70話 旅立ち
場所、南西南都市近くにある森―――悪魔の森。そこにある集いの場。
そこには、真っ白な髪の老父、元学園長―――せロラン・リュードが丸板の上に座っており。
その隣に立つ、角が無いベリーショートヘアに、吸血鬼が纏っている黒のマントを着ている偸盗>」
から生まれた悪魔―――盗魔。
と、パーマでミディアム。髪の頭には四本の角を生やし、恰好はゴスロリ服を身に付けている両舌から生まれた悪魔―――裂魔」
残りの十悪もまた彼らの周りに集っていてーー
「いよいよ作戦まで四時間を切ったのう」
「念のためですが主人。我らが隠れる所は安全なんでしょうか?」
「確かにラスフも気になるメア。それと成功する確証はあるメア?」
今になって緊張からか、本当に心配してるのか二人がそう言う中、リュードが二人に対して意外な事を言い出す。
「チャンスを作ってくれる鍵がいるからのう」
「ほう、鍵か。この前言っていた奴か?」
「ほほほほ、それとは別の儂の教え子じゃのう」
「それなら安全でしょうね」
「ラスフも同じメア」
聞きなれぬ鍵という単語に、暗黒に包み込まれた死神―――闇死神がアルテミスのことを思い出して言う。
が、リュードは首を横に振ると、事実を伝える。
それを聞いた頷き合う。
「楽しみじゃのう」
「気を付けて下さい。ご主人様。十悪内で三位と四番目に強いお前たちの力を見せて来い」
と闇死神が言うと、
「ほほほほ。勿論じゃのう」
「言われずとも、分かっているに決まっているでしょう」
「ラスフもメア」
一人と二体はそれぞれそう言葉を返す。
それから元学園長らは行動に移した。
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海底楽園都市内にある、丘の上に佇む小屋の中。
小屋内には、古びた外装にそぐわぬ高価なテーブルと椅子が小屋の中央にあり、入り口側に座る紺色の清楚ロングウェーブへあの少女―――せロラン・ネチスィア。
元学園長の孫の一人だ。
ネチスィアは、前に座る双子の兄弟に向けて。
「後五時間ちょっとで、お爺ちゃんが来るんだって♪」
「てことは、スィア姉、頼まれたあれ、やるんだよね!」
「確か、アリマ・ヒョウガっていう奴を狙うっていう奴だっけ?」
嬉しそうに話す姉へ、双子兄弟の兄―――オムが、祖父に頼まれた事の実行の確認をし、端的にやることを口に出す双子の弟のマル。
「そうそう。それをすればお爺ちゃんが喜ぶんだ♪」
「万に等しい確率で失敗しても、駒がなんとかしてくれるから安心だよね」
「駒の彼もあと五時間ちょっとで来るんだっけ?」
「ええ、そうよ! 合流場所は'ここ’だから」
嬉しそうに言うネチスィアへ、ミスした時の秘密兵器を口にするオム。そしてマルが確認するように聞くと、姉が肯定するように 頷き、新しく二つの椅子を取り出す。
そして彼女らは、時が過ぎ去るのをただただ待った。
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東南東武装都市にある学生寮。
「ミラミラ聞いた?」
「なにを?」
ミラミラと呼ばれた少女は、きょとんと首を傾げて聞き返す。
「噂のアリマ・ヒョウガって言う人が、<交武祭典に参加するんだってさ」
「知ってるのナ。だって昨日、試合の映像を見せて貰ったしナ」
「そうだったっけ? 此処ん所忘れやすくてさ。それにしても凄かったよね。二対四を見事勝って見せるとかさ。聞いた話だと、最後に幼女を倒した時剣が光ってたんだってさ! その前は体が謎の光に包み込まれて」
「そうだったナ」
ルームメイトの少女が、話題のヒョウガの話をするが、その内容を知る彼女はそう言う風に言う。
そして見ていたことを忘れていた彼女が、少女―――ルーミランに気になることを言うと。
「そう言えばさ! ミラミラ」
「なにかナ?」
「ミラミラも悪魔が襲って来た時、光る何かの力で倒したよね」
「へ? あ、うん。そうだったナ」
悪魔の大群が襲って来た時のことを、思い出したルームメイトの少女。
その悪魔らの学園、都市襲撃には淫魔と言う幹部が関していた。
目的は未だに判明していないが、被害に関しては最小限に抑えられたと言う。
それもこれもルーミランが天使使いに選ばれたことが救いとなったと言って過言ではない。
「アリマ・ヒョウガって言う人も、アタシと同じなんだナ」
「へ? どういう事??」
「うんうん、何でもないからナ」
ルーミランの呟いた言葉に、首を傾げ、脳裏にハテナマークが浮かぶ。
ーーが、誤魔化すように、左右に手を揺らす。
そして出発の最終確認を済ます。
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天空武装都市。<交武祭典〉へと参加するチームが広場に集っており。
その二チームの片方の口を開く。
「我らがチーム<龍召喚>は必ず勝ち抜かねばならぬ。竜使いの名にかけて」
「トラニア様の言う通りだ。名高き龍使いがそこらのザコに負ける訳には行けない」
トラニアと呼ばれた少女は―――指を一本立てて言い放つ。
「厄介なチームがある。それは、チーム<風神>だ。そのチームのアリマ・ヒョウガは可成り手強いと言う噂を耳に入れてな」
「一体どういう風に?」
「この前下界に行った時に聞いたのだが、決勝戦で、四対二のピンチの試合にも拘わらず、見事勝って見せたという話だ。それも相手は学園最強のチームをだ」
力強いトラニアの言葉に、聞いていたルームメイトの少女は吃驚仰天していて。
「実は我が悪魔に襲われている男児を助けようとした時があって……」
「それは下界でですね。流石龍使い最強のトラニア様です」
「だが我だけの力では助けることが出来なかった。その時・・・・・・」
「今思ったんだけどね、一体何の話をしてるの?」
「その我が言った男も、どうやら我と同じ力を持っていると言うことだ」
「??」
下界へ買い物しに帰りに、偶然にも少年が路地裏で悪魔の襲撃を受けていたのだ。
少年の手元には一冊の本を持っていてそれが目的とも取れた。
ただの悪魔であれば普通に勝てていたのだが、相手はよりにもよって幹部の一体──吐魔だった。
あまりの強さに龍召喚一強いとされるトラニアでも手も足も出ない。その窮地に天使が彼女の前に現れたのだ。
その事を知らない仲間からすれば、その言葉の意味を理解出来ないのも当然だろう。
「何、ただの我の独り言だ。気にするな」
とだけ言い残すと。
それぞれ龍を呼び出し、その自分の龍に跨った状態で、下界へと降りて行く―――。
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北武装守護学園【ノキアル】の入り口。
「では皆さん、お気を付けて行って来てくださいね」
「ああ、勿論だ!」
先生に見送りの言葉を言われ、赤茶髪の青年―――アリマ・ヒョウガは、先生達へ手を振りながらそう返す。
「ヒョウガ。必ず勝ち抜いて決勝まで行くんださよ!」
「頑張って来るだべえ」
「まあ、頑張れ」
「グハハハハハ。闇に写りし影に呑まれぬようにな。愚者否、闇を払うかもしれん強きチームよ」
「はああぁ~。眠い。皆眠気に負けず頑張って」
「・・・・・・頑張れ」
見送りに来たチームの一角。
ヒョウガの友―――ルゼイン・ディブと仲間がそれぞれエールを送ると。
「有難う。ルゼイン、それに皆」
と言葉を返す。
もう一つの、チームで見送りにやって来たエデロアたちは。
「アーティナ、皆と協力して勝ち抜くんだよ!」
「お前達なら必ずいい結果を出せると信じているから」
「気持ち良くなってきて・・・・じゃなくて、自分たちの全力を尽くして、そして勝って来てね」
「カナミ、絶対勝って来てね!」
「皆キをツケテ行ってきて」
「目指せ世界一」
とそれぞれがルゼイン達同様にエールを送ると。
「ありがとう」
「が、頑張って来るわよ!」
「うん、心配ありがとう」
「勿論そうするつもりですの」
「はい、分かりました」
「そのつもりだよー」
其々が言葉を返す。
―――そして俺はエイトの元に行く。
「んじゃあ、言って来るぞ!」
「ああ、分かったよ。くれぐれも気を付けて、無茶な事もあまりしないでくれよ!」
「ん・・・・・・!? 分かったぞ! んじゃあ、行って来る!」
「行ってらっしゃい」
エイトに旅立ちの挨拶をすると、彼は気遣いの言葉と、心配の言葉を掛けてくれた。
その言葉を噛み締めた彼は分かれの挨拶を交わす。
「アミリちゃん、頑張ってきてね」
「授業があるから見に行けないけど、応援してるぜ!」
「ロ、ローゼン、チャリ、ありがとう。行ってくるわね!」
アミリへと近付いてきた蜂蜜色の髪が特徴的な少女―――ローゼン。その隣に立つ鶯色>」
の髪の少女―――チャリが声を掛けてきた。
少女は親友二人に、可愛らしい笑顔振り撒いたまま、そう言葉を返すと。
「「行ってらっしゃい」」
とローゼンとチャリが言い。
―――そ、それから見送られたから、私は手を振り返した
そして、皆の元へアミリは向かう。
そしてカナミもエイトの元へ向かう。
「決勝戦の最後凄かった。カッコ良かったよ」
「あ、うん…ありがとう」
「この勢いで勝ち続けておいで! 見に行けないのは残念だけだけど」
「うん、頑張ってくるね! 気持ちだけでも凄く嬉しい」
脳裏に試合の映像をフィッシュバックするエイト。
そんなエイトは迚悔しそうな表情を見せるも致し方なく。
その台詞を聞いたカナミは、頬を薄すらと赤らめながら言う。
「それじゃあ、私は行くね」
「行ってらっしゃい」
旅立ちの挨拶を交わし、カナミは皆の元へ。
その頃。ヒョウガの元へと一人の見知らぬ少女が近付いてた。
「ん・・・・・・!? 誰だ?」
と彼が尋ねると、少女はおどおどしながら言葉を紡いだ。
「あの・・・・・・その~・・・・・・え~と、これを受け取ってください。このお守りは凄く効果があってとても凄いんです。多分…危険からも身を守ってくれて」
「ん…誰だか知らないけど、ありがとう。大事にするぞ!」
「此方こそありがとうございます。凄く凄く応援しています。絶対に勝ち続けて下さい」
紫色のお守りを、受け取ったヒョウガは右手にギュッと握り締めてお礼を言う。
するとその子の目がキラキラと輝き始めて、応援メッセージを送る。
と、その時ーーー幼女が腕をグイッと引張って来た。
「妾の未来の婚約者に気安く近付くななのじゃ」
「未来の婚約者>ですか。こんな小さな子と!?」
「否、違うぞ? 何て言えば良いのやら」
とんでもないことを言い出す紫髪の幼女―――リーフ・チェレヌ。
リーフのセリフを聞いた少女は、次第に憧憬していた彼の顔が、ばりっと皹が入り瓦解していく。
「そんな楽しそうにしていて、よく言えますよね。もしや、ヒョウガ先輩は幼女がお好みなんですね」
冷たい眼差しを向けてた彼女は、学生寮の方へと足早に去ってしまう。
沢山の人に見送られながら、二チームは男の先生と共に崖を下り、そこから都市内にある学園から歩いて十分の港へと向かった。




