてつがえた。でかい的だ。狙いは大雑把に、素早く撃つ。

 グリフォンの悲鳴。矢は首に刺さり、そこに柔らかな火が灯った。


「……地味だなあ。あのまま燃えてくれれば助かるのに」


 ぼやきは虚しく消えて、グリフォンが後ろ脚で矢を掻く。それで矢は抜けて、階段を転がっていった。


「––––せぇやっ!」


 背後からクロエが姿勢を低く切り込む。払い撃つ一撃はグリフォンの前足首を切り飛ばした––––が。

 血が流れることもなく、前足に光が集まったかと思えば、逆再生のように元通りになっている。地面に転がった前脚は泥のように溶けて消えてしまった。


「なるほど。こりゃ手に負えないや」


 先ほどの冒険者の助言が身に染みる。これほど一瞬で再生する魔物ともなれば、生半可な攻撃はすべて無意味だ。イリアの爆弾で吹っ飛ばせば少しは期待が持てるか。


「ちょっと! これどうするのよ!」

「さあ。お約束なら、首を落とすとか、弱点がどこかにあるとか、そもそも本体は別にあるとか、いろいろだけど」

「お約束ってなに!?」


 それを説明するにはちょっと忙しい。

 グリフォンは僕らを噛み潰そうと嘴を突き込んでくる。なんとか避けた真横で、「ガチン」と鉄がぶつかるような音がするのだから、これは怖い。今ばかりは感覚が鈍いことにも感謝したい気分だ。


「クロエ! ミドを抱えて撤退するよ!」

「賛成ッ」

「––––よし、いまだ、走れ!」


 グリフォンが再び後ろ脚で立ち上がった瞬間、僕らは反転してミドのところへ走った。


「ミド! なにやってんのよ!」


 駆け寄ったクロエが叫ぶ。


「––––取り返さなきゃ」


 ミドの鎧が動き、空に舞い上がったグリフォンを指差す。


「第二のエイト、(イワズ)。あれは私のものだから」

「そっか、謎の言葉をありがとう。ほら、逃げるよ」


 僕はミドの腕を取る。けれど腕はびくともしない。押しても引いても動きゃしないのだこの重っ苦しい身体は!


「ああ、もう、分かった! 取り返してあげるから! まずは言うことを聞け!」

「……本当?」

「本当!」

「分かった」


 突然、ミドの身体が軽くなった。引っ張っていた僕はそのまま転がることになって、けれどそのおかげで命拾いをした。倒れた次の瞬間、そこに風の塊が飛んできたからだ。



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