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7杯目 正体

「うう……本当に、良かったです……」


 いい加減この美女を引き剥がさないと、パワーみなぎる身体が、懐かしい反応を示しそうになってしまうので、とりあえず女性を引き剥がす。


「す、すまないが、あの、どなた?」


「はっ!? す、すみません。

 申し遅れました。私、ヒロル=エスタールと申します。

 ゲンツ様のお陰で命を救われました……」


「命を救った……え、えええ!?

 あの冒険者!? いや、確かに、そっか、フードで、あああ!

 女性だったか! いや、あ、す、すまない失礼なことを」


「いえ、男物の装備をしておりましたし、わからないのも仕方ありません。

 本当に、本当にありがとうございました……

 その代わりにゲンツ様が……ううっ……」


 ついでバタバタと人が入ってくる。


「ゲンツ殿が目覚めたと聞いて参った」


「ヒロル、ゲンツ様がお目覚めになられたのですね!」


 これまた、長身のスラッとした若い美女が、少しキツめな感じが気高い雰囲気を作っている。

 間違いなく、俺の友人網に居るはずのない美女だ。

 それと、なんというか、ふんわりとした優しげな雰囲気と、その、豊かな女性らしい体つきが隠しきれない、いや、こんな人達がいるのかというくらいの美しい女性が二人入ってきた。


「キャシィ、メル。この通りお目覚めになられました」


「おお、ゲンツ殿……よくお目覚めに……あの時は……本当に……」


「我らが命の恩人にして英雄……本当に、ご無事で良かった」


 二人共恥ずかしげもなく抱きついてきたが、俺が耐えられる限界が近いのですぐに引き剥がす。

 

「わ、若い娘が、こんなおっさんに簡単に抱きついちゃ、い、いかんぞ!」


 勘弁してくれ、普段こんな若い娘と話すなんて、クイナぐらいだし、こんな距離感じゃない。

 それに、3人共、なんだか、俺を見る目が、怖い。

 俺は相手をよく知らないのに、相手は俺のことをめちゃくちゃ信頼しているこの差が怖い!


「お、落ち着くんだ。

 俺は別に逃げも隠れもしない。

 ま、まぁ、その、3人が無事で何よりだ」


 俺の発言に3人がピクリと反応し黙ってしまった……俺、何か言っちゃいました?


「怖かった……流れる血、二人が魔物を抑えてくれては居ましたが、いつ二人の屍と流れ込んでくるか……」


「倒しても倒しても減らない魔物、急がない行けないのに、身体はどんどん動かなくなるし……」


「放っておけばヒロルも死んでしまう、でも、どうにもできない……あの、恐怖」


 それから3人はワッと泣き出してまた俺にしがみついてきた……

 いつの間にか室内に居たドク爺もいなくなってるし、俺にこの状況をどうしろっていうんだ……

 そう言えば……


「俺、誰かに助けられたよな? あれは君たちが?」


「ふぇ、あれは……私の」


 ヒロルが応えようとしたと同時に扉がバタンと大きな音を立てて開いた。

 

「ゲンツ殿の病室はこちらか!?」


 部屋に入ってきたのは、目もくらむような美青年だった。

 貴族のような上等な服、それに全く負けることない、整った顔立ち、輝くような金髪、産まれてこの方こんな綺麗な男は見たことがない。

 そんな美青年はこちらを見ると、目つきが鋭くなる。


「ゲンツ殿、我が妹に何を?」


 背筋に冷たいものが走る。殺気。


「いや、俺は……」


「止めてよ、なんでゲンツ様にそんな態度なの!?

 嫌いになるよ!」


 ヒロルの言葉は彼にとって急所のようだ、殺気は瞬時に霧散しそれはもう慌てた様子でヒロルのご機嫌を獲る。


「ち、違うんだヒロル。そんなつもりはまったくないぞー。

 お前を救ってくれた英雄ゲンツ殿に無礼を働くわけないじゃないか。

 いや、本当にゲンツ殿、我が妹を救ってくださり本当に本当に感謝する。

 私も急いだのだが、転移柱は動かぬから10階から必死に、な?

 ギリギリ間に合って本当に良かった!」


「おお、では、貴方が私を助けてくれたんですね……3人共、いいかい?」


 俺は3人によけてもらい、美青年に向き合う、近くで見るとまつげなげー。本当にキレイだな。

 

「ありがとう、この命、君のお陰で助かった。

 さらに、もう少し冒険者を続けられる……

 本当に感謝している……えーっと」


「申し訳ない、名乗りが遅れた。

 蒼き雷鳴のリーダーをしているケイト=エスタールだ。

 妹、ヒロルの命を救ってくれたこと、心より感謝する」


「ケイトさん、俺も、命を救ってもらったこと、心から感謝する」


 手を差し伸べ、ぐっと固く握手をする。

 そうか、彼があの蒼き雷鳴のリーダーか、なるほど、これは持っている人間の雰囲気だ。


「さんは不要ですよゲンツ殿、今では貴方のほうが階位も上だし、なにより年上、さらに妹の恩人。

 どうかケイトと」


「階位が、上? ケイトは6とか7ではないのか?」


「いやいや、私はまだ4、鉄札だよ」


 彼が指の間でくるくると回すカードは鉄札、たしかに階位4のカードだ。

 俺のカードは銀札、5。

 1は木札(ウッド)、2は石札(ストーン)、3は銅札(カッパー)(アイアン)(シルバー)(ゴールド)白金(プラチナ)金剛石(ダイヤモンド)魔鉱(ミスリル)神剛石(アダマンタイト)、階位によってギルドカードは変化する。神の奇跡ってやつだ。


「それで28階層か……パーティとしても素晴らしいんだな青い雷鳴は」


 ダンジョンは深い階層ほど敵が強くなるが、10階層上がると別世界、5階層でも敵の強さが跳ね上がる。

 以前の俺は20階層で逃げ惑いながらが限界、28階層なんて夢のまた夢だった。


「はは、その話を聞いたらメンバーは喜ぶよ、今このまちでゲンツ殿は大英雄だ。

 若き冒険者の憧れだよ」


「そ、そんな事になっているのか……」


「そうだ、大事な話があった。

 もし身体が問題ないのならギルドへ一緒に来てもらえないかい?」


「ああ、構わないが……」


「貴方には正当に受け取る権利のあるものがある。

 それを譲渡したい」


「受け取るもの?」


「あの場で貴方が討ち取った魔物のドロップアイテム、それに、グレートボアのボスドロップ品だ」


「もらえるのか? 俺は獲得前に……」


「それは私に対する侮辱にも成り得るぞ?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべる、そうだな、ドロップアイテムの横取りは、ノーマナー行為となる。

 彼は、きちんと俺に譲渡の手続きをするためにギルドに連れて行くのだろう。

 失礼なことを言ったことを頭を下げて謝罪する。


「そ、そうだな。すまない。

 ありがとう、それではありがたく頂くとしよう」


「では、冒険者ギルドへ参ろう」


 こうして俺は、目覚めてからも怒涛の勢いで冒険者ギルドへと向かうことになるのであった。



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