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第1章 トラキアの密約 4

 「あっ、分かった!俺の婚約相手はお前だな!そうか、そうか、やっぱりお前か?確かにお前も地元の女だもんな」

 「・・・?」

 「だがお前は、娘と呼ぶにはいささとうが立過ぎている様な気もするが・・・」

 「失礼ね!」

 「お前も、遂に俺に年貢を納める気に成ったんだな?よしよし、これからは俺が可愛がってやるぞ!」

 「だから、あたしの訳が無いしょう」

 「えっ?お前じゃ無いの?」

 マクシミヌスは、残念そうな表情に成った。


 「間抜け!そんなのは当たり前でしょう」

 「そうかなあ?俺達はお似合いだと思うがな・・・」

 マクシミヌスは、尚も粘った。

 「天下の英雄が、飲み屋の女を許嫁いいなづけにしたって話を誰が信じると思ってるのよ」

 「まあ、そう言われてみると、そんな気もするが・・・」

 「それに第一、あたしはあんたとは生涯、清らかな関係でいたいの。こんなあたしでもひとつ位は清らかな物が欲しいからよ」

 「相変わらず、ルフィアは俺に連れないなぁ!」

 マクシミヌスは、自分の頭を思わずいた。


 「そんな事より、あんたの許嫁はサフィーネってむすめ!」

 「サフィーネ?そんな娘は俺は知らんぞ」

 「知らなくて当然よ。サッフィーネはプロプディフ市の名領主だったベリガウスの隠された孫娘なの」

 ルフィアは、この部屋にはマクシミヌスしかいないにも関わらず、声をひそめた。

 「ベリガウス殿と言えば、ローマ帝国の推挙で領主に成り上がったダンダリオスの手で、このエディルネ市に追放されたんだったな?」

 「ええ、新領主に成ってからのダンダリオスは、プロプディフの街でやりたい放題だわ」

 「何時いつかは奴に仕置きをする必要が有るな。だが何れにしても、その娘がベリガウス殿の孫娘なら確かに聡明だろう」

 「聡明も聡明!その上に気品が溢れている。おまけに今17歳だから、ピチピチでこれから女の魅力は増して行くばかり!文句が無いでしょう!」


 「まだ会った事も無いから、文句の付け様が無いが・・・まさか17歳の小娘とは」

 そう言うと、ルフィアは自分の顔をマクシミヌスにグッと近付けた。

 「サフィーネには、あたしからもう話をして了解を得ているわ。明日、あんたが寄こした馬車で館に向かわせるから。ラーマクリオスや主だった者には事前に伝えて置く様にね」

 「ルフィア、お前、そこまで手配が済んでいるのか?飲み屋の女にしておくのは惜し過ぎる手回しの良さと読みの深さ、そして策略の冴えだ!」

 「全ては愛しいあんたの為に決まってるでしょ!」

 「泣かせる事を!そうだ、本妻が駄目ならお前、俺のめかけに成れ!ついでにラーマクリオスと共に俺の軍師に成って呉れ!」

 「あほ!」


 「ルフィアの話はやけに長かったな」

 独りで席に戻ったマクシミヌスに、ラーマクリオスが声を掛けた。

 「お前の横恋慕が、遂に叶ったって訳か」

 ラーマクリオスがニヤリと笑った。

 「それなら万々歳だったのだが・・・」

 「何だ、違ったのか?じゃあ、ルフィアの話ってのは?」

 「ここでは他の客もいるからまづい。ラーマクリオス、お前、今夜は俺の館に泊まれ!」

 「夜も更けたし、オレは一向に構まわんが・・・」

 「詳しい話は俺の館でするよ!直ぐにこの店を出よう!」

 「お前がそう言うのなら、分かったよ」

 ラーマクリオスは仕方が無いと言う表情で、最後の1本に成っていたアルバンワインを飲み干した。


 「皆の者、今夜の祝宴はこれで終わりだ!夜遅くまでご苦労だった。各自、気を付けて帰れよ」

 マクシミヌスの声掛けで、ルフィアが経営する酒場「ズドラヴェイ」に一緒に来ていた部下達は、それぞれ自らの帰路に着いた。

 「ズドラヴェイ」は、ブルガリア語で「こんにちは」と言う意味で、何とも「女の魅力で商売をしている酒場」には似合わない名前だと、マクシミヌスは常々思っていた。

 例えば、テンタツィオーネ、即ち「誘惑」とか、もっと気が利いた店名が有りそうな物だ。

 だが、ルフィアは全ての人間関係は「こんにちは」と言う挨拶から始まると信じている。


 「部下の皆さんは、皆、帰ったみたいね」

 奥の部屋からルフィアが店の中に出て来た。

 「ああ、俺達もそろそろおいとまするよ」

 「ええ、気を付けて帰ってね。それから明日は、12時過ぎにあたしの家にラーマクリオスを乗せた馬車を回して頂戴!彼女の身なりが整ったら館に向かわせるから」

 「それは構わんが、どうしてラーマクリオスなんだ?」

 「ラーマクリオス将軍位が、彼女の付き人のように振る舞わないと怪しまれるわ」

 「成る程な・・・分かった。そうするとしよう」

 「女は外出するまでには時間がかかるの。ラーマクリオスには気の毒だけど馬車の中で待機して貰う事に成るわ」

 「ああ、彼奴あいつにはアクビが出るまで、待たせる事にしよう」


 「マクシミヌス、何かオレの事を言ったか?」

 「いや、何も。明日、若しバリアスポランの奴が何事も無くローマに帰ったら、お前に誰にも教えていない秘蔵の酒を奢る(おご)としよう」

 「それは嬉しい限りだが、何でオレにそんな酒を奢って呉れるんだ?」

 「その話は俺の館で詳しくするから」

 「おいおい、それは一体何の話だ?勿体振もったいぶらずに、ここで話せよ」

 「まあまあ、そう言わずに俺と一緒に館に帰ろう!」

 マクシミヌスは、ラーマクリオスの肩を抱くと、強引に店の出口に向かった。

 「それじゃ、お二人共、お休みなさい。良い夢を」

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