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第3話 昔の人って山越えて女を口説きに行ってたらしい

花丸木家の現在状況


次郎

昨日見かけた自分たち以外のプレイヤーを探索中


父蔵

お家で怪しい機械をつけてなにやら開発中


母絵

麓の町でバイト中


姉美

麓の町の学校で勉強中




「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

子供が登るには少し険しい、傾斜の急な山道を登るなか、次郎は見慣れぬ人影に声をかける。

「……だれ?」

「………」

次郎は携帯端末のカメラを物音がした方向に向ける。


普段の次郎なら、人見知りな性格から人を見掛けても絶対に声を掛けない。それどころか、一目散に逃げてしまうところだ。

しかし、今朝は違った。

昨日、姉の姉美に折檻されるなかで人間型ボクセルキャラクターを次郎は見た。

次郎は自分たちと同じ人間が住処の近くに居るのではないかと考えた。

森の中で見かけたボクセルキャラクター達の正体が気になり、それが見間違いでは無いことを確かめるために居ても立っても居られず、夕飯後で陽が落ちて外は真っ暗にも関わらず、住み始めたばかりの山を、夜の森の中を探索しようとしたのだ。

母の母絵と姉美が、野犬や熊が出るかもしれないと口酸っぱく注意したにも関わらず、次郎は好奇心を満たすためだけにライトも無しで意気揚々と家から飛び出そうとした。そんな次郎を止めるには、布団に簀巻きにするしか無かった。

一晩じっくりコトコト熟成させられた次郎の好奇心は、見張り役の父の父蔵が作業に戻るためにいなくなり、止められる母絵と姉美が麓の町に出社&登校したことで、誰も止めることが出来なくなった。

うねうねと身をよじらせて布団を脱出した今の次郎の好奇心は、人見知りを大きく超える好奇心ワクワク大爆発状態なのだ。

「だ、だだだ、誰!?」

とは言っても、付近に花丸木家以外の家がない山の中。

山を棲家にする野生生物かも知れず、勇気を振り絞ってもう一度声をかけてみる。が、やはり返事は返ってこない。

「僕の見間違いなのかな……」

見間違えだろうと、次郎は起動していた″くらふとわーるど″アプリを閉じ、カメラ機能をオフにする。


父蔵の作った″くらふとわーるど″アプリだが、携帯端末のカメラに写った風景や生物をボクセルに変換して画面に表示するというだけのアプリだ。

ちなみに、木を切り倒せばその場にはボクセル化した木と切り株が残るし、地面に生える草むらを刈って土を剥き出しにすれば草と土ブロックに変わる。しかし、当然のことだが肉眼で見ている風景をボクセルに変換するような機能は実装していない。

あくまで、携帯端末のカメラに映ったものを携帯端末の処理機能を使ってボクセルに変換するだけのあ遊び機能なのだ。


肉眼でボクセルに変換するなどといった魔法の力はない。

そんなものがこの世にあったら、ノーベル賞ものの逆にセンセーショナルなことなのだ。


次郎は昨日肉眼で見たのは自分の完全な見間違いと、肩を落として登ってきた道を下って行く。


「……………ふう」

木の影に隠れ、次郎をやり過ごした次郎とそう背丈の変わらない少年は汗を拭う。

「学校をサボってるのが俺だけだと思ってたぜ」

深く息を吸い、次郎の姿が見えなくなったことを再確認する。


ちなみに、少年の名前は晶という。

本来なら学校に行っている時間だが、学校に行くふりをして家出をしたのだ。

「親父にはもうウンザリだ」

晶は麓の町で強面の父親とお手伝いさんとの3人暮らしをしている。

ちなみに家出の理由だが、今朝も言い争いになったことが原因だ。

晶に立派な人間になって欲しいと朝から口うるさく言う町の有力者である父親の説教にうんざりし、学校に行くと言って家を飛び出した。そして、そのまま山向こうの町に住んでいるという母親に会いに行こうと一直線に目指したのがここだった。

車があれば山越えなどせずとも、山をぐるっと迂回して行けば1時間少々で着く程度の距離。だが、山向こうの母の住む町への公共交通機関の運行は廃止になって久しく、徒歩で行こうにも小学生が昼間歩いていたら人目がつくために、途中で知り合いに見つかって連れ戻される可能性があった。

都会と違い、晶の町は全員がほぼ顔馴染みと言っていい程度の人口しかおらず、母親に会いに行きたいから車を出して欲しいと協力をお願いしたところで、町の有力者であり、顔役でもある父親に連絡され連れ戻されて説教されるだけなのだ。

「見つかって説教されるぐらいなら、山越えでもなんでもしてやる」

晶は父親が大嫌いで、事あるごとに反発していた。

晶には自由はなく、事あるごとに口を出され、大好きな母とだってテレビ電話越しでしか会話をさせてくれず、会うことも甘えることも許してくれないからだ。


なにかと怒ってばかりの父親より、優しい母親の元に行きたい、母親に助けて欲しいと晶はずっと思っていた。

「この山を越えればお母さんのところまですぐなんだ」

村の最長老は、車がまだ無かった頃、山を越えて山向こうの町に行っていたと若き日の健脚具合を自慢していたのを晶は覚えている。

「お母さんに会いたい」

昔の人がどれほど健脚だったかはわからないが、山を越えれば母親に会えるという希望が、誰も登らなくなって久しい、道のなくなってしまった山を晶に歩かせたのだ。


しかし、車で送り迎えをしてもらっていた晶の足は急に動きが重くなる。

「疲れたな……」

晶が登り始めて2時間はゆうに過ぎている。そんななか出会った次郎から隠れるため、余計な体力も使ってしまった。

そんな足が上がらなくなった晶の前に、人が入れそうな大きさの洞穴が見える。

「熊とかはいないよな……」

先程の少年とすれ違ってから、まだ10分も経ってはいないはずと晶は携帯端末の時刻を見る。

人がすぐ近くに住んでいるということから、熊が近くに住処を作るのは考えにくく、熊はいないはずと洞穴の中を覗く。

「ぐるる……」

熊はいないが薄汚れた犬がいた。

「おまえさんの家か」

「ぐるるる……」

出てけとばかりに犬は牙を剥き出しに唸る。


森の中は急に暗くなり、眩い光とともに轟音が鳴り響く。


ドカーーーン!!ゴロゴロゴロゴロ……


「きゃあああっ!」

晶は耳を塞いで急いで洞穴の中に入る。


山の上は天気が変わりやすい。雷とともに洞穴の外では雨がぽつぽつと降ってきた。

「がるるる!」

「……出て行きたいのはやまやまだけどさ」

ぽつぽつと空から降り始めた小粒の雨が大粒に変わり、洞穴の外は一面が雨で真っ白になり、歩いてきた道は川になっていた。


晶は敵意の無いことを示すために笑顔を見せる。

「がる………」

「ありがとう」

犬は剥き出しにしていた牙をしまい、足を折って座る。

「少しだけ雨宿りさせてね」

その姿に安堵した晶は土の壁に背中をつけて座り込み、目を閉じようとした晶に犬は寄り添う。

「温かいね」

「…………」

晶はひんやりと冷える洞穴のなかで、温かい犬の体温を傍に感じつつ微睡の中に落ちていった。



「……怒ってる声がしたけど、ここかな?」

雨の香りを感じ、家に戻って河童姿になった次郎は洞穴を覗く。

「チノ〜、ごめんよ〜。ご飯持ってきたから機嫌直してよ〜」

次郎は魚肉ソーセージを手に、洞穴を覗く。



この犬、じつは次郎が家族に内緒で飼っている犬だったのだ。

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