5 アジトへの道
彼に手を引かれたあみはただ必死に足を動かすことしかできなかった
彼は一言も発せず、その大きな手の力強さが彼の決意のように伝わっていた
暗い路地を抜けると、湿った空気と錆びた金属の匂いが漂ってきた
いつしか周囲の音も消え、ただ二人の足音だけが響いていた
あみの心は混乱でいっぱいだった
「なぜ私がこんなところにいるの?」
「この人は誰?」頭の中で同じ問いが繰り返され
足元の景色がぼんやりと霞んでいく
だが、彼女には歩みを止める余裕すらなかった
途中で現れた一人の男が、二人に合流した
薄茶色の髪を持つ狐の耳の男
彼はジアのすぐ隣を歩きながら
ちらりとあみの方を見て軽く眉を上げる
「……そいつ、どこから拾ってきた?」
低い声で問いかけに、彼は視線を動かさない
ただ前を見据えたまま歩を進める
「黙って連れてきて何も言わねぇのはいつものことだけどさ。名前くらい聞いたらどうだ?」
軽い口調でそう言いながらも狐耳の彼の瞳には注意深い光が宿っていた
彼の様子を伺いながら、狐耳の彼はあみに視線を移す
「なあ、お前、名前は?」
突然話しかけられたあみは
驚きのあまり息を飲んだ
自分の名前を口にしようとするも
周囲の状況と彼の狐の耳に目が引きつけられてしまい、言葉が出てこない
その反応を見て、口元に軽い笑みを浮かべた
だがその笑みには、どこか含みがあった
狐耳の彼は視線を彼に戻し、軽く肩をすくめる
「……なるほどな。さっきのお前の様子から察するに、コイツは“番”ってやつか」
彼の無言がその推測を肯定しているようだった
狐耳の彼はわずかに目を細め、興味深げにあみを見つめる
「へぇ、意外と真っ当な奴を引っ張ってきたもんだな。だが番って言ったって、人間だろ?お前、どうすんだよ?」
軽い調子で言うその言葉には、微かな鋭さが滲んでいた
ジアは答えない
ただ前を見据えたまま、アジトへ向かって歩を進める
あみは二人の会話の意味を理解できないまま
彼に引かれるまま道を進むしかなかった
頭の中で交錯する疑問に、答えが出る日はまだ遠い