60杯目 朝チュン
「今回死にかけて、君たちが助けてくれて、君たちや大地の息吹のパーティでの戦闘を見ていたら、ああ、こういうふうに長い時間をかけてパーティプレイを磨き上げて、ソロでは不可能な難関ダンジョンに挑んだりするのも、ワクワクするんだなぁって。今の俺のソロの限界を嫌というほど叩きつけられてしまったから……」
「あの数のオーガを見た時は、正直、死んでいると思ったよ……立ち上がった君を見て、本当に、涙を我慢するのが大変だった」
コトンと肩に頭を乗せてきたケイト。
「罠は仕方ないっス。今回のことは事故ッスよ」
「そうですよぉー運が悪かったんですぅ」
「それにしても良くあの状態で耐えていたな、どうやったんだ?」
「そのあたりの話し、詳しく」
「私も聞きたいです」
「そうだなぁ、とりあえず、まずは皆、離れようか」
近い近い近い、皆近いんだ!ブーブーいいながら皆俺を中心に輪になってくれた。俺はこの街でダンジョンに入ってからの話を皆にした。
「また、めちゃくちゃですね」
「ソロでオーガっスか」
「絶望するな」
「いや、俺だって死んだと思ったよ」
「でもその後8匹を相手にしてたんだよな?」
「いや、4匹だって」
「それにしたって、化け物」
「い、言い過ぎですよ?」
「運が良かった、というか、本当に死んでたようなもんだったし」
「はぁ……本当に間に合って良かった」
はぁーーーと皆でため息をつく。
「あ、あれ……?」
気がつくと、俺は自分が震えていることに気がついた。改めて自分に起きたことと向き合ったら、あの死に向かう場面が思い出され、今更ながらに恐怖が湧いてきた……そんな俺を皆が抱きしめてくれた。
「大丈夫だゲンツ、君は助かった。こうして私たちと共にいる」
「ああ、ありがとう……本当にありがとう」
それからしばらくは静かにお酒を飲み交わした。
「ところで、ゲンツは結局パーティを組むのかい?だったら我々はどうだ?もうすでに結構な連携は取れているし、都合がいいだろ?」
「確かにそうなんだが、すまんケイト、この話はじっくりと考えさせてくれ」
「ああ、わかった。これ以上は言うまい」
「すまんな」
「しかし、妹も、大変な男を好きになったものだ」
「あれは、憧れみたいなものだろ、特殊な状況下での」
「はぁ、本当に大変だな。あっ、そういえば、存在進化した魔物を倒した話を聞いていない!」
「ああ、ワーウルフの話?そんなに広まっているのか?」
「そりゃあ、アベルらゴールドパーティが自分たちを見つめ直すために旅に出るほどの衝撃的な話だからな」
「え、そんな事になってるのか?」
「ああ、私たちもこの街に来るまでに尾ひれや手足や翼の生えた類の噂話に困らなかったぞ?」
「……はぁ、悪目立ちが過ぎる……」
「ちょっと遅咲きの英雄的な感じになっちまってるからなぁ」
「吟遊詩人とかが歌い出しそうっス」
「早くちゃんとした成果ださないとなゲンツ」
「もうすでに凄いことをされているんですけどね……御本人の自覚が」
「いやいやいや、なんもやれてないぞ俺は」
「こうだからな」
ハッハッハーーーと皆は盛り上がったが、俺は本当に何も出来ていないんだが……
「とにかく、しばらくは一緒に潜らないかい?私たちもダンジョンに慣れたいし、それくらいならいいだろ?」
「いいのか?それはありがたい誘いだけど」
「そのままうやむやにしていけば計画通り」
「しっ!」
「ん?なんか言った?」
「何も言ってないっスよ!」
「そうよぉ~ささ、こちらもどうぞゲンツさん~」
「おっとっと、いやー、いい酒も多いなぁ!」
俺の記憶はここで途切れている……
ちゅんちゅんと鳥が朝を知らせてくれる。まだ太陽は顔を出したばかりの早朝の空気が開けっ放しの窓から入ってくる。
「うぐっ、頭いてぇ」
身体を起こそうとするが、動かない。
「お、重いっって……ど、どういう状態だ!?」
蒼き雷鳴のメンバーが全員俺の身体に絡みついている。ま、まさか……俺、全員と……
「うーん、ゲンツ、起きたのか?」
「け、ケイト、お、俺……もしかして……」
「いや、ゲンツは疲れからか先に寝ちゃってね、なんか寝顔が可愛いから皆で見てたら寝てしまったようだね。惜しいことをした。既成事実でも作っておけばよかったな」
「ば、馬鹿なことをっ!ほ、ほらほらー皆ー起きる時間だぞー」
「んぁー、あと5ふんー」
「まだ早いですぅー」
「俺には日課があるし、朝市も見に行きたいんだ。寝てていいから離してくれ」
皆の魅力的な感触はしっかりと覚えておくが、引き剥がす。
「少しだけ待ってくれ、私も日課に付き合おう」
「軽く身体動かすだけだぞ?」
「ああ、付き合うよ、朝市も行きたいしね。見るかい?別にいいけど」
「よ、よせやい」
ケイトがいたずらっぽく笑いかける。おじさんドキッとしちゃったじゃないか。俺も別の部屋で部屋着から運動用の服へと着替える。
それから二人で街をランニングし、柔軟や軽いトレーニングをこなしていく。
「ケイトの剣技はその柔軟さが影響しているんだな」
「そうだね、身体を鞭のようにしならせることでより強い攻撃を生んでいる」
「脱力と注力のタイミングは天性の物に鍛錬が乗っている、強くなるわけだ」
「はは、素直に嬉しいな」
「なんか、いいもんだな、人とこういう事するのは」
「でしょ?さーて、こんなもんかな?」
「そうだな、朝市も楽しめそうだ」
「私もだ」
俺たちは賑やかな朝市へと歩を進めるのだった。




