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徒然と紡ぐ日の影  作者: 村街マイク
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自己分析ならびに他己分析 その2

 「では、質問します。あなたは今、百人の集められた男達の中にいます。その中で何番目に優れた遺伝子を持つと考えますか?」

 久一はバーボンソーダを作り直しながら充に問う。

 なかなか答え難い質問。自身を高く見積もるのも、低く見積もるのも気がひける。

 悩む充に久一は正直にお答え下さいと加える。

 「四十五番くらいかな?」

 「平均より少し上といったとこか? 次に美湖ちゃんは女百人で中の何番目くらいにいると思う?」

 久一の意地の悪い質問に充は即答する。

 「一番は言い過ぎでも俺の中ではトップテンには入るかな」

 久一は満足して頷いた。

 「よろしい。充君、答えが出たじゃないか! 美湖ちゃんを諦めるんだ! 君では無理だ! 可能性がない! 忘れろ! 傷つく君を見たくないんだ! 無理無理無理のカイツブリ!」

 久一の演技がかった急変ぶりに充は不快感を露わにした。

 「黙って従ってたらふざけやがって」

 充は久一の手首を掴み捻り上げた。充は隼人が間に入ってくれると信じて大きく出たが、当ては外れた。隼人は立ち上がってバーボンソーダのお代わりを作り始めた。手首を掴まれたままの久一は楽しそうに困った顔をする。

 「充君、冷静になって聞きなさい。まず君は四十五番だと仮定して美湖ちゃんは十番とする。三十五も余る。この三十五はなにで補うつもりだい? 釣り合うかね?」

「それは」

 充は口ごもりながら久一を睨む。久一は掴まれた手首を捻って充の手首を掴み返す。

 「君が仮に十番で相手の女が四十五番なら付き合うか? この三十五は何で補って欲しいの? 打算かね? それが君の求める答えかね?」

 久一はさらに奥へ切り込む。

 「ならお前は何番だよ?」

 苦し紛れに充は話題の矛先を変えようとしながら手を離した。久一は充の質問をさらりと流す。

 「マジシャンが種を忘れると思うのか? 忘れたならそれはマジシャンではなくて派手な格好をしたマジシャン風の人だぞ、なんだそれ? 聞いたことねぇよ、マジシャン風ってどんなだ? それなら確かに種も仕掛けもないけどな!」

 新たに作ったバーボンソーダを口にしながら隼人が充の肩を叩いて横に座った。

 「そもそも久一は本心で諦めろとは言って無いし、釣り合うとかも関係ない。充の弱腰を炙り出しただけだろ?」

 充は隼人のフォローがあったとしても、久一に対してまだ苛立ちは治らない。

 「それに俺は充は三十番くらいには頑張れば入ると思うけどな」

 隼人の人柄を充は再確認した。

 「そんな上位に入れてくれるのかよ、隼人、お前はいい奴だなぁ、お前は!」

 「志が低くないか?」

 「充君、わかったかね?」

 「何がだよ!」

 「だから、自分が思う自分と、外から見た自分は違うということだよ」

 隼人は笑いながら場を収集する為に久一の悪ふざけを代弁する。

 「久一はおそらく悩んでても答えは内に無い。結果は行動を起こさないと得られないと言いたいんだろ?」

 隼人の言葉をなんとなく理解した充は矛を収めて久一に不満を述べる。

 「まどろっこしすぎるだろ久一ちゃん」

 「仕方ないだろ? こいつは昔からそういう奴だもの」

 「辞めなさい、二人して私を解析をするのは気分が悪い。充はまず考える頭とデリカシーを持ち給え。今日は君の恋愛相談じゃ無いのかい?」

 

 充はここに来て相談相手を間違えたのかと思ったが、久一の言う通り、良い悪いを含めた結果は行動の後にしか有り得ないと再確認できたのは収穫だった。当たって砕けろ、砕かれたくは無い。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。虎子がそんなに欲しいのか? 充は虎の子が欲しい。一緒に散歩がしたい。ベッドの上で虎の子と戯れれるものなら戯れたい。

 ならば行動するしかない。行動を起こすにしてもやはりスマートに起こしたい。ならば相談するしかない。


 「どうやって連絡先交換するのがいいかな?」

 充を除いた二人は困惑の表情を浮かべた。

 「まだ連絡先も聞いてないのか?」

 「ほぼ毎日通って何日かは一緒に楽しくおしゃべりしたんだろ?」

 「いざとなると、緊張するだろ? するよな? しないの? するよな? 先生方お願いしますよ」

 隼人はベットに横になり掛け布団の中に潜り込んだ。久一は充が面倒に感じ始めた。こういう場合は答えに一直線に進むのがベストだ。

 「あなたのことが気になるので連絡先教えてくれませんか? ってのはどうよ」

 久一の提案は見方によっては男らしいが、武骨すぎて充の性に合わない。

 「ストレートもいいけど、やっぱり変化球的なオシャレでさりげなくて、後で二人で思い返して笑えるようなので頼むよ!」

 「ねぇよそんなものは、あっても売り切れ、売り切れ、完売」

 久一も横になって目を閉じた。

 「おい、寝るなよ」

 「寝てないから、目を閉じてるだけ」

 「本当か? 俺の運命かかってるのわかってるの?」

 「あのね充君、運命とかないからね。あるのは神様の気紛れ、偶然。神様は全てに平等なの。神様からしたら人も野に生える雑草も同じなの。充は草です、私も草です。皆んな草と同じなんです。草はお洒落しますか? 見栄を張りますか?」

 久一の言葉にベットに横になった隼人が返す。

 「草も化ければ花となり、おやすみちゃん」

 「隼人君お上手だねぇ」

 「お洒落だなぁ」

 久一と充は隼人に感心する。そして隼人は夢の中へ。久一はとりあえず充一人にしゃべらせて相槌を打ちながら頃合いを見て眠ることにした。

 「俺には二人の情報が少なすぎる。だから覚えている範囲でいいから、どんな会話をしたか教えてくれ。目は閉じているけれど寝てないから。それと電気は消してくれ」

 充は言われた通りに電気を消して横になりながら隣に座った美湖を思い描いた。

 「この前は確か、どこのラーメン屋が美味いかって話はしたかな」

 「うん」

 「休日はどのように過ごしてるのかだとか」

 「うん」

 「好きな色は何色だとか」

 「うん」

 「久一、寝ようとしてないよな?」

 「うん」

 充がしゃべって久一が返事だけをする会話のラリーが暫く続いた。


 「牛肉より鶏肉の方が好きだと言ってたかな」

 「トノサマの命令だから相撲を」

 「トノサマ?」

 唐突に久一が脈略のないことを充に返した。久一の意識は夢の入り口に立っていて、自然と頭に浮かんだことを口走っていた。

 充は久一からのアドバイスを諦めて眠ることにした。酒に酔って頬を赤らめた美湖を思い出して充の胸は締め付けられた。


 夢で逢えたらどこに連れて行こうか? 美湖が行きたいというところに一緒に行こう。でも初デートには映画がいいらしいなぁ。二人でいるのに会話をしなくても変にならないから。トノサマの命令で相撲はしたく無いなぁ。美湖の為なら相撲くらいはするのかなぁ? 久一はトノサマの命令で今相撲をとっているのか? 充も夢の中へ迷い込んでいった。


 トノサマの横にはヒメがいた。ウシやヒキやアオやアマもいる。沢山の蛙がトノサマから離れたところにいる。


 「遥々よく集まってくれた諸君に感謝する。これより殿の御前で頂上決戦を開始する。皆励むように!」

 トノサマ蛙の傍に立つヒメ蛙が号令を発した。周りの蛙達はゲロゲロやギーギーとそれぞれ返事をした。


 初戦を不戦敗で終えた二匹の蛙はケロケロギーギーと不満を口にしていた。

 「毎年毎年こうして集められて俺達は惨めなものだな、相撲もとらしてくれない」

 アオが愚痴った。

 「仕方ないよ、俺たちは体が小さいからな。ウシなんかとやりあえるわけがない。一口でペロリとされちまうよ」

 アマがアオを宥める。

 「そりゃそうだけど、俺とお前が見た目が似てるってだけで一括りにされるのもおかしいだろ? よく見れば違いはあるのに! 俺の方が少しだけハンサムだぜ? ここで相撲でもとって白黒つけるか?」

 「とらないよ。そんなこと言い出したら同じ不戦敗組のヌマやツチだって同じような見た目だけど少し違うんだから」

 「どこが?」

 アオはヌマとツチの方を確かめながら水掻きで目を擦った。アマもヌマとツチを見比べる。

 「わかんねぇ」

 二匹はとっとと相撲大会が終わって欲しいと願った。ついでに雨も降って欲しいと。


 相撲大会は順当に進んだ。決勝戦はウシとヒキのいつもの顔ぶれだった。トノサマは満足気に膨らんでは縮んで、また膨らんでいた。

 準決勝でウシに敗れて重症のダルマをアオとアマは憐れんでいた。

 「今年も可哀想になぁ、ありゃ当分引きずるぜ」

 アオは空を舞う小虫を食べようと素早く舌を伸ばした。小虫は何も無かったように飛び去っていった。

 「今年もどうせウシの優勝だろ? でもアイツのいない頃はヒキの独壇場だったらしいが」

 アマも舌を伸ばして小虫を食べようとしたが失敗する。

 「ヒキは昨年同様に無気力相撲をするんだろ? ダルマも同じようにすれば怪我もなく済んだのに、馬鹿だねぇ、あいつは」

 「意地だろうなぁ、ダルマの」

 アオとアマはダルマの意地が痛いほど理解できた。

 「トノとダルマも見た目そっくりだもんなぁ」

 「俺たちと同じだ。でも立場がトノサマとダルマじゃ月とスッポンだからなぁ」

 「違いねぇ、トノサマなら好き放題できるのにな、ダルマじゃ所詮ダルマだもんなー」

 「だからかなぁ? 毎年怪我しても戦うのは」

 「転んでも立ち上がる? ダルマだから?」

 「そういうこと」

 「健気だねぇー」

 二匹の蛙は小虫を食べたり、食べ損なったりしながら決勝戦が始まるのを待っていた。


 決勝戦が終わりウシが案の定優勝する。そして相撲大会のメインイベントがとり行われようとしている。

 優勝者がトノサマと手合わせするのだ。勿論、試合は予定調和通りにウシがトノサマに押し出されて試合は終わる。

 「やっと終わるなぁ、ウシが間違って勝てば面白いのになぁ」

 アマが退屈そうに飛び跳ねる。

 「そもそもなんであいつがトノサマなんだ?」

 アオがアマに訊ねる。

 「一説によると、あいつが膨れる姿がふてぶてしく偉そうに見えるからだとかなんとか、はい、そんな感じでトノサマだそうですよ」

 「しょうもないなぁ」


 トノサマの陰口を叩いたところでアオとアマの地位が向上するわけでは無い。生まれ持ってしまったものは諦めるしかない。それが世の常だ。

 それ以外のところで踏ん張れるかは自身の問題。踏ん張り方を間違えるのも自己責任。踏ん張る場所を与えられるも、与えられぬのもまた自己責任。


 生きにくい世の中だとアオとアマはトノサマを賛辞する蛙たちの合唱に口を合わせていた時、責任の矛先の見えない事態が発生した。


 それはするすると地面を這って現れた。蛙たちが気づくと同時にトノサマは蛇の腹の中に飲み込まれていた。蛙たちは散り散りに飛び跳ねて遁走する。アオとアマも逃げ跳ねながら会話を交わす。

 「恐ろしいことが起こったなぁ、俺たちの明日はどうなるんだろう?」

 「あぁ、トノサマには気の毒だが。すぐに次のトノサマがきまるだろうから、大丈夫だろう?」

 「なら大丈夫だな」

 「大丈夫さ」

 二匹は鳴きながらそれぞれ別の寝床に帰って行く。空を舞う虫を舌を伸ばして掴んだり、掴み損ねたりしながら。のんびりと帰って行く。


 充が目を覚ますと、すでに久一は起きていた。手を頭の後ろに枕代わりにして天井を眺めていた。

 「おはよう、早いなぁ。寝れなかったのか?」

 充は空のグラスに水を注いで一口飲んだ。

 「人の家って何故か寝れないよなぁ」

 「人の家だからだろうなぁ」

 充は水ではなくてコーヒーが飲みたいと思いながら答えた。

 「変な夢もよく見るし、夢ってすぐに忘れるよな」

 「そうだな」

 充は財布と隼人の家の鍵を持って立ち上がった。

 「ちょっと下の自販機でコーヒー買ってくるわ。久一はなに飲む?」

 「さすが、気が効く。コーヒーで甘いのちょうだい」

 「カフェ・オ・レな。隼人は微糖でいいか。じゃあちょっと行ってくるわ」

 充は隼人を起こさぬように、そっと部屋から出でた。


 自販機に五百円玉を入れると返却口に落ちてきた。もう一度入れ直してやると読み込んでボタンが光る。カフェ・オ・レを押すとガタンと商品が排出された音がした。取り出してみると、それはカフェ・オ・レではなくてブラックコーヒーだった。充は寝ぼけて隣のブラックを押し間違えたのかと思い、改めてもう一度カフェ・オ・レを押してみる。排出されたのはやはりブラックコーヒーだった。搬入ミスなのだろう。ということは隣りのブラックにカフェ・オ・レが間違って入っているのだろうか? しかし入っていなければカフェ・オ・レはどこに入っているのだ? 久一には諦めてもらい微糖を買って戻るという選択肢はあるが、久一はきっとお前は隼人を選んだのか? 相談に付き合ったのは俺なのにとか言い出しそうなのでブラックコーヒーを押してみる。出てきたのは微糖のコーヒーだった。めちゃくちゃだ。朝から腹が立ちそうになる充は、ふと久一の昨夜の言葉を口ずさんでみた。

 「オーマイ、ガッツ石本」

 充は隼人の言うこともまんざらでもないと感心した。ささくれた気分が楽になったからだ。馬鹿な発言をわざとすることにより、馬鹿なことをしていると認識して、自身が馬鹿馬鹿しくなり笑えてくるからだろうか? それとも言葉に魔法がかかっているのだろうか?

 「オーマイ、ガッツ、石本、オーマイガッツ石本、ガッツ、ガッツ石本」

 充は三本の缶コーヒーを持ちながら歌い続けた。途中で小型犬を抱えた老婆とすれ違った。老婆は不思議そうに足を止めて充を見て会釈した。充は一瞬馬鹿な姿を見られたことを恥じたが、歌うのを止める方が不自然になると歌いながら会釈を返した。 

 老婆は首を傾げて歩き出した。充は犬を抱えた老婆に説明したかった。魔法の言葉なのだと。なんなら、貴方も首を傾げられる存在ですよと言ってやりたかった。だってそうでしょ? 貴方がしているのは犬の散歩ではなくて犬と散歩ですからね、と。一緒に唱えましょう。

 「オーマイ、ガッツ、石本」


 充は部屋に戻って久一に魔法の言葉とともにブラックコーヒーを手渡した。

 「おい! これ苦いのだろ? 俺、甘いの!」

 充は自販機での件を久一に伝えた。

 「なるほど、それは確かに、ガッツ石井だな!」

 久一は微糖のコーヒーを口にしながら魔法を唱える。

 「オーマイ、ガッツ、石本、でも本当にこの言葉は凄いな」

 「だろ? オーマイ、ガッツ石井!」

 「オーマイ、ガッツ、石本!」

 二人で魔法の言葉を繰り返していると隼人が目を覚ました。

 「朝からうるせぇなぁ! 二人してガッツ、ガッツ言いやがって。せめて石井か石本か統一しろよ」

 隼人は不機嫌そうに差し出されたブラックコーヒーを受け取った。

 「ほらほら」

 「そんな時こそ、ほら」

 二人は期待を込めた目を隼人に向ける。隼人は理解した上で透かす。

 「そういえば、美雪たちとキャンプに行く約束してるんだけど、お前ら二人も参加するか?」

 久一は首を縦に振りながら魔法を唱え続ける。充はどうしようかなと考えながら魔法を唱える。

 「オーマイ、ガッツ、石井」

 「オーマイ、ガッツ、石本」

 「ガッツガッツオーマイ石井」

 「石本ガッツオーマイオーマイ」

 

 隼人はそんな二人に首を横に振りながら詠唱した。

 「オーマイ、ゴッド」

 久一と充は狡いぞと思いながら見つめ合い、首を横に振った。

 充にかかった魔法はまだまだ解けないままだった。

 

 

 


 



 

 

 

 


 


 

今回も又くだらないお話にお付き合い、ありがとうございました。次回もお暇であればお付き合いよろしくお願いします。

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