表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

05 それから

 あれから、妹との関係は良好である。

 ……幸いコロナが治りかけだったのか、口づけ後に妹が感染する事はなく。

 僕は完治した。


 もしかすると、キスパワーなのかもしれない。

 混じり物だらけの家族愛純愛パワーがあったのかもしれない。


 最も、それは邪推かもしれないのだが。


「お兄ちゃんー!」

「ほいほーい、なにかね妹よ」

「私の手作りパンケーキ、食べて?」

「うおっ、これ美味しそうだな」


 休日の昼間。僕がリビングで、ソファに座ってテレビを見ていると、アキがキッチンからパンケーキののったお皿を運んできた。

 皿がダイニングテーブルに置かれる。


 ふむふむ。美味しそうなパンケーキだ!

 甘い匂いがし……ない。


 ん?


 ちょっと待て。


「なぁ、パンケーキっていうのはさ……普通メープルシロップがかかってるもんだよな?」

「そうだね!」

「じゃあこれにかかってるのは、なんだ?」


 僕は更に置かれたパンケーキを指差す。パンケーキ自体は普通のやつ、市販のものと大差ないように見えるのだけれど。

 上にかかっているタレ的存在が、赤かったのである。


 メープルシロップではない。

 全くもって違った。


「これ? 私の血だよ」

「嘘、まじで?」

「流石に嘘だよー。これね、ネットで話題になっていたデッドエンドソース」


 なんだその世紀末みたいなソース名は。


「なんだよそりゃ」

「まぁ簡単にいうと、超激辛ソースだね! 甘いパンケーキに辛さを加えたら、そりゃあ美味しくなるでしょう! ってこと」

「……なるかなぁ」


 彼女の味覚回路には時々違和感を覚えるけど、スルーする。僕の舌も、お世辞でもあまり良いとは言えないからな。

 どっちもどっち。


 それはさておき。


 僕は辛いものが最近まで好きだったんだが、ちょっとコロナ感染時に食べた激辛カップラーメンのせいでトラウマになってるんだよな……。


 辛いものを食べたら、前みたいに喉が死ぬんじゃないかと不安になる。


「とりま、一口頂くか」


 用意されたフォークとナイフで、パンケーキを四等分にカットした。

 そしてデッドエンドソースがたっぷりとかかった一欠片を、僕は口に入れる。


 ──瞬間、僕の喉は燃え尽きた。


 前みたいな柔い、遅れてやってくるタイプの辛さではない。いや、そうでもあった。

 まず第一に入れた瞬間から、予想を超える激辛が口の中を支配して、数秒遅れて更なる辛さが味覚を襲う。


 まるで味覚を破壊するかのように。

 破壊者のように。


「いででででぇででで!?!?!?」

「だ、大丈夫そ? お兄ちゃん」

「だだ、大丈夫なら……こんなリアクション、しないさ」


 別に僕は芸人じゃないからな。

 派手なリアクションは求められていないのだが。


 なのに、こんな反応をするってことは……その辛さは、本物ということになる。

 まぁ痛い。喉が破裂するぐらいには、痛い。

 辛いじゃなくて、ちゃんと痛いのだ。


 死にそうな痛みじゃない。

 死ぬんだよ。


 僕たちは、ここでッ!!


 ……なんておふざけは適度に挟みつつ。


「どう、美味しい?」

「う、うむ。美味い……美味しいぞぉ、アキちゃ?」

「なんか口調がお爺ちゃんみたいになってくれど」

「──辛すぎて、おかしくなったのかもな」


 しっかりとパンケーキを飲み込み、すくざまキッチンの蛇口からコップに水を入れて、それも飲み込んだ。


 これで辛さを軽減しようという考えである。

 まぁ意味ないかもしれないけど。


「それにしても、お兄ちゃんも元気になってきたよね?」

「……ん? ぁあ、そりゃあコロナは完治したし。お前にはコロナかからなかったしな。嬉しいことばかりだから、そりゃあ元気さ」

「良かったよかった」

「それに、愛しい妹の愛を受け止めつつ、その病的な愛を治してやるっつー。看病をする、楽しみもあるしな!」


 僕が自然な流れで彼女にそう伝えると、彼女は赤面してしまった。

 ……そう。コロナが治る直前に。

 僕がアキに誓った、約束だ。


 彼女が僕を看病してくれたように。

 次は僕が、彼女を看病してやるのである。


 その重い愛が歪まなくなる、その時まで。


「改めて聞くけどさ。それって、本当のことなんだよね?」

「本当だよ。僕は大事なところじゃ嘘吐かない人間だからね」

「……」


 彼女は黙ったまま、僕の座るソファで、右真横に腰を下ろした。

 隣なので、距離がかなり近い。


 そしてアキは僕の右手をゆっくりと握った。穏やかで優しくて、温かい感触。

 まるで天使に触れているかのような感触。病みつき、とはまさにこのこと。


 ずっと触っていたいと考えてしまうほど──。


 本当に、アキの手は魅力的だった。


「お兄ちゃん、ありがとうね」


 そして、彼女は僕にそう伝えるのだった。

 渾身の笑顔というか、幸せで満たされた笑顔。屈託のない笑顔を彼女は僕に見せてくれた。

 僕への絶大な信頼があるからこそ、アキはこう言ってくれるのだろう。

 この笑顔を見せてくれるのだろう。


 ほんと、可愛げがあって"病みつき"にさせてくれる妹だ。


 ならば僕も同じように返すとしよう。


「いやいや。それはこちらこそだよ。アキちゃんも、ありがとう。僕の看病をしてくれてさ……」 


 月並みな言葉で、気持ちよく。


「そしてこれからも、よろしく頼むよ。

 ───愛しの、僕の妹ちゃん」

もし面白い、作者可哀想と思った方はぜひブックマークや評価をしてくださると嬉しいです。

執筆の励みになりますので、よろしくお願いいたします。

ランキングに入りたいです……。お願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ