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120杯目 我慢の限界

「ちょ、どうなってるんだよ、なんで同じ部屋なんだよ!」


「言っただろ、貸し切りにしたって。この部屋も結構いいだろ?」


「いや、素晴らしいけど……ってお前たち、躊躇なく脱ぐな!」


「酷いですよ、ゲンツさん。流石にゲンツさんに配慮してこれを用意したんですから……」


「入浴着……いやいやいや、それでも……」


「そんなに嫌ですか、ゲンツさん……一緒に汗を流して親睦を深めようという私たちは、そんなに迷惑ですか……」


 ソフィアが目をうるうるさせながら見上げてくる。くっ、確実に二人の策だが、俺は……まんまと折れた。


「すごっ……」


「流石は貴族も利用する個室だな」


「素敵ですねー」


「綺麗ー」


 3人はほぼ布一枚の入浴着だけになっているせいで、体のラインがしっかりと分かってしまうが、俺はもう意を決して湯を浴びる。


「あ~~、あったけぇ~~」


「ゲンツ、背中を流すぞ」


「じゃあ私はケイトの背中を流します」


「私はソフィア~。ゲンツさん、私の背中を流してね」


「くっ、ああもう、いいよいいよ、やってやるよ!」


「凄い石鹸がいい香り~」


「確かに、流石にいいものを使っているな」


「……ヒロル、ずいぶんと引き締まってきたな。肩周りもいい感じになってるぞ」


「ゲンツさん、それあんまり褒め言葉になってないんですけど、でも、まぁ、嬉しいかな?」


「それを言ったらゲンツ、身体はずいぶんと鍛え上げられているな……初めて会った頃に比べたら別人レベルだぞ」


「そうだな、若い頃だってここまで鍛え抜けてなかったからな。正直、嬉しいよ」


「良かったですねぇ~」


「それにしても、ソフィア……なんでこんなにすごいのにお腹とかはこんなにすっきりしてるんだよー」


「きゃっ! ちょっとヒロル、変なところ触っ、揉まないの!」


「全くだ……けしからん物を……私だって少し成長したんだが、ソフィアに比べれば……」


「風呂場で暴れるな、3人共。いろんなものがこぼれるっ!」


「なんだ、興味あるのか、ゲンツ?」


「見ますー?」


「お二人共、はしたないですよ」


「ソフィアは最後の良心……なん、だが……」


 ついつい凝視してしまった。入浴着が濡れてしっかりと体のラインを浮かび上がらせると、ソフィアはなんというか、芸術作品の母なる女神のように芳醇な体つきをしているのがわかる。


「やはりゲンツはソフィアみたいな身体が好きか……」


 ケイトの均整の取れた引き締まった体。しかし、別に何もないわけではなく、女性らしいラインもしっかりと膨らみを得ている。芸術としてはケイトの身体の完璧なラインも評価されるだろう。


「ふたりともドサクサに紛れてアピールしないでください! ゲンツさん、私だって頑張ってるんですよ」


 ヒロルは以前の柔らかそうな女の子っぽい体つきから、冒険者の女性らしい体つきになっており、かっこいい。しかし、女性的な膨らみは姉よりも立派で、全体として女性が望む身体のラインをしている。


「3人共、凄く綺麗だと思うから、あんまりいじめないでくれ」


「なっ」


「また……」


「……ずるい」


 俺も限界なので、湯をかけて泡と汚れを落とす。これだけでもかなりスッキリしたが、目の前の湯船に足を入れると快感が身体を包み込んでいく。


「あ~~~~、たまらん……」


「あ、私もー」


「ヒロル、ちゃんと流したか?」


「走っちゃダメですよ、ヒロル」


 姉と母にたしなめられる妹だな。


「はぁぁぁぁぁ、これは気持ちいいです……」


「ふぅ~、疲れが湯に溶けていく」


「やっぱり大きなお風呂はいいですねぇ」


 深く考えれば、女性3人と風呂に入るなんて異常事態だが、命を支え合ったパーティだと思うと、不思議と邪な気持ちはどこかに霧散していく……んだったら良かったんだが、浮いているんだよ、2つの山が……


「ソフィア、胸が浮いて、ゲンツが凝視しているぞ」


「きゃっ」


「ゲンツさんのすけべー」


「い、いや、ち、ちがっ! す、すまん」


 冷静になんてなれるか!!


「日が出てきたな」


「すごい空」


 見上げると、空が深い青からエメラルドグリーンに輝くように変化し、美しく澄んだ青空へと移り変わっていく。日の出にしか見られない美しい自然現象だ。ふわっと3人が俺の周りに集まってきた。


「綺麗ですね」


「そうだなぁ」


「今回の冒険も、頑張りましたね」


「ああ」


「ゲンツさん、いつもありがとうございます」


「いやいや、みんなで頑張った結果だから」


 くっ、隙がない。少しずつ距離を詰められ、上がろうとした先を先に腕を掴まれて制されてしまった。


「み、皆さん?」


「ゲンツ、良いものがあるんだ」


 ケイトが何かを取り出す。盆に乗せられたそれを見て、俺の本能が求めてしまった。


「ま、まさか!?」


「伝説の、温泉で飲む、キンキンに冷えたエールだ」


「い、いや、それは、身体が温まった状態での特に入浴時の飲酒は健康上の影響があるために勧められないものなんだぞ」


「ああ、だが、最高だよな?」


「いいの、ゲンツさん? ぬるくなっちゃうよ……?」


 悪魔のささやき。


 キンキンに冷やされたグラスが汗をかいている。


 グラスを、目の前に持ってくるんじゃない……手が、手が……


 黄金色の液体を飲み干した快楽に、身体は抵抗できなかった……


「んぐんぐんぐんぐんぐっ!! ぷはーーーーーーーーーーーーー!!!!!!最っ高だっ!!」


「さ、皆も……はぁ~美味しい~」


「あったまった身体に冷えたエールって何でこんなに美味しいんだろ」


「ああ、神よ、罪深き信者をお許しください」


「っぱコレだな!!」


 俺は、我慢できなかった……




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