102杯目 旅路
俺達4人はついに首都デューンファールを後にした。
砂上船に乗って北の港町へと向かっている。そこから船で最北の国アイスウィンドを経由し、北東のストーンピークへと向かう。アイスウィンドは極寒の地で外界へと繋がる大氷窟が存在するが、今の俺達にはとても外界に挑む資格はない。ストーンピークは山岳都市、鉱山と鉱石の国だ。高地野菜や険しい山々で鍛え上げられた動物たち、そして香草の産地でも有る。険しい渓流から取れる天然の川魚も絶品、そして、竜種の山と呼ばれるダンジョンが有り、竜の肉や卵にありつける。これは楽しみだ。ドワーフが作る精巧な魔道具も有名でそれにも期待している。
「ゲンツ、どうしたんだこんなところでボーっとして」
「ケイトか、いや、アイスウィンドとか外界の事を考えていた」
「いつかは、外界にも行きたいんだろ?」
「ああ、そうだな、俺に資格が与えられるなら、実際に見てみたいな」
「なら、進むしか無いな」
「その通りだ」
ケイトは俺の隣に立ち、顔を肩に乗せてくる。
「私も遠くまで連れてきてもらった……でも、まだまだ遠くまで連れて行ってくれると信じているよ」
「行けるとこまで、頑張ってみるさ」
「なーにイチャイチャしてるんですかっ!」
「ズルいですよ」
「そんなんじゃないって、って、くっつきすぎだからな」
「いいじゃないですか、もう」
「だめ、ですか?」
「……わざとやってるな?」
「えへへ、バレました?」
「だから止めようって言ったじゃないですか……」
「いや、ソフィアはいい破壊力だったぞ」
「また、そうやってー!」
「はは、怒るな怒るな。いやな、これからなんとか頑張って外界に行けたら良いなって話してたんだよ」
「良いですねー、きっと楽しいですよ!」
「私も、もっともっと世界を知りたいです」
「ははは、皆ゲンツにいい感じに毒されてきたね、私もそうだが!」
「毒されてって……」
「だって仕方ないじゃないですかー、もうゲンツさんの色に染まってしまっているんですから~」
「物は良いようだな、ま、責任は取る。
世界を巡って、目指すはミスリル……
目指すだけなら、俺みたいなおっさんだって出来る」
「厳しい道のりになるな、だが、それがいい」
「冒険者ですから!」
「そう、冒険者、そう生きていくと決めましたから!」
俺も、3人ももう迷いはない。冒険者として、まっすぐ進み続ける。その先に何があるかはまだわからない、わからないからこそ楽しい。それが、冒険者という生き方だ。
砂上船は北の港町に無事到着した。国外へ出る船の準備には2週間ほど時間がかかる。腕がなまらないように近隣のダンジョンで軽く日銭を稼ぎながら準備を進めていく。次の船旅はまずアイスウィンドへ、そして次にストーンピークへと長旅になる。合わせると2ヶ月位は船上での生活になる。そのためにも準備は万全にしておきたい。ダンジョン内で快適に過ごせる道具は、船上でも有用となる。
「さて、行こうか」
「ありがとう砂漠の国!」
「また来ますね!」
「次は強くなって帰ってきましょう!」
船上から船を見送ってくれる人々に手を振る。これは、なんと言うか、様式美になっている。旅の無事を祈る人々に送られて船は港を離れていく。2週間もすると、気温がぐっと下がってくる。船上で吐く息が白くなり、もう一週間もすると雪が降り始めた。
「この寒暖差はしんどいな……用意をしておいてよかった」
「耐寒、放熱マントは必須だな」
「これ、眠くなりますね……」
「わかります。あったかーい」
戦闘にも耐えうる装備なので、結構高い。ただ、次の場所である山岳都市ストーンピークも寒さの厳しい場所だから、絶対に必要なものだ。北へ向かう船が出る街で防寒対策はこれでもかと準備をしてある。厳しい登山道も多く厳しい土地なので十分に気をつけていかなければならない。
猛烈な吹雪によって航海は3日ほど遅れたが、アイスウィンドの港に到着をした。ストーンピークへの乗り換えは翌日、ぎりぎりになった。それを逃すと一週間氷の地で過ごすことになるので本当に良かった。その日は港で一泊する。夜は港町らしく魚介スープと鹿肉のハーブ香草焼き、それとホットワイン。お酒を温めて飲むのは寒いこの大地ではよくやることで、生姜やシナモンなどを入れて飲むことも多いらしく、身体の芯まで温まる。
「やっぱり場所が変わると料理も酒も変わるな」
「この厳しい土地で生きていくだけでも大変なのに、こうやって工夫して豊かに暮らす人間は強いな」
「この温かいワインにはちみつを入れたやつ、凄く好きです」
「生姜とレモンをはちみつに漬けたやつがよく合いますねー」
「暖炉の火を見ながらお酒を飲むのも、いいなぁ……将来は暖炉のある家も……」
「あれ、管理大変だぞゲンツ」
「そうそう、年に何回かは大掃除が必要で、そのたびに周りまですすだらけになるんですよねー」
「本物のお嬢様方は庶民の夢を潰してくるな」
「事実だからな」
「お二人のご実家は、立派なんですか?」
「たぶん、今頃前以上に大きくなってるんじゃないか?」
「そうかもしれないですねー」
「お兄ちゃんとか父さんとか、元気にしてるかな……」
「母さんが帰ってきたらもう行かせないかもな、父さんは」
「言う事聞く母さんじゃないでしょ」
「そんな感じなんだな」
「そういえばあんまり家の話してませんね」
「では、我が家の笑い話を今日の肴にするかいゲンツ」
「程々にしておけよー」
結局、一晩中腹を抱えて笑うことになって、船に乗り遅れそうになった。




