127杯目 ロード
探索は順調に進んでいた。無理をせず慎重に進んでいるが、想定よりもスムーズに下階層へのルートを選べたのは、運が良かった。
「帰還石も手に入っているし、110階層で一旦、最後の補給と休憩を取れそうだな」
「帰還石がこんなに嬉しいと思ったのは初めてだ」
「さすがに、1週間以上ダンジョンにいるとハードですね」
「皆様には、どう感謝をすればよいか……」
「いや、金剛石級がいればもっと早く済んだんだろうが、俺たちしかいなくて申し訳ない」
「そんなことをおっしゃらないでください。本当に、本当に感謝しております。このような不躾なお願いを……」
「ちょっと皆さん、まだ何も終わっていないんですから、こういう会話は縁起が悪いですよ!」
「そうだな、すべてを終えてからゆっくり話そう」
「だから、そういう発言が……」
そう、フラグは立っていた。
110階層は城の内部のような構造になっていた。転移石の部屋へ通じる広間に、奴らが陣取っていた。偶然のように見えるが、俺には必然に思えた。
「騎士団か……そりゃ、そうだよな」
「壮観だな」
「強そうですね、雰囲気があります」
「神々しさすら感じますね」
「皆様、冷静ですね……」
リビングアーマーではあるものの、一揃いの甲冑騎士たちが隊列を成し、構えている姿は美しかった。その中央に佇むのが、今回の目的であるロードナイト。立派な甲冑を身にまとい、中身のない重厚な馬鎧にまたがっている。重装歩兵3、槍兵5、弓兵5、魔法兵2、聖職者2、そしてロードナイト。見事な布陣で、全く隙がない。
「奇襲は無理だな。正面から全力でぶつかるしかない。皆、疲れているだろうが、行くぞ?」
「ああ」
「大丈夫です」
「神の加護を」
「尽力します」
「では、騎士殿に挑もう!」
俺は通路から部屋に入る。敵は布陣を崩さず臨戦態勢に入った。緊張感が空間を支配する。
「偉大なる主よ、天界に座し、すべての命を抱きし者よ。汝の光を我が魂に降ろし、神聖なる力を我が手に授け給え。悪しき者を退け、正しき道を示し給うことを願わん。汝の名の下に力を振るわん!」
ソフィアの祈りにより、体が燃え上がるように熱くなる。疲れを知らない騎士たちとの戦いは短期決戦に持ち込む必要がある。最初から全力だ。
「天を裂き、地を穿ち、万象を断ち切る黒鋼の刃よ。我が手に宿りし力を刃となし、闇を斬り裂け。封印せし無数の魂よ、今こそ解き放たれ、敵を討て!
――『魔刃の流星』!」
ヒロルも、4属性耐性の高い騎士たちに有効な無数の剣を放つ上級魔法を繰り出す。重装歩兵が飛び交う剣を見事に大盾で受け止めているが、その陰からサクラが飛び出し、敵の中央で奥義を放つ。
「影よ、刃となり、敵を惑わせよ――『奥義、幻影刃舞』!」
「いくぜ相棒、全力全開、猪突猛進!!」
それに合わせて俺も突撃を仕掛ける。降り注ぐ矢と魔法をサイドステップで回避し、高速で近づく。スリル満点だ!
「燃え盛る薔薇よ、炎の刃となりて敵を包み込め――『ロサ・デル・カリエンテ』!
凍てつく薔薇よ、氷の花びらで敵を覆い尽くせ――『ロサ・デル・フリオ』!」
炎と氷の薔薇が無数に敵陣に咲き、一瞬で散る。その花弁一枚一枚がケイトの斬撃となり、敵を包み込む。まさに炎と氷の芸術だ。
その時、ロードの正面で力の収束が始まった。
「全員、正面から緊急退避っ!!!」
俺の叫びと同時に、ロードが剣を振り下ろし、光の道が開かれる。天井から地面まで消し飛ぶほどの一撃。ダンジョンはぐずぐずと元の形に戻ろうとしているが、この一撃を受けたら、盾も鎧も意味をなさないだろう。連発はできないだろうが、絶対に喰らってはいけない一撃だ。
「連発はないが、次がいつ来るかわからない。絶対に喰らうな、受けるな!!」
全員それを理解していたが、あえて声に出した。俺の突撃は槍兵の槍を腕ごと吹き飛ばすが、すでにパーツを回収して槍を構え直している。敵にダメージが通っているのは間違いないが、矢や魔法は絶え間なく降り注いでくる。俺も戦場を駆け回りながら戦い続ける。
ソフィアとヒロルがやや機動力に劣るため、そこに攻撃が集中しそうになるが、ケイトとサクラがうまく牽制している。俺たちの思惑とは裏腹に、戦闘は拮抗していた。それでも、無駄ではない。
「右側、弓兵の動きが鈍い。集中して落とす! 俺は左から陽動する!!」
地面を蹴り、壁を走って左翼から突進を仕掛ける。重装歩兵が俺を追う。最右翼の歩兵をサクラが狙うが、すでに警戒されていて背後の隙はない。わずかに空いた重装の隙間に槍兵がカバーするが、ケイトが切り込む。
「光よ、我が剣に宿り、天と地を断つ閃光となれ――『ルス・クレセント』!」
光の三日月が槍兵を左右に押し込み、その間隙をヒロルの魔法が貫いた!
「空に咲き、天を裂く神の咆哮よ。破壊の光を纏い、我が前に道を開け――『ディバイン・キャノン』!」
先ほどのロードの攻撃に似た光の大砲が敵陣に放たれる。重装歩兵が必死にカバーしようとするが、その大盾を弾き飛ばし、弓兵を壁面に叩きつけて粉砕した。そのまま弓兵がダンジョンに飲まれていく。
「これはハードな戦いになるな……」
ほぼボス戦だ、これは。




