82杯目 いやがらせ
俺たちの実戦の勘を取り戻す戦いにソフィアを同行させる。
なるほど、ソフィアはなかなか優れた魔法使いと言える。
さすがにヒロルほどの特殊な型ではないが、それでもきちんと基礎を抑えた適切な動きができるタイプだ。
パーティに入れてもらえたのがよほど嬉しいのか、素直に言うことを聞いてくれて助かる。
「ゲンツさん、今の動きはどうでしたか!」
「問題ないけど、最後の方少し雑になってたよね」
「すみませんっ!」
「なんか、ソフィアさん、怒られて喜んでない?」
「ああ、間違いないな。不味いぞヒロル、このまま行くと敵が増える。
しかも、違う方向のだ」
「不味いですね……」
俺たちがダンジョンでのコンビネーションなどを確認していると、不可解なことがよく起こるようになった。
「またか……」
「トレインですか」
「ゲンツさん、私何をしましょうか!」
「怪我せず適切に動いてくれ」
「わかりましたゲンツさん!!」
トレインやらモンスターハウスやら、酷いときには戦闘中にモンスターをなすりつけられるなど……
ギルドに苦情を入れても、なぜか相手の素性がわからなかったりする。
まぁ、わかりやすく嫌がらせを受けるようになった。
「申し訳ありませんゲンツさん!!」
「いやいやいや、土下座はしなくていいから……」
「しかし、まさか宿泊先の宿に襲撃とか、もう犯罪じゃないですか」
「位階を奪われてもいいんでしょうか?」
「やりようがあるんだよなぁ……」
悪いことをするやつは、いろんな方法で悪いことをする抜け道を作る。
基本的には極悪な行為を繰り返さないと加護の剥奪なんてそうそう起きないから、スネに傷ある奴らを利用して大金で釣ってるんだろう、もしくは狂信者とかな……
「だから宗教は嫌いなんだ」
俺は修道院でお世話になっていたのである程度の敬意は持っているが、同時に宗教の嫌な面もよく見ている。過度な信教は人間を狂わせることを知っている。
「とりあえず、3人で2つのベッドをくっつけて使ってくれ」
「申し訳ないです」
「いや、いいんだ。
それより、もう、急ぐしかないな。
とっとと聖者のダンジョンをクリアして街を移ろう。
さすがによその街までついてきて嫌がらせするほど教会も暇じゃないだろ。
神の祝福を受けてしまえば、もう手出しできないからな」
「大丈夫ですかね……」
「なに、魔装具持ち3人、それと魔法使いという不浄の相手もできる組み合わせだ。
それに、俺も、掴んできたからな」
「ゲンツ、うまく引き出せるようになったのか?
私は全然だ」
「最初の氣を把握するのが難しいからな、ちょっとやってみるか、ケイトここに座ってくれ」
俺の正面にケイトを座らせる。綺麗だな。じゃなくて俺は他意なくケイトの手を取る。
「ゲンツ、皆が見ている、こういうことは二人きりのときに」
「ふざけるなら止めるぞ」「すまん」
それから俺は自分の内側に意識を集中する。
氣というものは、何か外からすごい力が生まれるわけではなく、自らの体内に本来ある力を引き出すんだ。
意識を内に、魂を感じるつもりで集中していく。
温かい、腹の中に、温かみを感じる。
これを全身に循環するイメージで広げていく。身体と向き合い、隅々まで行き渡らせ、そして巡らせる。
すると全身を巡り戻ってきた力が増幅し、再び全身に回っていく。
よし、すごくうまく行ったぞ。
「ケイト、俺の身体を流れている力、わかるか?」
「なんだか、温かいような……だんだんと、力強く……あ、熱い……」
「それが、氣だ……くはっ、もう、無理だ……」
ぼたぼたと汗が溢れてくる。
ただ、全身には力がみなぎっている。
これを戦闘中に常時巡らせているのが上のレベルの人達なわけだ……
「これは先が長い……」
「ありがとうゲンツ、何かが掴めた気がする」
「いいなぁ、お姉ちゃん」
「あ、あの、お、お二人はゲンツさんの、その奥方さまなのですか?」
「いまのところは未来の、ですね。ゲンツさん全然手を出してくれないんで」
「何言ってんだヒロル。お前もちゃんと瞑想しろ、魔力だって上の存在があるんだから同じ理屈だぞ」
「はーい」
俺たちも、新しいステージの扉を開くための努力は惜しまない。
この氣を巡らせる鍛錬をした後にトレーニングすると非常に効率がいいので、朝は瞑想からのトレーニングが常態化している。
嫌がらせのヒートアップのせいで、逃げるように聖者のダンジョンに挑むことになった。
しかし……
「あちゃー、もう手が回っていたか」
ダンジョンの近くまで行ける馬車乗り場にはいかにも怪しい風体の男たちが周囲をぎょろぎょろと監視している。
「仕方ない、歩いていくか……」
「すみません」
「なんか、ムカついてきたから絶対にやってやる」
それから俺たちは尾行や監視の目を掻い潜りながら街を出た。
「や、やっと外に出られた。街道は無理だろうな、ちょっと大変だけど、ま、これも楽しい冒険だ」
「すみません」
「良いのよソフィア、ゲンツ、あれ、本気で楽しんでるから」
「私たちも楽しそうなゲンツさん見てるのが好きだから」
「皆さん、素敵な人達ですね」
「よし、今だ、とりあえずあの森まで全力だ!」
俺たちは道を外れ荒野を全力で走る。
なんだか、ワクワクしてきたぞ、俺!




