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晴れて正式なパーティーになったわけで、今日から僕らは四人組だ。僕らがまず行ったのは、適当な納屋の中の安全を確かめてから、腰を下ろして休憩することだった。
「その爆弾って、爆発させなきゃ消えないんだよね? 自分で爆発させられるの?」
ちょこんと座ったイリアの背後に、頭大の爆弾が浮かんでいる。さすがにこれを引き連れてギルドに戻るわけにはいかない。
「わかりません。いつも導火線が燃え尽きたときに爆発していたので……自分で試したことがなくて」
イリアは泣きすぎて赤くなった瞼と目尻を指先で気にしながら、困り顔で首を振った。
まあ、わざわざご丁寧に導火線が出ているのだ。普通は導火線式だろう。
「さっきの続きになるんだけど。どうせこれを爆発させなきゃいけないんだし、これを支配者に投げ込んでみたらどうかなと思うんだけど」
「これを、ですか? どうなるんでしょうか」
ミドが興味深そうに爆弾をつんつんしている。ミドだけでなく、僕もそれは気になっているところだった。このサイズでどれほどの威力があるのだろう。
「ふたりはこれの威力ってわかる?」
イリアとクロエは顔を見合わせ、言いづらそうに口籠る。おずおずと切り出したのはクロエだった。
「……実は、助けてもらったとき、イリアの爆弾を使ったあとだったの。ゴブリンの集団がいたから、投げつけてみたんだけど」
「どうなったの?」
「ゴブリンは木っ端微塵で、すぐそばの家も吹き飛んだわ。ただ、その音でそこらじゅうのゴブリンが集まってきちゃったの」
「ああ、だからあんなことにね……」
それもそうか。爆弾なんて花火みたいなものだ。馬鹿騒ぎをすれば他の魔物を集めることに繋がる。
「威力は文句なしだけど、考えなしに使うと面倒なことになるか。気軽には使えないけど、いざというときの秘密兵器があると思えば安心かも」
爆弾なんてのは何もかもをチャラにする強力なアイテムだ。想定を超えて強い相手と戦うことになっても、爆弾を投げつければ隙を見て逃げることもできるだろう。
「どうせいつかは戦う予定だし、四人揃っていつまでもゴブリンを倒してるのも効率が悪い。ちょうどイリアの心強い爆弾があることだし、僕はこのまま支配者に挑みたい。三人はどう思う?」
「トモスさまが仰るなら!」と拳を作るミド。
「あたしも賛成。ゴブリンにも飽きたしね」と外の警戒をしながらクロエ。
「心強い……えへへ」と頬に手を当てるイリア。
よし、と僕は頷いた。
「全員の意見は一緒みたいだ。このままこの初級迷宮アレスト廃村の支配者ウォーリア・ゴブリンに挑もう」
「ねえ、あれってそのウォーリア・ゴブリン?」
「話が早すぎじゃない?」
もっとこうさ、ボス部屋の扉を押し開けていざ決戦みたいな空気でさ……。
肩透かし感はありながら、僕は立ち上がってクロエのそばに寄った。
「どれ?」
ずい、と身を寄せると、クロエが戸惑ったように身を引いたけれど、おずおずと距離を戻して、納屋の窓から指をさす。
「ほら、あそこ。赤い屋根の家の後ろのほう」
「ああ……あー、うん。あれっぽいね。村の外にいるって聞いてたけどなあ」
この納屋の位置も村の端に寄ってはいるけど、まだ村の外には道のりが残っている。とはいえ、この辺りは家も密集しているわけではなくて、間に柵で囲われた農地や、家畜のための何もない土地が広がっている。
赤い屋根の家も、ここから見ればまだ五十メートルは離れていた。離れていてもそのゴブリンが一際に大きいのが分かる。金属製の兜にちらちらと光を反射させながら、こちらに向かって歩いてくる。その周囲に、普通のゴブリンを三体ほど引き連れているあたり、やはりリーダー格という感じが見える。
「四体、か。爆弾を投げ込んでもいいけど、普通にやっても勝てそうかな。クロエはどう思う?」
振り返ると、思ったよりも近くにクロエの顔があった。二人して真剣にウォーリア・ゴブリンを観察していた。
近くで見ると、クロエの肌の滑らかさや、まつ毛の長さがよく分かった。クロエもイリアもかなり整った容貌をしていることに今さらながらに気づいた。
美少女と近距離で並んでいれば心のひとつでも浮き足立つのが普通なのだろうけれど、僕の感覚には白い隔たりがあって、そのせいでどうにも、画面の向こうから覗いているような他人事感が拭えない。
ああ、美少女なんだな、と思うだけで、実感に繋がらない。それが男としては残念でもあるけれど、奇しくも女性ばかりのパーティーとなった状況では好都合な気もした。




