02 激辛
次の日のことである。
やはり、コロナウイルスは恐ろしい。……喉の痛みは全然引いておらず、それどころか肺も痛くなってきた。
頭痛はするけれど、吐き気はなし。
まぁ感染者の全体からすれば──僕は軽症者の方なんだろうけども。
それでもこれぐらい辛いのだから、重症者の過酷さは簡単に想像出来た。
「お兄ちゃん、体調はどう?」
「まぁ悪化したかも。とくに喉がやっぱし痛い……」
「そっか、これからもっと悪化しそうな気配はある?」
「ある、かも」
扉越しで、僕はベットで寝ながら妹と会話する。
「じゃあご飯とか食べられる時に食べちゃったほうがいいよね」
「そうだな」
「お兄ちゃん用にカップラーメンつくってくるね?」
「悪いな」
……我が妹はとても優しい。
優しすぎて、僕に対して献身的すぎて、逆に怖くなるぐらいだ。
今年で十五歳になる中学三年生の妹。
冬寺風アキ。彼女はどうやら僕をストーカーしているらしいのどけれど、僕はその可愛さに免じて許してやっている。
彼女が僕のストーカーだと発覚したのは、昨日なんですけどね。
「超特急で作ってくるよー!」
そうアキは言い残し、ドタバタと大きめの足音を立てて去っていった。
僕にカップラーメンを作ってくれるとのこと。
なんて素晴らしいのだろうか。
まだ看病されて四日ぐらいしか経過していないけれど、お粥には飽きてきていたんだよな……。
彼女はそれを察知してくれたのかもしれない。
『お兄ちゃん、お粥飽きてきたから。カップラーメンにチェンジしてあげよう』。
みたいな感じでさ。
「もしそうなら、アイツは凄いやつだな。優しすぎるぜ!」
限界を迎える喉を開いて、僕はそう声を出す。優しすぎる天使のような妹を、頑張って褒めたたえる。
コロナで無力である僕に出来る感謝は、これぐらいだろう。
数分後。
「ベンベンハロー、お兄ちゃん。カップラーメン持ってきたよー。昨日みたいに床に置いとくから、取りにきてね!」
「了解ー……」
扉越しにそう僕に伝えてくれる妹。
心なしか、ちょっと良い匂いがする。カップラーメンの匂いだろうか。
最近あまり食べる機会がなかったから、楽しみだ。
もっとも喉が痛いので、
完食出来るかは不安だが。
「今取りに行く」
「はーい、じゃあ私はリビングに行ってるね」
行ってらっしゃい。
僕も部屋を出て、廊下に行きます。
はい。……昨日より若干体調が悪化している気がしなくもないけれど、相変わらず重い腰を起こして扉へと向かう。
そしてゆっくりとドアノブを回して、部屋の扉を開いた。
アキが言った通り、床にはカップラーメンと割り箸が置いてあった。
「……ん?」
そして、驚愕する。
そこに置いてあったカップラーメンは、喉を破壊することが仕事の──『激辛カップラーメン』だったのだ。
信じられなくて、五度見ぐらいしてしまう。
二度見? いや、甘いね。
「げ、激辛って。いや、辛い物は好きだけどさ」
──それでも、喉がやられている時に食べるもんじゃあないだろう。
そこまで僕は愚かじゃないぞ。
「まぁもう出来ちゃってるし。貰うか」
しかし、僕は食べる決意をする。
なにせな。わざわざあの可愛い妹に作ってもらった料理なのだから。
お兄ちゃんとして、ソレを残すのは如何なものか。
ということで、熱気に溢れた激辛カップラーメンを持ち上げて部屋の勉強机へと運んでいく。
「熱い」
出来立てほやほやのカップラーメンは激熱だった。そして匂いから察するに、本当に激辛なんだろう。
パッケージにはそう書かれているし。
蓋を開けて出てきたスープは真っ赤だったし。
そう。これは、何の偽りもない激辛激熱ラーメンだった。
……激アツなのが、確率だったら良いのに。
と。
「ぁあ、冷めないうちに……食べるか」
取り敢えず食べてみることにした。
割り箸を割って、臨戦態勢にする。そしてまず、僕はお試し感覚でスープを一口飲んだ。
──熱い。
熱い。けれど。
……そこまで、辛くない⁉︎
「ん、案外行けるぞコレ」
その事実に気づいた僕は割り箸で麺を掴み、啜り上げた。
美味い。美味いぞ、これ。
喉も痛くないし。ちょいと熱すぎる気がするものの、いける熱さだった。
思っていたよりも、悪くない。
「ずるぅ……ずるっ、ずるる──」
はず、だったのだが。
「──ゲホッ、……ん?」
喉の奥から、何かが込み上げてきたのだ。
熱さ? だろうか。最初はそう感じたけれど、その正体は違った。
そう。痛み、痛み、果てしない喉への痛み。
──遅れてくる、辛さ。
「うぇえぇ!? っゲホッッ!!! ぁ"あ"!」
喉が割れそうなほど痛い。
辛めのスープが喉に絡みつき、刺激を与えてくる。痛い。痛い! 痛すぎる!!!
やはり喉が痛い時に辛い物は食べるべきじゃないな。
……そう思いながら、僕はその場で死んだ。
──いや、それは嘘だけど。
それぐらい喉にダメージを負ったのは、確かであった。
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