表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/157

141杯目 報告

「なるほど、報告とも一致しますね……」


 俺の話を一通り聞いたギルド職員は、怪訝そうな表情で報告書にサインをしている。


「半信半疑でしたが、超える方なら、可能なのでしょうね」


 これは階位の話だろう。


「それにしても、まだ結論は出ませんが、この規模のダンジョンが活性化した記録は……唯一、太古の昔に滅びて海底に沈んだバトランティックだけです……」


「それが事実なら、国民に避難を呼びかけなければなりません」


「えっと、アルバートレベッカ夫妻に声をかけるとかは?」


 あの二人は声をかけなくても、ダンジョンの異常には飛んできそうだけど。


「ミスリル級冒険者への連絡手段なんて……いや、やれることは全部やらないとな」


「デューンファールのガレク王なら、もしかしたら……すぐに連絡を取ってみます!」


「ギルドでも総力を挙げて、上位冒険者に声をかけます。クエスト難易度は特Sだ! ダイヤモンド以上の冒険者は、ほぼ強制参加だ!」


「マジか、特Sとか初めて聞いた。まぁ、国が滅ぶかもって話になるなら、そりゃそうか……」


「ダンジョンの入場制限もかけるぞ! 情報収集以外の入場は禁止だ」


「……だよなぁ……」


「ゲンツはどうするんだ?」


「情報収集の手伝いはしたいけど、ケイトとヒロルの状態次第だよ……」


「本当に申し訳ない!」


「いや、それはもういいから」


 ダンジョンで死にかけた人間がもう一度ダンジョンへ向かうのは大変だ。俺もよくわかっている。本当に死を意識したり、意識を失うほどの恐怖を経験すると、人間は根本から動けなくなることがある。俺たちも危ない橋を渡ってきたが、今回のように完全に意識を失う命の危機は初めてで、ケイトとヒロルが心配だ。


「それに、言わせてもらえば、ゲンツさんが一番心配じゃないですか?」


「いや、ヒロル、ゲンツはもう試したくて仕方がないんだ。見てみろよ、この小さな男の子みたいなキラキラした目。『ダンジョンに潜れない』って言われたら一気に目が濁って、探査目的なら入れるって聞いた瞬間、また輝きだしたんだぞ」


「え、マジで? それ、恥ずかしいな……」


「私は、王子様が一緒ですから怖くありません!」


「もちろん私も、隣に立つのが生きる目的だからな」


「ゲンツさんって……凄いですね、いろんな意味で。私は、正直ダンジョンが怖い……」


 俺たちが救ったパーティのメンバーは、たぶんもう二度とダンジョンには入れないかもしれない。仲間を失う辛さ、それもパーティの半分を失う経験は、簡単に乗り越えられるものではないだろう。俺もその気持ちを完全には理解できないが、少しはわかる。


「冒険者は、どこまで行っても冒険者だから、きっとまたダンジョンに心が引かれる時が来ると思う。ただ、傷ついた心を癒す時間が必要だ。今はゆっくり休むといい」


「……ありがとうございます」


「どんなに危険な目に遭っても、ゲンツさんが助けに来てくれるから、私は大丈夫です」


「そうだ、私も同じ気持ちだ。ゲンツは絶対に私たちを見捨てない。自分の身を顧みず、助けに来ちゃう奴なんだ……」


「おいおい、嬉しいけど恥ずかしすぎるだろ。そういうのは俺がいない時に言ってくれよ……」


 ギルドでの俺たちの聴取は終わり、この国を根底から揺るがすダンジョンブレイクを防ぐための激動の日々が始まった。


「ダンジョンの活性化や成長って、歴史に残るほどの大事なのに、俺たち、もう二度も関わってるんだな……」


 まだ休養が必要な俺たちは、その間に過去の情報を調べていた。そういえば、救ったパーティからのお礼というかお詫びのおかげで、俺の支払いは数ヶ月分は余裕ができた。よかった……


「ゲンツさんの功績も異常ですよね。こんな短期間でこれほど階位が上がったなんて、それこそアダマンタイト級冒険者になった伝説の存在のおとぎ話みたいです」


「しかもこんなに歳を重ねてからなんて実例、他にないよな」


「いやいや、ゲンツはもうおっさんじゃなくて、むしろお兄さんに近い感じがするぞ。かっこよくなりすぎだ」


 実は、また少し体に変化が起きている。体が最も充実していた頃に近づいている感じがするのだが、少し気持ち悪い。だから髭を伸ばして貫禄を出そうとしているけど、なんか自分の中身と合ってなくて、落ち着かない。それでも、30代半ばに見えるくらいには若返っている。そして、超えた壁は、確かにすごい。まるで自分の体じゃないみたいだ。


 呼吸は滑らかになり、上位の扉がそこにあるのも感じる。たぶん、ダンジョンにこもって鍛えれば、神気に手が届く自信がある。それと、未来視を手に入れた。生と死の狭間で得た、相手の行動の先が見える力だ。集中すれば視えるようになり、慣れれば大きな力になるだろう。最近の稽古では、皆の全力と対峙してそれを鍛えている。


「プラチナ、ダイヤモンド、ミスリル、そしてアダマンタイトか……俺が、なぁ……?」


「ゲンツは本当にアダマンタイトまで届きそうだな」


「私たちも、頑張らないといけませんね」


「素晴らしい主を持てて幸せでござる!」


「いや、本当、マジですごーい!」


「神様のお導きです……」


 そして、もう一つ、決めなければいけないことがある。


「どうする、国を出るか?」





 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ