4 異型の世界
戦場が静まり返ったその瞬間
あみの耳にはかすかな風の音と
遠くで鳴るサイレンのような音だけが響いていた
彼は一言も発さずに彼女を地面へ降ろすと
あみは思わず膝をつき、その場に座り込んだ
彼の足音が離れていく中
あみはようやく状況を見つめ直す余裕を得た
彼女の目の前には、暗い坑道の出口から続く街の片鱗が覗いていた
ネオンサインが壊れかけてちらつき
ざらついたレンガ造りのビルが立ち並ぶ
煙草の煙が漂い、湿ったアスファルトの匂いが空気を支配している
ここがどこかはわからないが
70年代アメリカ映画で見た風景と重なる荒れ果てた街だった
「……ここ、どこなの?」
震える声で自分に問いかけるあみの視線は
その街だけでなく周囲にいた人々へと移った
そして、彼女の心臓が再び激しく跳ね上がる
ジアが振り向く動きにつられて
彼の頭頂部にある狼の耳がぴくりと動いた
その耳は黒とシルバーに光り
彼の鋭い瞳と同じく圧倒的な存在感を放っていた
あみはその耳に釘付けになり、驚きと混乱の中で
彼の人間離れした特徴を初めて認識する
さらに視線を動かすと、そこには狐の耳を持つ男が立っていて尾を揺らしながら物を運ぶ女性もいる
顔の造形までも獣そのものに近い者もおり
その奇妙な光景にあみの手足はすっかり硬直してしまった
「あれ……夢、じゃない?」
言葉にすることで現実を否定したかったが
その空気感はあまりにも生々しい
どこを見ても人間とは違う特徴を持った者たちが行き交い、壊れた街並みの中で作業をしている
彼らの存在に圧倒されながら
あみは再び自分の姿を見下ろした
Tシャツにカーディガン、プリーツの入ったミニスカート
彼女の服装は、ここにいる誰とも調和しなかった
「ここは、私が知ってる世界じゃない……」
その瞬間
あみの中で全てがはじけるように繋がった
彼女は異世界にいる
異形の住民が闊歩するこの街で
彼女はたった一人の異邦人だった。