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第一輪:覚醒する好奇心

 屋台立ち並ぶ田舎町の大通り。


「今日の授業は過去一最悪だったな!」


 いつもの通学路をはずれ、忘れたくても思い浮かぶ今日の出来事に悪態をつきながら歩く。


「先生も先生だよなー!空気に変化する魔法を使うためにはどんなイメージが必要ですか?って、そんなもん分かるわけないじゃん!」


 それは現代では実行不可能な魔法を扱う空想授業の時。


「なんであんな想像しちゃったんだよぉー!よりによって⋯⋯⋯おっさんの口に吸い込まれなくてもよかったのにぃぃぃ」


 最悪の記憶を消すために道を変えたはずが思い浮かぶのはそればかり。


「くそっ!決めた!今日で俺は、おっさんを克服する!絶対にしてやる!」

 

 自暴自棄な決意をするバカ。


「まずはこの店からだ!指輪なんか並べやがって!もしも、もしも綺麗なお姉さんがやってたら、どうしよぉかなーーーー!」

 

 に見せかけた計算の元、

 屋台にしては煌びやかに彩られたそのノレンを開く。

 

「こんにちはー!店前に並んでる指輪を見て来たんですけどオススメのものとかありますかー?」

「おう!どうしたボウズ?さっきから荒れてんなー!気分転換になんか買ってくか?」


 奥にある椅子に座ってタオルで汗を拭くオジサマのスキンヘッドが、どんな宝石よりも輝いて見えた。

 


「ねぇ、おっさ⋯⋯おっちゃん。この指輪、本当にこの値段なの?」

「あぁ?やっぱ高かったか?」


 安いのでもいいから買ってけ!と無理やり渡された指輪には500バスと書かれた値札が貼られている。


「そうだな⋯なぁボウズ?今いくら持ってんだ?」

「えっと⋯⋯100バスちょっと」


 言うや否や、かなり長めのため息を吐くスキンヘッドゴリラ。

 これでも12歳には大金なんだよ!と言ってやりたいけど、ゴリラにそれを言う勇気はない。


「やっと興味を示した客が100バスしかない子供ってか。ははっ、ボウズ、そんなガラクタどうせ売れねぇからやるよ、もってけ」

「え!?いいの!?」


 ダルそうに手をしっしっと振って、商品の指輪をタダでくれると言うオジサマ。

 ゴリラなんてとんでもない。この人はキングコングだ。


 「子供が見ても分かるようなガラクタなんだ。そんなもんしか置けねぇ店だと思われるだけ損だからな」


 興奮する気持ちを抑えながら、手のひらを開いて指輪を見る。


 そこには、鈍くだけど虹色に光る指輪がある。


「ありがとー!おっちゃん!大事にするねっ!じゃっ、俺は用があるからこれでっ!」


 おう!大事にしてやってくれ!と言いながら笑っているおっちゃんの気が変わらないうちに、近くの公園までダッシュで駆け抜ける。



「うわぁ。まじで綺麗だなー。なんで、おっちゃんにはこの綺麗さが分かんないんだろ?」


 誰もいない静かな公園のベンチに寝っ転がって、ただただ指輪をながめる。


 どう見ても超がつく程の高級品だ。

 指の関節を覆うくらい幅広いピカピカの銀に、虹色に鈍く光る菱形の装飾。

 これで光が鈍くなければ、王様が着けていても不思議じゃない。


「俺にしか見えてないとかだったりしないかな?指輪に選ばれし者よー!なんてなっ」


 子供心がくすぐられ、少し気恥ずかしく思いながらも期待を胸に、指輪を左手の中指に嵌める。


「やっぱり何も起こんないか⋯⋯馬鹿な事してないで帰ろっと」


 夢から覚めさせられたような。

 なんだか、急に恥ずかしくなってきた。

 誰にも見られていないか左右を確認しながら体を起こすと、ベンチから足を下ろして立ち上がる。


「はぁ⋯⋯現実逃避してないで宿題でもやりますか。テレポ」


 家帰って宿題してテレビでも見よう。

 そう決めてテレポを使うために魔力を高めた、その時。



  《適応魔力⋯⋯認識完了⋯⋯認識の指輪⋯⋯覚醒》



 無機質な声が聞こえてくると共に、俺は意識を失った。




「んっ⋯⋯うわっ、アイカ姉ちゃん!?」

「あっ、やっと起きたっ!」


 鼻がくっつきそうな程の距離に、透き通るような瞳をパチパチしながら俺を覗き込む美女がいた。


「びっくりしたよー!たっくん、公園で倒れてたんだよ?ちょうどポーションがあったから私の部屋に連れてきたんだけど⋯⋯何してたの?」

「倒れてた?⋯⋯そうだ!アイカ姉ちゃん聞いてよ!」

「こらっ、話は聞くから、まだ起き上がるのはダメだよ!」


 顔を上げようとした俺の額に優しく手をのせるこの美女は、近所に住む七つ上のお姉さん、アイカさんだ。

 ちっちゃい頃から弟のように可愛がってくれていて、この辺りでは有名な美人さんであり、俺の初恋の相手でもあったりする。


「大丈夫!そんなことよりもさ!屋台でもらった指輪が魔法の声で多分俺選ばれたみたいだよ!」

「そっかぁ、よくわからないけど体はもう大丈夫みたいだね」


 支離滅裂な説明をする俺を見て、安心した顔をするアイカ姉ちゃん。

 

「それじゃ落ち着いてから話を聞かせて欲しいかな〜特に、選ばれたの辺りを詳しく聞かせて貰えるかな?」


 大きくパッチリと開かれた目に、うっすらと怪しい渦が巻いているのが見える。


 ⋯⋯よし、予想通り食いついて来た! 

 さすがアイカ姉ちゃんだ!


 単語を並べただけの無茶苦茶な説明をしたのは何もパニックになっていたからじゃない。それで充分アイカ姉ちゃんには伝わると思ったからだ。


 俺達は子供の頃から、異世界物語という誰が書いているのかも分からない謎の小説が大好きだ。新作が出る度に二人で考察を立てたり、妄想を膨らませてきた。

 アイカ姉ちゃんは一見、お淑やかなお姉さんといった感じだけど、伝説や選ばれし者といった話になると別人かと思うほど豹変する事がある。

 七歳の頃連れてって貰った川遊びで、川の深い場所に淡く光る魔法陣を見つけた時も、

『ポツンと不自然に輝く魔法陣⋯それなら、異世界物語で何度も読んだ!異世界が私を呼んでいるぅー!』と叫びながら沈んでいったっけ。

 

 とにかく、ことファンタジーにおいて、アイカ姉ちゃんの右に出る者はいないと俺は思っている。



「ふむふむ、なるほどね〜たっくんを見つけた時に魔力切れだったのは指輪が原因と見て間違いなさそうだね!」

「えっ、俺、魔力切れで倒れてたの?覚醒したからじゃなくて?うわっ、ダッセェー」


 ちょっとショック。かなりショック。

 てっきり、覚醒した指輪が俺に何かの能力を流し込んできた反動で気絶したと思ってた。


「ダサくないよ!選ばれし者を待ち侘びていた指輪がその力を覚醒するために、たっくんの魔力を空っぽになるまで吸い取ったってことだよ?あーもぉ!羨ましーーい!」

「そうか、そう考えればいいんだ!うぉぉ俺かっけぇーーー!」


 相反する魂の嘆きと喜びの声がこだまする中、チラリと指輪を見る。


「それでさ、まだ隠してることがあるんだけど聞きたい?」

「えっ、まだあるの?う〜聞きたいけど聞きたくない!」 


 両手で耳を塞ぎながら頭を横にふるアイカ姉ちゃん。


「そっか〜聞きたくないか〜、じゃ、この指輪、何色に見える?」

「私にはボロボロの指輪にしか見えないってばー!」


 いじわるだったかな。どうやら屋台のおっちゃんと同じく、アイカ姉ちゃんにもこの指輪の真の姿は見えないらしい。


「さっき虹色の装飾が付いてるって言ってたけどそれが嘘なの?本当は虹色の光が立体的に浮かび上がってるとか?」

「いや、そこまでかっこいいの言われると言いにくいんだけど。やっぱ言うのやめとく」

「なんでよー!たっくんそれはないよー!」

「まぁ黙っとくとか無理だけど!虹色のうちの一つ、(オレンジ)色が光を取り戻したみたいに輝きだしたんだ!」


 何故、一色だけなのかは分からないけど、細く横長く輝いている。覚醒したばかりだからか、それとも覚醒に段階があるのか。どちらにせよ七色(なないろ)が全て輝いた時、何かが起こる。そんな期待をさせてくれる指輪に興奮を隠せない。


「なにそれーそっちの方がかっこいいじゃんか!」

「そうかな?」

「虹色の光を集める冒険!異世界物語でありそうだもん!」

「もうアイカ姉ちゃんが続きを書いたらいいんじゃないかな?」


 続きとは言わなくても、アイカ姉ちゃんなら何か書けそう。


「それよりもその指輪って何ができるんだろ?なんらかの説明があったりしなかった?」

「それがなんにもないんだ。声もあれっきりだし。おーい、指輪さーん!認識さーん!ダメだね、反応なし」

「ん〜認識確認って言ってたんだよね?名前も認識の指輪だし。それが能力っぽいよね?」


 認識か。何ができるんだろ。

 もっと分かりやすい能力にしてくれたら⋯⋯。

 贅沢言うとアイカ姉ちゃんに怒られるかっ。


「そうだね〜パッと思いつくのは誰かの認識を変えたりできるとかかな?」

「それなら、幻覚とか錯覚系の魔法で充分じゃない?」  


 大概のことは難度の差はあれど魔法でできる。長い年月を待ち侘びたのかはともかく持ち主を選ぶような指輪なんだからそれ相応の能力があるはずだ。むしろそうじゃないと困る。箱を開けたらハズレアイテムでした、じゃこの興奮はおさまらないぞ。


「そっか〜そうだよね。他に認識を変えられるものって何があるかな?」


 認識を変えられるもの?

 そういや、空想授業の時、空気に変化する魔法を使うにはイメージの他に自分の認識を変える必要がある、って先生が言ってたな⋯⋯。壮大なイメージに自分自身が成ることができる。そう心の底から認識することが何よりも難しいとかなんとか。

 もしかして、そういった認識やイメージの過程を飛ばして魔法を発現できる力を持ってるとか?


 端的に言うなら、思いついたことをそのまま魔法で実現できる能力。


 それはそれでカッコいいと思うけど、今もう一つ直感的にあるモノが思い浮かんだ。

 そして、もしそれが正解ならこの指輪はとてつもない力を秘めていることになる。


「⋯⋯世界そのものの、認識を変えられるとか?」


 魔法を使う必要もなく。

 俺は空気だ!と思うだけで空気になれる。


 その意味が伝わったのか、アイカ姉ちゃんがゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。


「ねぇたっくん、もしよかったらなんだけど⋯⋯私の人生と交換しない?」

「却下!ちょっとそそられるけど絶対にいやだー!」

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