65杯目 姉妹
「ヒロル、外で無断で魔法をかけるのは違反行為になりかねないぞ?」
「ああ、ごめんなさいゲンツさん。あまり周りに聞かせたい話ではなかったもので」
「ヒロル、あれは……」
「《《ケイトさん》》は《《わかって》》いましたよね? 私がゲンツ様のために死ぬほど頑張っていたことを」
「それは……」
「《《知っていましたよね》》?」
「ああ、知っていた」
「よかったぁー……これで私の勘違いじゃないことがはっきりしましたね。絶対に貴方にゲンツさんは渡しません。貴方は私の敵っ!」
ヒロルの言葉はケイトを苦しめている。ケイトの悔しそうな悲しそうな表情を見て、俺は。
「ヒロル、止めろ」
「……ゲンツさん、この卑怯者の味方をするのですか? まさか、もうすでにこの卑怯者に手籠めに!!」
「いい加減にするんだヒロル。君はそんな子じゃないだろ? ケイトは君のことをずっと心配していた。いつだって君のことを考えている。どうしたんだ? 何が君を変えてしまった? ヒロル、今の君とは話していたくない」
「ゲンツっ!! 良いんだ、私は良いんだ。ヒロル、私が悪かった。ゲンツ、急で悪いが、蒼き雷鳴は君との契約を破棄する。違約金がいるなら言ってくれ、だから、もう私達は街を出るから、ヒロル、私が、悪かった……」
「……何よ、何でよ、私、私、こんなに頑張って……でも、私……」
「ヒロル、とりあえず落ち着くんだ。ゆっくりと話そう。なにか誤解している。俺はケイトとは冒険者としての仲間だが、君が考えているようなやましい関係ではない? いや、やましいって、なんだ? 男女のとかそういうものではない」
「ちがっ、私が言いたいのは、ちがうの」
「わかった。違うのなら話そう。お願いだヒロル、姉妹がこんなことですれ違うなんて、絶対におかしい。きちんとお互いの話を聞くことから始めよう。世界に一人だけの姉妹だろ? 家族だろ? ちゃんと話し合おう。自分の殻に閉じこもるのはやめよう。俺はここにいる。ちゃんと話を聞く。そしてケイトもちゃんと話を聞く。だからヒロル、落ち着け、君がたくさん頑張ったこと、ちゃんとわかっている。ありがとう。俺のためなんて言われる程の男じゃないが、それでも、誰かの指標であるのなら、それに答えたいと考えている。だから、お願いだから家族がすれ違いでぶつかるのは……止めてくれ……家族じゃないか……」
やっちまった……落ち着かせるつもりが、話していて、色々こみ上げて、俺が泣いちまった……
魔法によって作られた静寂が、耳をキーンと鳴らしてくる。
「……ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい……だから、嫌いにならないで下さい……」
ぼとぼとと大粒のナミダがヒロルの瞳から溢れ出した。その顔つきからはケンが取れ以前の優しい可愛いヒロルの顔つきに近くなっていた。
「大丈夫、こんなことで嫌いになったりしない、ケイト、悪いが俺の宿へ行こう。それでいいかヒロル?」
ウンウンと頷くヒロルの肩を優しく支えるケイト。俺は、とりあえず、大丈夫だな、と安心する。それから支払いを済ませて俺の宿へと二人を連れて行く。ヒロルの背中を優しくなで続けるケイトの姿に、二人の絆が壊れないで済んだことに少し安心をした。あとは、きちんと聞いてあげればいい。それで、良いはずだ。
長期利用している部屋は正直グレードは低い。俺は寝られればいいので、部屋の中もベッドと机ぐらいのシンプル。荷物も全て収納に入っているからな。俺はベッドに座り、2つの椅子はヒロルとケイトに使わせる。
「……落ち着いたか?」
出来る限り優しく声をかける。
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。ヒロルらしくないから、驚いたけど、大丈夫。今は俺の知っているヒロルだ」
「ケイ、お姉ちゃんが、ゲンツさんと仲良くしているのを見たら、頭にカーっと血が登ってしまって……もう、どうしても許せなくなっちゃって、私はあんなにつらい思いをしてた間、おねーちゃんはゲンツさんと、私が大好きだって知っているのに……って思ったら、もう、止まらなくなっちゃって……ごめんなさい」
「違うんだ、私が悪いんだヒロル。わかっていた。わかっていたんだ。ヒロルがゲンツのことを好きだということ、応援するつもりだった。私は、そのつもりだったんだ、だが、だんだん、彼の傍にいるうちに、我慢ができなくなってしまったんだ。ゲンツを好きだという気持ちに抑えが効かなくなってしまって、そして、ヒロルがもうすぐ結果を出して来るという話を聞いたら、もう、私に悪魔が囁いたんだ……今しかないぞ、素直になれって」
「おねぇちゃん……」
「すまない、すまないヒロル私は、私は酷い女だ……」
「おねぇちゃん」「ヒロル」
二人は抱き合ってワンワンと泣き出してしまった。
うん、冷静に考えよう。いや、頭が恐ろしいほどに冷静だ。今、明らかに俺は、この二人に、気持ちを打ち明けられたよな。聞き間違えじゃないよな。
この俺が、こんな素敵なお嬢さん二人に、なんというか、そういう好きではない、いわゆる男女の好きという気持ちを告白されたんだよな?
こんな、華のように可愛らしいヒロルが俺のことをそこまで本気に? こんな、美しい華のようなケイトが俺のことを? え? は? いや、本当に?
思考が高速でぐるぐると回転する。俺の使ったことない回路は、貧弱だった。
「……うーん……」
「ゲンツさん!?」
「ゲンツさん!?」
俺は、ベッドにぶっ倒れた。




