序章 ある魔女の最期
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東の空から硝子の粒子を散りばめたような紺色が追い迫る。
東の空に追い立てられ逃げ場を失った黄昏の紅は、西の空から未練がましく街並みや人々の横顔をへばりつくように染めていた。
紅に染まった人々は、街中の広場に集まってある一点に向けられていた。人々の数は千は下らないだろうか。
人々が見つめる先には木製の台が立っており、その上に2人の人物が居るのが見てとれる。
「これより魔女ラリマーの処刑をとりおこなう!」
金髪の青年がそう高らかに叫ぶと、辺りの空気に喧騒が満ちる。
「嘗てスラム街を全焼させ、あまつさえ東の森の集落を生きた住民もろとも焼き尽くし、この国の民をも滅ぼそうと企てた悪しき魔女を! 国王たるこの僕――アンドルスが直々に断罪してくれる!」
アンドルスが剣を掲げてそう宣言すると、わぁっ、と大衆から喝采が巻き起こる。
「地獄に堕ちろ邪悪な魔女め!」
「我が国の平和を脅かす悪魔め!!」
魔女――と呼ばれた黒髪の女は、アンドルスの足元で踞り俯いたまま動かない。
魔女の美しかったであろう髪は傷み、雪のように白く透き通っていた肌はひび割れ、そこから血が滲んでいる。
「――悪しき魔女よ、言い残すことはあるか?」
「……は……ない」
「何だ?」
「……未練は、はない」
魔女は……微笑んだ。
――私は死ぬが、あの子は守れた。
こいつらの魔の手から逃がせた。
「ラフィ……」
悔いは、ない。
「? そうか。じゃあな」
そしてアンドルスは無造作に剣を振るった。
宙を舞う紅い滴が未練がましく西の地平線にしがみつく太陽を反射している。
一拍遅れて、台の上にゴトンと魔女の首が転がった。
民たちは――先ほどとは比べ物にならないほどの喝采に沸いた。
――そしてとうとう太陽は迫る紺色に追いやられ、地平に沈んだ。
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