63杯目 そわそわドキっ!
昨日は3次会に誘われてまた宿に連れ込まれそうになったが、今日は大事な日だから全力で逃げ出した。そして翌朝、早朝のトレーニングと朝市で朝食を楽しみ、店の前で開店をそわそわと待っている。がちゃり、扉が開き店の人間が俺を見て驚いた。
「おはようございます!」
「お、おはようございます。早いですね」
「はい! 相棒が待っているんで!」
「あ、はい、ど、どうぞ……」
俺は店に飛び込んだ。商品には目もくれずに奥のカウンターに向かう。俺の勢いにカウンターの店員も顔をひきつらせて対応してくれた。
「おお……」
猪突と猛進は、少し変化していた。力のルーンを組み込まれた猪突は無骨だった全体が引き締まってゴツゴツした外観がスマートになっている。特に大きな変化はルーン文字が全体に広がり、淡く光っている。野性味溢れる以前の姿も魅力的だったが、なんというか、野性味溢れる男性が正装をした時のような、内に秘めた獰猛さを一部隠したことで、より鋭い牙を秘めているような魅力を感じる。
猛進も堅固のルーンを組み込み、以前の分厚い安心感から流線型を取り入れたシュッとした外観に変わっていた。以前のボワッとモコモコした外観も好きだったが、ルーン文字が刻まれた姿は機能的な動きやすさとスタイリッシュさが両立しているように見える。結構大量のオーガの魔石も組み込んでいるからか、何やらオーラが増した気がする。
「ルーンの輝きは、今はわざと光らせておる。ダンジョンでは邪魔じゃから消しておくぞ。ルーンの力もあるが、魔石のおかげで全体的に性能が向上しとる。しかし、もう少し優しくしてやれ、崩壊するぞ?」
親方が操作するとルーン文字の光は消えてしまった。かっこよかったが、確かに全身光っているのは目立ちすぎる。
「す、すみません」
ドワーフの職人は似た話し方をするな。俺は猪突と猛進を装備する。
「おお、ぜんぜん違う」
「ルーンの効果はでかいからな。本当に大事に使うようにな」
「はい!」
やはり、何度味わっても装備の刷新は嬉しい。注文していた靴も受け取って店を後にする。いやー、今すぐにでもダンジョンに入りたくなってしまうが、今日は我慢。しっかりと英気を養って、明日からの日々に備えないとな。
浮ついた気持ちを整えるためにも、道具を確認し、少しでも不安があれば道具を揃えておく。薬は足りるか、道具は足りるか、きちんと確認をする。それと食事や水も。時間停止の恩恵を受けられる様々なアイテムを持っているが、過信は禁物だ。
「あのっ、ゲンツさんですよね?」
街を歩いていたら急に声をかけられた。振り返ると見るからに若い男の子が立っていた。
「ああ、そうだけど」
「あの、あ、握手してください! ゲンツさんの話を聞いて、尊敬しています!」
「へ? は、いや、俺なんかで良いの?」
「はい!」
そのあまりにも熱い視線に、俺は彼と握手を交わした。
「あ、ありがとうございます! 俺、ゲンツさんみたいな冒険者になります!」
「あ、ああ。焦るなよ、命を大事にな」
「はい!」
そのまま彼は走り去っていった。俺は、その場に残され、気恥ずかしさから頭をポリポリと掻いてボーゼンとしてしまった。今まで、あんな若い冒険者にあそこまで真っ直ぐな敬意を向けられることがなかった。バースやウィンドも俺を慕ってくれたが、あんなに綺麗で純粋な、敬意というより尊敬の念は感じない。きっと彼はこれからの長い時間、俺が物語の英雄たちに夢見た冒険者像を追い求めて戦っていくんだろうな。そう思うと、素直に応援したくなるし、俺自身もあの青年に恥じないように頑張らなければいけないな。そう思うと少しだけ、ニヤけてしまう。
「さすが英雄ゲンツだな」
「なっ、ケイト。見ていたのか?」
いたずらっぽくケイトが声をかけてきた。どうやら今の現場を見られてしまったようだ。恥ずかしい……
「まぁ、私もゲンツを助けた事で有名になってしまったから、気持ちはわかる」
ケイトはその美貌も相まってすでに街でもそれなりに有名なパーティになっていた。きっと俺なんかより気恥ずかしい目にあっているんだろう。噂によれば、女性人気が高いらしい。すでに男装の麗人ではなく、きちんと女子らしさを隠さない服装だが、まぁ、ちょっと中性的な感じは残っている。ケイトはもともとそういった雰囲気の服装が好きなんだろう。美しい顔立ちにスラリと伸びた手足、同性でも憧れるのは理解できる。特に戦闘時の姿は、慣れている俺でも見惚れることがある。華があるというのはケイトなんかのことを表しているのだろうな。
「昼食ったか?」
「いや、まだだ、ご一緒してもよろしいかな、英雄どの?」
「そういう事言うなら一人で食う」
「ははは、うそうそ、行こう行こう」
またケイトは自然に俺の腕を取った。すっと身体を寄せて上目遣いで。
「いこっ?」
ぐぬぬ、こやつ、可愛いな。最近、なんか、妙に、可愛さを出してくるから油断ができない。特にここのところ、露骨だ。
「あっ」
びくんとケイトが止まる。
「ん?」
その目線の先には……
「見つけた」
ヒロルが立っていた。




