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21杯目 守り手

「はー、食った食った! この食事を食べたーって満足感が得られるのは良いよな!」


 何より、これだけ食べても胃に来ない。ずーーーんと来る感じとか、胸焼けとかそういった物が全く感じなくなったのは、本当に階位が上がって良かったと思う。

 そんな事と思われるかも知れないが、もう40も過ぎると、量が食えない、揚げ物がきつい、脂っこいものがきつい、次の日まできつい。と食事が生きがいの一つの俺にとっては本当にしんどいことばっかりなんだ。

 それが、すべて解決したことは、本当に、本当に、本当に嬉しい!!


「ゲンツさんは食べてる時が一番幸せそうですね」


「まあな、冒険者をするのだって、色んな場所の旨いものを食うためってのも目的の一つだからな俺は」


「ふふふ、良いですね。私もいずれはそうやって各地を……一緒に旅がしたいって、ずっと思ってます」


「なぁヒロル、たぶんああいう危険から助けられたからだと思うけど、俺のことを美化しすぎだと思うぞ」


「そんな事ありません!」


「まぁ、聞いてくれ。

 俺は、冒険者という生き方が好きだ。俺の行動原理は冒険快楽主義者的な人間だ。

 一般的には、どうしようもない人間だ。

 冒険の中でしか自分が生きていると感じられない、そういう輩だ」


「素敵だと思います!」


「はぁ、だめだぞ、そんな輩に引っかかったら……

 中には、その、女性を道具みたいに扱うような男もいるからな」


「ゲンツさんは私を道具として見てるんですか?」


「そんなわけ無いだろ!」


「だったら大丈夫じゃないですか」


「ぬぐ……いや、だが俺みたいなのに執着せんでももっと凄い奴らはいるだろ」


「大丈夫です。ここのところ、一生懸命頑張って、私がまだまだ未熟で、子供なことは解ってます。それでゲンツさんを危険な目に合わせてしまったことも……

 でも、私にとってゲンツさんは憧れなんです!

 だから、ゲンツさんが嫌だって言っても、勝手に憧れて頑張るんです!」


 ああ、いい子だ。間違いなくヒロルはいい子だ。

 これ以上、俺が自分を卑下するのは、彼女を侮辱することになるな。


「ありがとう。素直に嬉しい、俺が人の目標になっているというのなら、これからももっと頑張らないとな。まずは、明日、守り手を倒して戻って来る」


「はい、ちゃんと帰ってきてください。それと……

 おねーちゃんたちのことをお願いします。みんな無事に帰ってきてください」


「解った。約束だ」


「今日はありがとうございました」


「いや、俺も楽しかったよ。またな」


「はい、またっ!」


 いい笑顔だ。

 俺は彼女を見送り帰路につく。

 なんだかんだ、勇気づけられてしまったのは俺のほうかも知れないな。


「ゲンツさん」


 突然背後から声をかけられてびっくりして振り返ると、柔らかいものが頬に触れてきた。


「……お守りです。絶対帰ってきてくださいね」


「なっ……えっ……」


 そのままヒロルは振り返ること無く駆けて行ってしまった……

 俺は呆然と立ち尽くしてしまった……


「全く、さ、最近の若いものは……」


 去り際の顔つきは、幼さが少し抜けて、どきりとしてしまったことに、動揺を隠せないくらいには、一本取られてしまうのであった……


 その日の夜は、なかなか寝付けなかった……


「早いですねゲンツさん!」


 ダンジョンに向かうとすでにケイトが着いていた。

 それなりに早く来たつもりだったが、ケイトも緊張しているようだ。


「ケイトもな、俺も緊張しているみたいだ。

 ちょっとあっちでコーヒーでも呑まないか?」


「よろこんで」


 俺等は道をそれて近くのちょうどいい石に腰を掛ける。

 小さな魔道具に火を起こし湯を沸かす。

 コップに布のフィルターを入れてコーヒーの粉を入れる。

 時間停止する袋のお陰で香りが飛ぶこともなくお湯を注ぐといい香りが鼻腔をくすぐってくる。


「はいよ、砂糖や乳は使うか?」


「では両方少しでいいのでお願いする」


 俺はブラックだ。


「うむ、これはいい味わい、ゲンツさんはこういうのにこだわる質と見た。

 豆だけじゃなく、砂糖や乳も良い品を使っている」


 さすがは貴族のお嬢さんだ。

 その通り、俺はこういう細かな香辛料に金を使って良く後悔する。

 いまは質の良い物を自分で用意できるが、昔は珍しい高額の香辛料を買いすぎて、その香辛料や調味料を使う素材がお粗末なものになってしまうなんて失敗も良くしていた。


「やれるだけのことはやった。30階層の守り手の情報からしても、今の俺達なら十分乗り越えられる」


「我々は皆自分自身を、そしてお互いを信じている。

 きっと出来る」


 ケイトの表情は油断など微塵もない。

 試練に挑むための気構えがしっかりと出来ている。

 理想的な緊張状態にきちんと達している。

 若いのに大したものだ……


 しばらくするとメンバーもやってきた。

 今日はダンジョン最奥への挑戦権を持つ俺達以外は25階層までしかやってこない。

 邪魔は入らない。


「よし、行こうか!」


「やるっすよー」


「万全だ」


「行くわよぉ」


「問題ない」


「皆様よろしくお願いいたします」


 全員、いい顔をしている。

 大丈夫、俺達の準備は完璧だ。






 完璧な準備、完璧な精神状態、試練を乗り越える実力。

 すべてを揃えて挑んだ試練。

 30階層守り手への挑戦。

 重く分厚い扉を開き、巨大な空間へと俺達は入っていく。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 重い音を立てて扉が閉まり、空間に松明の炎が揺らめいて地面、壁、天井を照らし出していく。


「そう来るか……」


 ダンジョンに映し出される敵の姿、ずらりと並んだ剣士たち、狼に騎乗した騎士、弓手が弓をつがえる、その背後には魔法使いと癒やし手、そして、背後には一回り大きな鎧姿のゴブリン……すべての兵がゴブリンだ。そして、一番大きな鎧姿の魔物が……


「ゴブリンキングの軍隊か……ははは、神は我らに高い壁を用意してくれたようだ!」


「ああ、高い壁程乗り越えた先に視える景色が良いって聞くぜ!」


「こりゃお宝が凄そうっすね」


「打てば当たるから楽ねぇ」


「吹き飛ばす」


「神よ、我らに大いなる護りをお与えください……」


 大丈夫、正直、最悪の敵だが、全員覚悟ができている。

 折れなければ、負けることはない。


「さて、教えたとおりに行こうか……」


「「「「「「はいっ!!」」」」」」


 絶対に、超えてみせる!!

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