2 坑道での出会い
暗闇が重たく、冷たく、息苦しい
目を開けると
私の視界には古びた岩肌が広がっていた
坑道──そう呼ぶしかないこの場所には
湿った空気が立ちこめ
壁には無数の傷跡が刻まれている
頭の奥に響くような静寂が
現実から遠く隔たったこの世界を
さらに不気味に感じさせる
「……え?」
声に出してもただ
虚空に吸い込まれていくだけだった
いつもの帰り道を歩いていたはずなのに
どうして私はこんなところにいるんだろう
不安が胸の奥でじわじわと広がっていく
心臓が鼓動する音だけが
今の私の唯一の現実だった
一歩、足を前に出すたびに小石がカラカラと転がる
その音に自分でさえ驚いて思わず立ち止まった
辺りは暗い
けれど、視界の先
微かに灯る炎の明かりがぼんやりと見える
その光を頼りに足を進めるしかなかった
近づくにつれて低い声が耳に届いてきた
いくつかの声が交じり合い
そして、不意に静寂が訪れる
息を飲み、視線を前へ向けた瞬間だった
「……誰だ?」
鋭く低い声が空間を切り裂いた
その声に思わず足が止まる
目が慣れてくると、暗闇の奥
火の明かりの下に立つ男の姿が
はっきりと浮かび上がった
狼のような鋭い眼差し、黒と銀が混じり合う髪
そして大きな体躯
その存在感は
この閉ざされた坑道の中で圧倒的だった
彼の瞳が私を捉えた瞬間、全身がすくみ上がる
男が一歩、私に近づく
その足音が重たく響き渡り
逃げ場のない状況に胸が締め付けられる
「ここで何をしている?」
低く響く声に、私は言葉を失った
ただ、その問いに答えようと唇を動かすも
震えた声しか出てこない
「わ、私は……」
だが次の瞬間、彼の長い腕が伸びて私の手を取った
その動きはあまりにも唐突で
そして信じられないほど力強い
その場から逃れる隙など
最初からなかったかのように思えた
「お前、俺のものだ」
彼の言葉の意味を理解する余裕もなく
ただその強い眼差しに囚われる
私の運命は、この瞬間
完全に変わってしまったのだと悟った