扉が開いた 1
「認証完了」
無機質な声を吸い込んだ冷たい金属の壁が、目の前から消える。
「大したもんだな」
俺は素直に簡単の声を漏らした。
「ありがとうございます」
ヘルメット越しで表情が見えなくても、後輩がどういう顔をしているかくらい俺は知っている。
「おい、大丈夫か」
よろめいた後輩の荒い呼吸に気付いていなかったことに、俺は反省した。幾重にも施された防御をかいくぐり、コロニーの扉を開くというのは楽な作業ではない。
「悪い。無理させてたか」
「すみません」
「ほれ」
俺は後輩を背負った。
「先輩! 」
「ん、ちょっとくらい俺に先輩面させろ」
後輩は、焦った声でなにか言っているが、無理やり降りる体力もないらしい。ポッカリと壁に空いた穴の向こうに続く廊下に、軽い後輩を背負ったまま俺は足を踏み出した。
「危ないですよ。降ろしてください」
「俺はお前の腕前を知っているつもりだ」
「ありがとうございます」
背に触れる後輩の柔らかい肉体から、俺は意識を背けた。
人類の故郷が膨張した太陽に飲み込まれてから、長いときがたった。コロニーに散らばった人類は、小惑星帯の資源を奪い合いながら生きている。先輩後輩と呼び合う仲の俺たちの今回の任務は、正体不明のコロニーへの斥候だ。知力の後輩と体力の俺という絶妙で最高で最低の組み合わせに感謝しながら、俺は中心部と思われる方向へ足を進めた。
「すみません」
寝息を立てていたはずの後輩の声と同時に俺の背後で扉が閉じた。
「おい」
どういうことだという俺の言葉よりも先に、まばゆい光があたりを包んだ。
「ようこそ」
見知らぬ男が俺を見ていた。
「随分と選定に時間がかかったね」
同じ男の口から、俺に背負われている後輩へ、親しげな言葉がかけられた。
「どういう、ことだ」
「すみません」
俺の背から降りた後輩が身をすくめている。
「コロニーはそれぞれの問題を抱えている」
当たり前のことを口にする見知らぬ男を、俺は睨んだ。
「このコロニーでは遺伝子プールが不足し、多様性の喪失が間近だ」
コロニーごとに孤立している人類の課題くらい俺でも知っている。
「ようこそ、我々のコロニーへ。君を新たな仲間に歓迎しよう」
「は? 」
「先祖にならって言えば、君はこの子のお婿さんだよ」
色々と、理解できないなりに、俺は理解した。
「あの、嫌でしたか。でしたら元のコロニーへ帰っていただいても」
おずおずと消え入りそうな声を発した後輩を俺は抱きしめた。
「大歓迎だ」
お楽しみいただいていますでしょうか。 他にも作品ございますので、是非ご覧いただけましたら幸いです。
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これからも、朝のひととき、お楽しみいただけましたら幸いです