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第2章 イシスの影 1

 マクシミヌスとサフィーネは、館に帰る途中で関係者の挨拶回りを先に行う事を決めた。

 最初に訪れたのは、サフィーネの叔父のアレクセイの店だった。

 「ほう?中々、立派な薬店だな」

 「これもルフィアさんのお陰です」

 そう言うとサフィーネは、はにかんだ様な微笑をマクシミヌスに見せた。 

 「ルフィアと君達との関係は、先程、ベリガウス殿から少しは聞いたが、彼女がこれ程までに君達の役に立っていたとは俺も意外だったよ」

 「わたくしは幼かったので詳しい事は存じませんが、何でもルフィアさんのお父上はプロプディフ市に滞在した期間が長かったみたいで、年齢としは離れていたのですが祖父と意気投合して親戚付き合いをしていたらしいです」

 「そうなのか?サフィーネは家族の話を一切しないので、俺の方も聞きづらくてな。その話も初耳だ」

 サフィーネが店の入り口を開けると、中からマクシミヌスと同年配とおぼしき長身の男が現れた。


 「やあ、サフィーネか?元気そうだな?」

 「叔父様もお元気そうで何よりです」

 サフィーネは、叔父にぴょこんとお辞儀をした。

 「所でサフィーネ、こちらのお方は何方どなたかな?」

 アレクセイは、マクシミヌスの方に視線を向けた。

 「ふふふ、叔父様。こちらのお方は、ブルガリア侯マクシミヌス総督様です」

 「何?それは本当なのか?」

 「叔父様に、わたくしが嘘を付いた事が有りましたか?」

 「あ、ああ、確かに」

 そう言った後、アレクセイはハッと成って、慌ててマクシミヌスの前にひざまづいた。

 「アレクセイが、ブルガリア侯にご挨拶を申し上げます」

 「お止め下さい!未来の叔父上の跪かれては、私の方が困ります」

 「未来の叔父上?」


 「サフィーネの声がしたみたいだったけど・・・」

 そこへ、アレクセイの妻が店の中に入って来た。

 「これ、コーネリア。お前もブルガリア侯に跪きなさい!」

 「ブルガリア侯?」

 アレクセイの妻は、コーネリアと言う名前だった。

 コーネリアも、慌ててマクシミヌスの前に跪いた。

 「未来の叔母上も、どうかお立ち下さい」

 「未来の叔母上?」

 そのマクシミヌスの言葉に、コーネリアは心底驚いた様子だった。

 「マクシミヌス総督様、私共の夫婦が、総督様の未来の叔父や叔母と言うのは、一体、どういう意味でしょうか?」

 「言葉の通りですよ。アレクセイ殿、コーネリア殿」

 「???」

 アレクセイとコーネリアは、お互いの顔を見合った。


 「叔父様、叔母様、わたくしは、マクシミヌス総督様と婚約したの」

 「な、何だと!!!」

 アレクセイとコーネリアは、又、お互いの顔を見詰め合った。

 「先程、ベリガウス殿に私達の婚約をご報告して、今は、その帰りなのです」

 「叔父上に、婚約のご報告を成されたのですか?」

 マクシミヌスは、アレクセイの言葉に大きく頷いた。

 コーネリアの顔が、パッと明るくなった。

 「サフィーネちゃん、お目度とう!天下の大将軍様と婚約なんて夢の様ね!!!サフィーネちゃんの敬虔けいけんで清らかな心を神様はちゃんと見て下さっていたのね」

 コーネリアは、感極まった表情でそう言った。

 「アレクセイさん、コーネリアさん、私はここでサフィーネの事を、終生、大切にする事を、未来の叔父様と叔母様の前で誓います」

 「ええ、ええ。総督様がそう仰って戴けるのなら!」

 コーネリアが舞い上がった様子で独りで喋っていて、夫の方は口を挟めないでいた。


 マクシミヌスは、この夫妻の事を信じていない訳では無かったが、何処で洩れてしまうかは分からないので、サフィーネの了解を得て、彼等にはこの婚約が狂言だとは伝えなかった。

 「さて、未来の叔父上と叔母上にご報告が出来たので、私達は、これからサフィーネがお世話に成っているルフィアの知人の所に挨拶に行きます。サフィーネは今日からは、私の館に住みますので」

 「まあ、何て素敵なのでしょう!サフィーネちゃん、良かったね。総督様とひとつ屋根の下で暮らせるなんて」

 「えへへへ」

 サフィーネは、又、はにかんだ。

 「おお、お二人はこれから、リリア殿の元に向かわれるのですか?」

 「リリア殿とは?」

 マクシミヌスはサフィーネにたずねた。

 「ここエディルネ市で、わたくしを自宅に住まわせて呉れていた方です」

 「ああ、ルフィアの知人」

 マクシミヌスは、ルフィアの知人の名前がリリアで有る事を知った。


 「リリア殿は、薔薇の栽培にかけてはエディルネ市だけでは無く、トラキア地方でも随一とうたわれている方ですが、週に二日程は、旧友のルフィア殿のお店を手伝われていと聞いています」

 「ルフィアの店を?だったら俺も、彼女に会った事が有るかも知れんな」

 ルフィアの店を手伝っていると聞いて、マクシミヌスは急に、リリアに対して親近感を覚えた。

 「若しお邪魔で無ければ、私もご一緒する事が出来ませんか?リリア殿にはサフィーネが大変お世話に成りましたし、これからサフィーネが総督様のお館に住むので有れば、私も彼女にお礼を申し上げたいのです」

 アレクセイはそう言って、マクシミヌスに頭を下げた。

 「成程。これまではアレクセイ殿が、サフィーネの生活費と家賃をリリアさんに納められていた筈なので、そのお気持ちは良く分かります。それでは、これからご一緒にリリアさんの所に参りましょう!」

 「総督様、有難うございます。コーネリア、店の番は頼んだよ!」

 アレクセイは、3台並んでいた後方の馬車に、さっさと乗り込んだ。

 「じゃあ、コーネリアさん、ご主人をお借りします」

 「マクシミヌス様、どうか主人を宜しくお願い致します」

 コーネリアは、マクシミヌスに深々と頭を下げた。


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