1 いつもの日常
月曜日の夕方
いつものように慌ただしい授業を終え
私は大学からバイト先のカフェへと急いでいた
足元でスニーカーが軽快な音を立てる
電車の中で簡単にまとめたレポートを
カバンにしまいながら
「まあ、なんとか間に合うかな」
と自分に言い聞かせた
カフェでのバイトは好き
白いエプロンを身につけ
ドリンクを作りながらお客さんとの
ちょっとした会話を楽しめる
今日もいつも通りだった
「忙しいねえ」と同僚と交わす短い会話に心が軽くなり
店長の「お疲れさま」の一言で
気持ちがふっと緩んだ
バイトを終えて外に出ると、夜風がひんやりと頬を撫でてきた
私の一人暮らしのアパートまでは徒歩と電車で30分
疲れた体には少し長いけれど
この帰り道の時間がなんとなく好きだった
星がほとんど見えない都会の空を見上げながら
頭を空っぽにする
今日も平和な一日だったな〜
そんなことを考えていた
だけどその時
足元が急にふわりと浮いた感覚に襲われたのだ
「えっ…?」
慌てて周りを見渡す
電車のホームまで続く道も、
ぽつぽつと並ぶ街灯も、
すべてが歪んで見える
目をこすっても変わらない
何かが崩れるような音が耳元に響き、
視界がぐるりと暗転した
何が起こったのか全然わからない
気づいたら、私は見知らぬ場所に立っていた
「どこ…ここ?」
冷たい空気が肌に触れる。
目の前には岩の壁が迫り、薄暗い空間に微かな明かりが揺れている。
坑道…そんな言葉が頭に浮かんだ
現実離れした光景に息を呑む
その時
暗闇の奥から、鋭い視線を感じ
「――誰?」
振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。
黒と銀が混ざり合う髪、鍛えられた体、そして何より、その鋭い眼差しに息が止まる。
彼の瞳が私を捉えた瞬間、心臓が激しく鼓動した
何?――
その彼が手を伸ばしてきて…