第2話 魔女狩り
絢爛荘厳な玉座に腰掛け、若き王は眼前の少女を値踏みするように見下ろしていた。
その少女は四肢を縛られ、両脇の兵士に押さえつけられて無理やり跪かされていた。
「よぉ? はじめまして、アンドルス王」
少女が顔を上げると、黒い前髪に隠れた紅い眼がアンドルス王を睨み付ける。
「ベイラーン公爵にハルバード騎士団長にその他多数……みんな君が殺した。間違いないね?」
アンドルス王は黒髪の少女に問いかける。
「あぁそうさ。全員俺が殺した」
「どうして?」
「復讐さ。お前への。かつてのお友達が次々死んでさぞや恐ろしかったろう?」
「さあね。……しかし困ったね、僕は何も恨まれるような事はしていないはずだが……」
アンドルスは全く悪びれる様子もなく首をかしげた。
「ククッ……忘れたとは言わせねえぜ? 8年前、『黒の魔女』を冤罪で殺したお前の罪を――」
そうして少女は、小さな体を震わせ小刻みに笑いだした。
*
10年前――
僕……アンドルス・フォルスタインは、次期国王だ。
真の王たる僕は民の誰からも好かれていた。
しかし父は、病に伏せながらも僕を認めてくれなかった。
「アンドルス……儂はお前が心配じゃ……。お前は他人の心に寄り添うことが苦手じゃ……。このままでは取り返しのつかない事を起こしそうで心配なのじゃ……」
ごちゃごちゃと意味のわからない事を言う父は、きっともうボケてしまったのだろう。
僕は王たる父に毒を盛った。死なない程度に寝たきりになってもらうべくだ。
それは誓って卑しい目的があった訳じゃない。呆けてしまった父に代わって僕が王となるためだった。
けれど父はそのまま死んだ。死なない程度のつもりだったが、それが運命だったのだろう。
国王となった僕は、この国を更に発展させるために尽力した。
その過程で僕は、自分の手で『魔女』を討つことを決意したのだ。
――魔女。
『魔法』と呼ばれる人智を越えた異能を使う、女の姿をした存在。
その存在は少なくとも200年以上前から確認されており、王国建国にも関わっていたという説もある。
アンデリン王国にはこんな魔女の伝説がある。
――かつて、この地で眠りについた神を4人の魔女が封じ込めた。
魔女は神を封じ続けることで神の力の一部を奪い、老いぬ身体と超常的な力を得た。
『神』が善か悪かは語られていない。
僕は思ったのだ。
神の力があれば、この国をよりよくできる……と。そして不老となれば、永久に己が君臨し続ける事も可能だと。
僕のような賢王こそが不老となり永劫の統治をするに相応しい。
神を封じる魔女どもは国の発展を妨げる害悪だ。
だから、魔女を殺して神の封印を解く。
「ベイラーン。スラム街を焼き払うぞ」
「はい……? 何故スラム街を……?」
「魔女の悪評を広めるのだ。魔女には悪者でいてもらわねばならないからな」
「そ、それは聡明な判断でございますな!」
そうしてスラム街は綺麗になった。
逃げ惑う住民たちは、一人残らず斬り殺した。逃げ伸びた者も火災の犯人の可能性があるとして処刑。
美しきこの国に汚らわしいスラム街は必要ない。そこに住むのは人間に似た形のゴミでしかない。
消えてしかるべき存在なのだ。
とはいえ、僕のこの高尚な考えを理解できない愚かな者も多数いる。彼らのためにも、このスラム街を焼き尽くしたのは『魔女』の仕業であると吹聴する。
我ながら完璧な作戦だ。
そうして王国内では、魔女狩りが始まった。
魔女が何者かを知るものはいない。故に、疑わしい女はとりあえず一族郎党もろとも処刑する。
平和で正しく輝かしき国家を実現するためならば必要なのである。
――こうして王国に、血塗られた2年間が訪れたのだ。
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